第三百九十話
「もう勝手に治療しようぜ」
完全にキレた嫁ちゃんに食堂で甘いチョコレートドリンクを飲ませて落ち着かせる。
するとそれを見てたイソノが言った。
「あん?」
「だからさ、治療目的で軍事介入すれば? ケビンのドローンで駆除薬射ってもいいだろうし」
「天才か?」
そうか国境地帯でチマチマやってないで治療してしまえばいいのか。
生物兵器って言われそうだけど……そもそも他国と条約結んでるわけじゃないし。
……いいのか。
「シーユンが許せばいいはずだ。ちゃんとビラ撒いたりしろよ」
やだ……イソノが頼もしい。
「イソノ……もしかして屍食鬼じゃないよね?」
「殴るぞバカ」
すると妖精さんがとびっきりの邪悪な顔して現われた。
「ハッキングしました~!」
「ハッキング? システムの互換性ないのに?」
「がんばりましたよ~。情報ってのはなんかしらの波形に変換するしかないんで……ま、その辺の説明はいいとして結論としては、解析してやりました」
「お、おう。つまり?」
「私の合図で太極国すべてのメディアでシーユンが助けを求める映像が拡散されます。これで今まで情報統制してた首都や主要都市にも情報が行き届くはずです。もう壊しちゃいましょ。あの国」
一応、本人に確認する。
「シーユン、こないだ撮影した映像広めるけど……いいかな?」
「はい。そうじゃないとイーエンズ一族の犠牲は無駄になります! 私はもう覚悟してます」
「わかった」
破壊と再生。
再生のために一度破壊する。
そうするしかない。
思えばシーユンを手に入れるために皇帝一家の死亡情報を流したこと。
それは屍食鬼最大の判断ミスかもしれない。
いや、もうそれしか手段がなかったのか。
武道でも戦争でも同じだ。
カードゲームに似てる。
相手の持っているカードを使わせず、自分の得意な戦術を押しつければ勝てる。
そういうゲームだ。
デッキ枚数は少なく。
だけど外からの妨害に強い。
それが理想だ。
俺たちはシーユンを立てることで、太極国皇帝による討伐カードを封じた。
あくまで寄生虫の話だ。殺し合う理由はない。
次にシーユンを寄こせというカードを本人による否定で封じ、シーユンカードによって寄生虫問題で次代皇帝の名の下に寄生虫の根絶を宣言する。
文句は言わせない。
外交的にはゲームセットだろう。
俺たち銀河帝国的にはかかった費用を交易で取り返せばいい。
あくまで対等な取引として。
そうしたらようやく帰れる、家にね。
いやー、長かった!
一時はどうなるかと思ったが、ようやく内政パートだよ!!!
はっはっは!
なんて思うじゃん。
その日、作戦実行を前に俺たちはソワソワしてた。
従軍記者のお姉さんは俺たちの様子を撮影する。
重大発表だ。
「会見十分前です」
太極国の正装をしたシーユンは緊張していた。
うしろにはラターニアの科学技術庁長官なんて人や大学関係者も控える。
俺たちはこの問題をあくまで寄生虫の問題としていた。
戦争ではない。
人を操る寄生虫によって乗っ取られた国への援助だ。
だから俺はシーユンの手を取る。
「大丈夫。深呼吸しようか」
「は、はい」
シーユンが深呼吸して会見が始まる。
「やりますよー! ファイアアアアアアアアアアッ!!!」
妖精さんが合図を出す。
ちゅどーんという爆発エフェクトと同時に全ネットワークが妖精さんの手中に入った。
まずはシーユン。
「愛する民よ聞いてほしい。我は第三皇子ミン・シーユンである」
将軍家の【チャン】はわざと外したようだ。
「我が国はいま屍食鬼の侵略を受けている。皇帝陛下、皇后様、兄上たちは崩御された。……みな屍食鬼による暗殺だ。屍食鬼は人を殺し、その身体を乗っ取ることができる。余はラターニア、並びに銀河帝国の手を借り駆除方法を見つけ出した。愛すべき民よ! 今こそ立ち上がれ! 屍食鬼から国を取り戻せ! 治療法はすでにある! 恐れることはない!」
このスピーチにどれほどの力があるかはわからない。
映画だったら民が奮起するだろうが。
もうその元気すらないかもしれない。
ここからはバトンタッチ。
詳しい説明をラターニア側の大学教授が説明した。
太極国がネットワークを取り戻した。
正確に言えば物理的に開戦を切断し、サーバーを破壊するまでの4時間みっちりと特番を流してやった。
屍食鬼による侵略はこの日、太極国の全国民が知るところとなった。
ラターニアはすぐさま医療チームを派遣。
革命軍が選挙した惑星で医療援助をする部隊を大量増員した。
俺たち帝国軍はもう甘いことなんて言わない。
勝手に惑星に降り立ち治療する。
攻撃されたら反撃。
ボコボコに……ってのを予想してたんだけど、まだまだ国境付近。
なんとなく噂は聞いてたらしい。
とにかく治療をしまくる。
本当はこういうの良くないんだけどね。
自治権的にね。
でもしかたない。
屍食鬼がどうにして中止させようとしてくる。
だけどもう遅い。
医療知識のない俺たち戦闘員が屍食鬼を蹴散らしていく。
太極国の正規軍には治療を受けるように勧告。
それでもかかってくるものは多い。
「太極国国境守備隊である! これは侵略である! 直ちに帰れ!」
「これはミン皇子から正式な要請である!」
「だとしても我らは貴公らと交戦せよと上から命令されている!」
俺も同じ軍畜。
命令が絶対なのは理解してる。
「どうしても戦うのか?」
「無論だ!」
でーすーよーねー。
それ以外の選択肢ありませんよね。
相手の気持ちがわかるだけモチベーションが急落していく。
俺が向こうの兵士でも命令されたらやるしかないからな……。
でも一応。
「ラターニアに亡命する意図は?」
「ない」
ですよねー。
「あんたらとは戦いたくない」
「我らもだ。だがこれも仕事だ」
「わかった」
俺は人型戦闘【殺戮の夜】に搭乗したまま前に出る。
「全員まとめてかかって来い。なあイソノ」
「え? 俺? いきなり振るな!」
「じゃ、エディ」
「ああ、来い」
というわけで交戦するはめになったのである。




