第三百八十五話
黄龍から人型戦闘機が発進した。
その人型戦闘機は俺たちのとはデザインが根本から違った。
俺のたちのどこか武骨な侍を思わせるシルエットとは違う。
もっとシャープなデザインだ。
「二十四式無影です。太極国は帝国の機体と違いスピード特化型です。【無影】の名もあまりにスピードが速すぎて影が映らないという意味です」
シーユンが説明してくれた。
「装甲は?」
俺たち帝国のは標準機は【無影】に近いシルエットだ。だけど近接戦闘に特化する必要があったためか【殺戮の夜】やその派生機は鎧武者を思わせる姿だ。
「帝国のと比べたら軽装甲かと」
【当たらなきゃどうってことはない】ってやつか。
俺たちも似たようなものだけどね。
高速移動が可能なことから考えると標準機くらいの堅さはあるはずだ。
対してラターニアは人型戦闘機の浪漫を理解しない人種だ。
普通の戦闘機にミサイル盛り盛りのいつものラターニアだ。
本来ならこっちの方が速いんだけどね。
無影がラターニアに接近した。
「ラターニア戦闘機攻撃開始するよ」
ケビンがそう言うのと同時にラターニア側が攻撃開始。
大量のミサイルを発射した。
ラターニアのこの戦法は手堅い。
合理的だし、負ける要素はない。
だけど嫌な予感しかしない。
ミサイルが爆発した。
このミサイルだって対戦闘機用だ。
弾速が速く、爆発範囲も大きい。
だがそれは起こった。
「太極国……ミサイル回避してるよ!」
太極国の人型戦闘機がミサイルをよけていく。
当たらない。
ミサイルを回避してやがる!
「ラターニア戦闘機、接近されたよ!」
太極国の人型戦闘機は止まらずにパルスライフルで攻撃していく。
……たぶんパルスライフル(自信ない)
移動しながら不安定な状態。
それなのにラターニア戦闘機が次々撃墜されていく。
「あ、バカ! いったん撤退させろって!」
なんかサッカー中継見てるおっさんみたいに指示厨と化してしまった。
でもさー、やっぱ部隊は下げるときは下げないとだめだと思う。
勝てる可能性がゼロならさっさと撤退しなきゃ。
「そういう判断レオ上手だしね。自分は最後まで残って死にかけるけど」
クレアがため息ついた。
スンマセン……いつも死にかけて……。
とりあえず立て直さないと。
ここは後方で装備見直しのタイミングだ。
当たらないって考えたら海賊鎮圧用のネットランチャー、網になって捕まえるやつに装備変えるとか。
俺だったらセンサーへの嫌がらせに一番出力が大きい照明弾持っていくかな?
あと速度重視って考えるとボルトスロワーとか。
ミサイルばら撒きながら逃げるとかもありだろう。
「ラターニア艦、ミサイル攻撃開始!」
「あ、バカ! 当たらないってのに!」
広範囲爆発で逃げに徹してくれれば……普通のミサイルでやんの。
「ラターニア艦撤退は?」
「してないよ!」
「バカじゃねえの!!!」
戦闘機で攻撃当たらないんだから無理だって!
撤退だ撤退!
逃げちまえ!
「ラターニア駆逐艦撃沈!」
あ、バカ!
撤退判断が遅い!
「ラターニア撤退開始!」
「ばかー!!!」
完全にカモにされるタイミングだ。
後ろからボコボコにされる……。
い、いや深追いさせて囲んでボコる作戦か?
そうに違いない!
「後方に増援は?」
「いないよ!」
「いないのー!!!」
思わず叫んでしまった。
すべてが悪い方に転がってる。
これじゃだめだ。
するとクレアが真面目な顔で言った。
「聞いてレオ、今まで言わなかったけど……レオは指揮官としても優秀なの。敵の動きを予測して数手先を読んでる。……それ普通できないから」
「え?」
「並クラスの指揮官は相手の動きの数手先を読んで動きを最適化できないから。普通の指揮官はマニュアル内の動きができれば優秀な部類なの……」
「ええ?」
みんなを見る。
本気の顔だった。
嘘だろ……?
メリッサがため息をついた。
「隊長……たぶんな、もうチェックメイトだ」
さらに艦隊の駆逐艦が撃沈した。
ああああああああ!
だめだ! こうなったら機雷とミサイル爆破しないでばら撒いてとにかく逃げに徹して……。
とにかく勝つか負けるかじゃなくて相手の心をめんどくせえって思わせる方に……。
だが遅かった。
次々と船が撃沈されていく。
「わかるか。婿殿のいなかった世界の我らがあれじゃ……」
この日、ラターニアは太極国に手痛い敗北をした。
反省会。
俺たちは話し合った。
こういうのはとても重要だ。
まず装備から話し合う。
まずはケビンだ。
「やっぱりドローンによるEMP攻撃かな? ソフトウェア使えなくすれば操縦できないし」
「俺だったら接近戦かな? 隊長は?」
「ルール無用かつこちらの損耗率最低って条件なら、ネットランチャーで足止めして稼いだ時間でケビンの蜘蛛型ドローン射出用ミサイルを撃って敵艦に侵入。指揮官を暗殺。敵作戦不能状態になったら蜘蛛型ドローン情報の秘匿のため戦艦爆破かな」
って言ったらみんな変な顔してる。
シーユンまでぽかーんってしてた。
シーユンはクレアとヒソヒソ話す。
「あ、あの、レオ様ってああなんですか?」
「う、うん。ちゃんと条件設定してあげないと手段を選ばないとこあるかな?」
「シーユン、あれでも隊長ってゾーク戦争の英雄だし。それにプローン軍事作戦ほとんどしないで滅ぼしたわけじゃん」
「あれって噂じゃ……」
「そう思ってるの本人だけだよ。さすがにプローンに関してはあの結果は予想してなかったみたいだけど」
「さ、さすがレオ様です」
「シーユンも気をつけよ。婿殿はああじゃからの~。悪意はないのじゃが敵には容赦ないからの~」
「ねー、キミら。なに話してんのよ?」
「ナンデモナイヨ」
メリッサが明らかに挙動不審になる。
エディが肩を叩いて親指を上げた。
「俺はレオの部下でよかったと思うぜ。なんせ死ににくい」
「エディ……俺そんなにまずいこと言ったか?」
「レオはそのままでいてくれ」
お、おう。
レオくん、そのままでいりゅ。




