第三百八十八話
専用機で出撃した。
「エッジ、指揮は頼む」
「ちょ、エディさん! なんで俺!」
「だって適任だし」
エッジは仲間の中で一番冷静だ。
ちゃんと戦略も勉強してるのを俺は知ってる。
さらにはジェスターのアリッサもいる。
レオやタチアナと比べたら弱いと本人は語ってるが……本当にそうだろうか?
レオは数万の兵の能力を上げるし賢者モードになれば強力な超能力を扱える。
タチアナは超能力者の能力をコピーして、さらに強化したものを発現できる。
これだけでも反則クラスだが、おそらく俺は本質は違うと思う。
レオは、いわゆる【ぼっち】であることに強いコンプレックスを持っている。
実際はぼっちなのではなく、レオをどう評価していいか誰もわからなかっただけだ。
だがそれでもレオの理解者はゾーク戦争が始まるまではどこにも存在しなかった。
周囲の無理解はレオに強烈な孤独感を植え付けたのだろう。
タチアナは自分がクローンであるという事実に他人からは想像できないくらい悩んでる。
俺にとっても妹分だ。
悩みをちゃんと話してくれたらいいのになと思う。
そんな二人のコンプレックスは【孤独】。
固有能力は【共闘】と【偽物】だ。
誰にも理解できなかった、本来なら軍という組織で埋もれたまま一生を終えるはずだった孤高の天才。
クローンとして生まれ、自分ではない他人を演じさせられる運命にあった少女。
それこそが二人の本質だろう。
つまりだ。
ジェスターはコンプレックスを能力にしている。
そう俺は思ってる。
コンプレックスが強ければ強いほど、いや……孤独感が強ければ強いほど強力な能力を有することができる。
レオはヴェロニカちゃんという家族ができたが……おそらくそれだけでは孤独感は埋まってないだろう。
そもそも最初に犠牲になろうとしたのだってそうだ。
あれはコンプレックスがさせた英雄的行動……いや、自分の価値を低く見積もったがゆえの自殺だったのだろう。
タチアナは……どうやったって埋まるはずもない。一生の問題だ。
タチアナの胸中は俺には想像もできない。
その点アリッサは閉鎖された村で孤立してなかった。
どうしても二人と比べたらコンプレックスは小さい。
俺はアリッサを強化するためだとしても心の傷を大きくするのには反対だ。
結果がどうなるかなんてわからない。
ゾークよりも強大な魔王が誕生することだってありえるだろう。
あ、これレポートに書けるな。
太極国の戦艦、龍じゃない普通の戦艦から人型戦闘機がやって来る。
無影だ。
装甲を削ったスピード重視の機体。
戦うのは初めてだ。
「諸君、存分に戦え!」
「はッ!!!」
部下に指示とは言えない無責任な指示を出す。
でもこの程度でもいい。
そこまで恐ろしい感じはしない。
俺はビームライフルを構える。
俺の戦い方はレオみたいに敵を恐れさせるものではない。
マニュアルどおり、なんの変哲もない戦い方だ。
やり方も簡単だ。
よく狙って撃つ。
速かろうが関係ない。
攻撃が到達するまでの速度を計算する必要のない武器だ。
ただ正確に狙えばいい。
「撃墜! お館様、お見事!!!」
末松さんが大げさにほめてくる。
「末松さんはミサイルばら撒いて! 防御は頼む!」
「御意にゴザル!!! ふははは! アンハイムの防壁とうたわれた拙者の活躍を見ろ!!!」
初耳である。
だが本人が楽しそうなのでそれでいいと思う。
末松さんがミサイルを発射した。
今回持たせたミサイルは機雷をばら撒くタイプのミサイル。
とにかく足を止める。
足さえ止めれば怖い相手ではないはずだ……たぶんね。
向こうも知的生命体。足を止める戦略に弱いのはわかってるはずだ。
機雷を撒いた直後から戦略が変化するはずだ。
「機雷設置完了にゴザル!!!」
直後から、相手の動きが変わった。
突撃してくる。
近接戦闘を狙ったのだ。
だから俺は合図をする。
「鬼神国! 頼んだ!」
「応!!!」
近接戦闘のエキスパート。
それが鬼神国だ。
鬼神国の鎧武者型の人型戦闘機が無影に斬りかかった。
俺の方にも来る。
ま、そりゃね。
俺に近接戦闘挑むよねっと。
敵は青竜刀を装備してた。
ライフルを収納し、刀を出す。
鬼神国と共同開発した刀だ。
その中でも帝国剣術仕様のものだ。
俺は普通に構える。
全国大会優勝を目指してたときよりも力が抜けてる。
力みはない。
レオと違ってわざと崩して隙を発生させるなんて芸当はできないが……。
斬りかかってきた無影の胴を真っ二つにする。
「は、速い!」
末松さんが驚きの声を出した。
そうでもない。
カトリ先生の初動、雰囲気、空気、視線でフェイント入れてくるのに対処するならこの程度は【なんとか】ってレベルだ。
「ぬ、ぬう! 来たぞ!!!」
末松さんも他の機体も無影と交戦する。
当然であるが俺の方にも来る。
最初に斬られた無影を見たのか、青竜刀を振りかざしてくると見せかけて蹴りを浴びせようとしてきた。
カトリ先生は言ってた……。
「レオのアホ見ればわかるが、こういう蹴りとかの無駄な動きに見えるやつ。結構怖いぞ」
で、俺のスパーリングパートナーはレオ。
つまりだ。
「得意な相手なんだな~」
脚部を一閃、斬り落とした。
それでも今度は回転式の裏拳を放ってくる。
腕を斬り、そのまま下から斬り上げる。
敵機を両断し、後ろから襲いかかってきたやつを後ろを向いたまま突き刺す。
「無影恐るるに足らず!!! さあ! かかって来い!!!」
レオやカトリ先生、それにマザーゾークに比べたら止まっているようだ。
今度は二機同時。
一体を斬るが、もう一体が俺にライフルを浴びせようとしてきた。
だが俺はそれを避けて斬り捨てる。
エッジから通信が入る。
「敵艦射撃可能範囲に入りました!」
「射撃せよ!」
こっそり移動させてたエッジが敵艦に攻撃をしかける。
あの船は実習船だが、そもそも外宇宙に持ってきた最新鋭の駆逐艦である。
弱いわけがない。
「撃ーッ!!!」
攻撃を浴びせられた敵艦が損傷し旋回していく。
人型戦闘機もそれに追随して逃げていく。
どうやら撤退するようだ。
「銀河帝国、エディ大佐。協力感謝する!」
ふう、俺たちがいてよかった。
敵の数より多いもんな。
……やはりジェスター効果だよな。これ。
あとでレポート書いたらヴェロニカちゃんとルナちゃんに添削してもらおう。




