第三百八十二話
俺たちも惰性でシーユンに訓練してるわけじゃない。
統計からゾーク戦争で亡くなった非軍人領主の死亡率とその原因を調査した結果だ。
他にも住民の死亡率が高かった惑星は避難訓練を適切に行ってなかったことが判明してる。
そういう惑星は復興も遅く、当時の領主が死亡した惑星ではいまだに当主が決まらないていたらくである。。
逆にゴリゴリの軍人領主の惑星は民の被害が小さく、復興も速やかである。
そりゃヴェロニカ派だから予算の配分も多かろうと思うかもしれない。
……違うのよ。
戦争終結から何ヶ月も経ってるのに、未だに当主すら決まらない惑星に予算さけねえだけなのよ。
嫁ちゃんが帰ってきたら粛正の嵐だろう。
嫁ちゃんは領主に甘い……というか領主が死にすぎたので甘くするしかない。
でもそろそろ忍耐も限界である。
「さっさと領主決めてください。責任者を明確にしてくれないと予算回せませんよ」
これのどこが難しいのか!!!
当たり前の話しかしてねえだろが!!!
結局、上のものの立ち回り次第で不幸が大きくなるということだろう。
シーユンには最低限の兵の動かし方、襲われたときの立ち回り、最低限の武器の知識を叩き込んでる。
あと戦艦のスペックや武装もね。
いまはラターニアからの軍事援助があるのでラターニア艦を憶えてもらってる。
頭の隅にあるだけで結果が違うだろう。
ゲーム感覚で学習してもらってる。
こうしてさらに1ヶ月ほどがすぎた。
というか戦争どころではなくなった。
太極国のラターニア国境地帯では難民が押し寄せた。
はっはっは!
予想よりパニックが広がりすぎた!!!
こんなになるとは思わなかった。
太極国による中途半端な情報統制のせいである。
口コミネットワークでのデマ乱舞である。
難民はまだいい。
他の国は太極国人は基本感染者扱い。
難民を受け入れるはずもなく、パニックからの武装勢力の台頭。
魔女狩りからの処刑まで行われてる模様。
こっち側は予定よりも悪い方に話が進んだ。
ラターニア側で尊皇を叫んでた連中は人道援助を受け入れ全市民の治療に動き出した。
尊皇勢力のリーダーのおっちゃん、シーユンとリモート会議したら感動してた。
なんでぇ?
俺さ、てっきり怒られると思ってたのに。
兵士の訓練なんてしやがってって。
「彼らからすると【一兵士の立場で他国で軍事を学びながら、銀河帝国やラターニアと交渉して良い条件を引きだした】って解釈のようです。他国に土下座してでも寄生虫や侵略者から民を救おうとした名君って思われたみたいですね」
「なるほどね~」
実際間違ってない。
シーユンが立たなかったら太極国は不利な条件のまされてただろうし。
だって第三皇子のシーユンよりも政治工作に金に手間に軍事コストがかかるもん。
かけたお金を無理に取り戻す必要はないけど、それが膨大な額なら納税者へ説明責任が生じる。
納税者からすれば【資源や領土で返済されますよね?】って話になる。
だって数十年は安定しないだろうし。
その点シーユンなら【隣国の政治的安定と我が国の安全のため】ですむ。
それだけの正当性がある。
女の子?
知らん。
銀河帝国皇帝は女性だしラターニアも別に禁じてない。
むしろそこを交渉してもいい。
そんなわけで俺たちは足止め。
ラターニアは検疫でてんてこ舞いである。
純粋にラターニアの問題だから俺たちも手伝えないしね~。
というわけで今日は俺たち男子の訓練。
カトリ先生と組み手。
なぜか士官学校女子組が見学しに来てる。
さらにはハナザワさんたちもいた。
「なぜにキミら見に来たん? なにも面白くねえっすよ」
「いやさー、シーユンが見学したいって」
メリッサが笑顔で言った。
「えー……じゃあイソノ先行って」
「オメエが行け!」
やだー。
手が荒れちゃう!
緩んだ顔のまま肉食獣と対峙。
「ほう、治してきやがったな」
カトリ先生うれしそう。
「自覚ないんですけどね~」
「おら、殺気出せ!」
「へーい」
ドンッと殺気を出す。
なおこの【ドンッ】は自分の口で言った。
なぜかカトリ先生が青筋立ててる。
怒らせた?
出力足りなかった?
「ふ、ふはははははは! 面白くなってきたぜ!」
なんか喜んでる。
珍しくカトリ先生が先に攻撃してきた。
俺はそれを払う……パリィすると勢いを増して一周して戻ってくるからヌルッと減速させてから落とす。
こうガンって来たのを腕とかをクッションにして折りたたみながら摩擦で止めていく……イメージ?
必ずブレーキ踏むからカトリ先生の攻撃も遅くなる。
「こ、この俺にそれをやるか!!!」
「やらないと速度で負けるんだからしかたないじゃん!」
パワーは俺がちょっと勝ってて、スピードはカトリ先生の最適化された攻撃に勝てるはずもない。
だからヌルッとパリィで全体の速度を落とす。
緩急入れて、普通のパリィもわざと混ぜてっと。
すると隙が見えてくる。
で、ここからが問題だ。
カトリ先生はわざと見せてる隙がある。
そこは罠だ。
だけど瞬間で判断しなきゃいけない。
絶対踏むよね、罠。
だから踏むの分かってて、すべての隙を同時攻撃。
罠じゃない隙も突いてるから反撃速度は遅くなる。
もう考えるのやめたの術。
あとは体力がどこまでもつかだよね……。
結局、攻撃速度と体力を極限まで上げるのが最強か。
戦術は経験を積みまくって過去問から瞬時に判断っと。
相手はカトリ先生、崩せないしジャストで入れたはずの攻撃も回避される。
「クソ! 当たらねえ!」
この発言もフェイク!
突きが来る!
上に跳ね上げ。ぼきり。
「あん?」
例の木刀が真っ二つ。
カトリ先生のもだ。
「そこまで!」
ほへー。
体が意思を無視して空気を欲しがった。
ぜえぜえぜえ。
汗も滝のように流れてくる。
「冗談だろ……レオの野郎、達人レベルに到達しやがった!」
違うんだな~。
達人じゃないんだな~。
真理とか奥義とかなーんもわからんのよ。
基本の攻防の範囲内だし。
俺はその場に座り込む。
カトリ先生も片ヒザついてた。
「え? え? え?」
シーユンがあわててメリッサに聞く。
「た、大公閣下です……よね? こんな荒行を?」
「ああ、隊長はさー、帝国軍最強だからな~。ああ見えて軍の指揮も得意だぜ」
はいそこ! 嘘つくな。
大軍は無理だっていつも言ってるだろが!
「す、凄すぎる……」
やめて! 尊敬の目で見ないで!
たまたまだから!
やーめーてー!
なお、この後エディとイソノ、それに中島がカトリ先生の生け贄になった。
でもなぜかイソノ中島の婚約者たちはウットリしてた。
まーいいか、仲良きことは……。
なんて平穏な生活を打ち破ったのは太極国であった。
あーやだやだ。




