第三百九十一話
次期皇帝が言ってるのに従わないなんて軍隊ってアホじゃないのかなって思うじゃん。
思うんだけどさー、軍が行政に組み込まれてる系の国、高度な政治体制の国だとこうなっちゃうんだよね~。
形式が整った書類がないと動けないのよ。
あと法律の後ろ盾とか先例があればいける。
どういう意味かっていうと、要するに公務員なのよ。ワイら。
これがさ、施設の利用許可とかだったら融通きかせられるんだけどさ、判断間違えるとバリバリ人が死ぬタイプの仕事なのね。
だから兵士個々の判断する権限が極端に小さいわけよ。
上官が黒を白っていったら白だし、正式な形式で明確に責任者が記された書類を送られたら【従う】以外の選択肢がないのよ。
拒否したら処分されちゃうし。
いや皇帝陛下に逆らったら死ぬんだけど、その判断をできるのは超シゴデキ上司なわけ。
「次期皇帝陛下が言いました。状況的に皇帝陛下に違いありません」
って状況でも上が「偽物だ」って言ったらそうなっちゃうし。
DNA鑑定しますって時間かかるわボケって話で。
それを防ぐために太極国では専属の宦官がいて、ラターニアだと秘書官と家紋的なもので判断する紋章官が真正を保証するんだけど、……シーユン専属の宦官はすでに死んじまったとのことである。
ウチら銀河帝国はそういう状況でも証明できるように生体認証してるし、クローンには製造番号が振られてるわけね。
だからウチらから見ればアホの集団だってのはわかるし、判断ミスって言うのは簡単なだけど……公務員的には同情しちゃうわけである。
「婿殿、破壊せよ」
おっと一番上の上司からの直接命令だ。
でも殺したくないじゃん。
だから俺はどうするかっていうと。
無言。
「あーあーあーあー、なんかサウンドドライバが落ちたかな? 交戦しまーす」
なんわざとらしい独り言を言いながら、接近。
ビームライフル撃ってくるけどそれはよけちゃう。
当たらなきゃどうってことはねえのよ。
「な、な、なにいいいいいい! あいつライフルを避け……」
足の関節部を踏み潰す。
この茶番が相手に伝わりゃいいんだけど。
「感謝する」
伝わったわ。
他の連中も近接格闘で行動不能にしていく。
男子やクレアも意味がわかって参戦。
弾丸つかめる連中だ。
やる気のない銃撃なんて当たらんよ。
これで俺たちが殺しにかかったら銃撃も激しくなるんだろうけど、幸い機体の【破壊】だけである。
嫁ちゃんもわかってるから【殺せ】って言わないんだろ。
【破壊せよ】なんて変だと思うわ。
その辺は夫婦の空気ってやつよ。
クレアはぶん殴ってカメラ破壊。
エディもサクサク斬っていく。
「レオ、早く帰ってミネルバとイチャイチャしたい」
「あいよ」
婚約者とイチャイチャしたいよねー。
わかりゅー。
みんなパイロットが死なないように手加減した。
というかね、手加減するだけの余力があった。
やる気がないってのはその通りなんだけどさ、それでも地方軍のエースクラス。
もうちょっと苦戦するかなって思うじゃん。
「皆のもの! 投降せよ! 我らの負けだ!!!」
明らかに指揮官と思われる機体がやって来た。
「太極国ラターニア方面軍リャン少尉だ」
「銀河帝国レオ・カミシロ准将だ」
「一騎打ちを所望する」
あー、もうさ、要するに責任者が首で勘弁してくれって!
そういうの嫌い!!!
「はいはい、来いや!!!」
と言いながらブレード格納してネットランチャーを取り出す。
粘着ゲルがついてて食らうと絡まる仕様だ。
「な!!!」
暴れれば暴れるほど絡みつく。
と言ってもナイフで斬ればいいだけなんだけどね。
でも意味はわかるだろ。
「はい捕獲。あんた捕虜でこれからシーユンの預かりな。文句は言わせねえ」
「ぬ、ぬう! ……感謝する」
ということで捕虜の皆さん収容。まずは隔離して屍食鬼の検査。
下っ端は感染してないと思うんだけどね……。
「レオ、大丈夫だよ」
ケビンに言われた。
今日はV.I.P.三人娘は診療所のお手伝いだ。
というか捕虜に会わせるためにシフト組んだ。
とはいえ看護師用作業服で会わせるわけにいかない。
「シーユンは着替えてね。クレアとカミシロ家の女性騎士は手伝ってあげて」
ということで例の皇族の服に着替えてもらう。
ちなみに服はうちの方で作り直した。
いやシーユン、背が大きくなって着られなくなったのよ。
だから帝国とラターニアの歴史学の専門家とか民俗学の専門家とか服飾美術の専門家を総動員して同じ物を作り直した。
一度作業工程をすべて録画しながら解体。
化粧もラターニア側の資料から再現。
間違ってても「がんばりました」で許されるくらいのクオリティで作った。
ラターニアは「し、執拗すぎる……」と露骨にどん引きしながらも「だから帝国は信用がおけるのか」って感心する謎の好感度上昇イベントも発生した。
いや単に銀河帝国はこういうの得意なだけなのよ。
それぞれのクオリティはがんばった。
突貫作業とはいえ、生地や染めは人間国宝の手によるもの。
冠や装飾品も人間国宝の細工である。
ただクオリティに満足できなかったのか巨匠が、
「納得できるものを作らせてください」
って懇願するので作ってもらってる。
価値をお金で算出できないタイプのやつである。
クレアが戻ってきた。
「シーユン固まってたよ。国宝クラスじゃないかって」
「そうだよ」
親指を立てる。
ただし作ってる人が国宝なんだけどね。
シーユンがやってきた。
荷物運搬用のカートに乗ってる。
運んできた女性騎士に声をかける。
「もうちょっとマシな運搬方法なかったの?」
「ありません!!!」
ないのかー。
あとで考えよう。
嫁ちゃんもそのうち使うだろ。
で、ガラス越しの面会室に高そうな椅子を置く。
これも人間国宝の細工なんだって。
こっちは嫁ちゃんが戦勝宣言で使う予定だったやつ。
シーユンが使っちゃったから作り直すんだって。
もはや意味がわからん。
リャンが平伏していた。
俺はシーユンの後ろで休めの体勢で立っていた。
「面を上げよ」
シーユンがそう言うとリャンが顔を上げた。
本式は顔を隠すらしいんだけど、今回はなし。
本人じゃないと意味ないから。
「このたびは大義であった。以後は我に仕えよ」
「ははー」
シーユンの役目はそこまで。
次にクレアが説明する。
「皆様には検疫後シーユン様の警護にあたって頂きます。なおシーユン様はご自身たっての希望により、引き続き三人部屋で……」
というわけで居候部隊ができた。




