第三百七十六話
あーあ、屍食鬼どもレオの兄貴怒らせやがった。
レオの兄貴は帝国最強だぞ。
しーらね。
アタシも後方任務を終えて戦艦に帰り、仕事を終えたころに兄貴も帰ってきた。
アタシは押しつけられた二等兵、女の子を見る。
「あーしはタチアナ。あんたは?」
翻訳機が自動的に起動した。
あ、そうか。
そういや太極国人って言ってたな。
「シーユンです。えっとタチアナ……さん?」
「階級は准尉だけど呼び捨てで頼むわ~」
そうなのである。
准尉にされてしまったのだ。
准尉は一応隊長格だ。
下士官でもねーわって思うのに隊長とかバカじゃねえの!
入学予定だった士官学校は入る前に卒業証書送られてきたしよ~。
いまは圧縮したカリキュラムをやらされてる。
数学と漢字の書き取りでつまずいてる間に課題が無限に増えていく。
カリキュラム考えたやつバカなのかな?
でも戦争終わったら士官大学校の看護学部に行きたい。
衛生兵研修で診療所の手伝いしてるんだけど、そこの曹長のお姉様(男)が「看護師は仕事キツいけど食いっぱぐれないわよ~♪」って教えてくれた。
それはやるしかない。
さーてお仕事、お仕事。
シーユンは不安そうにしてる。
「来なよ。部屋に案内する」
マップに表示された部屋に……アタシたちの部屋だ。
レオの兄貴に連絡。
「レオの兄貴、マップ表示だとシーユン、アタシたちと同室ッスけど」
アタシとワンオーワンは士官になったけど個室はお預け。
二人で共同生活だ。
もともと民間人用の四人部屋だから、一人くらい増えても困らないけど……。
「悪ぃ。面倒見てくれる?」
「まーいいっすけど。いいんスか? 王族でしょ?」
「ワンオーワンだって王族じゃん」
「ワンはヴェロニカの姐御ほど洗練されてねえっつーの」
「とにかくさー、ほどよく雑に頼むわ~」
あのバカ兄貴。
意味わかってねえな。
本人だって侯爵家のお坊ちゃんなのに自覚がねえ。
だいたいさー、銀河帝国の身分制が緩すぎるんだっての!
「アタシたちと同室だってさ。行こう」
アタシたちの部屋に案内する。
中はもうテキトーに改装済み。
ふわふわ絨毯が敷いてある。
壁にカーペット貼り付けてるのはアタシの故郷の習慣だ。
なお、なんでこれやるのかは知らん。
だけど昔からやってるし故郷の習慣だからやってる。
「ベッド上がいい? 下がいい?」
本来は四人部屋なので二段ベッドが二つ置いてある。
アタシとワンオーワンは下段で寝てるけど、別に移動しても困らない。
壁に貼り付けたカーペットほどのこだわりはない。
「どちらでも……えっと……じゃあ上で」
「うぃーっす。寝具はあとで受け取りに行くとして……」
するとガチャッとドアが開いた。
「ただいまであります!」
元気いっぱいで来たのは相棒のワンだ。
執事のおっさんもついてきた。
「おや? タチアナ嬢、その方は?」
「シーユン、こっちがゾークの女王で俺たちと同室のワンオーワン。で、こっちがその執事さん。挨拶して」
「太極国第三皇子のシーユンです。よろしくお願いします」
「第三皇子?」
執事さんが首をかしげた。
「いろいろあんだよ」
「なるほど」
これで納得してくれたようだ。
「ワンオーワン准尉であります! えっと……階級は?」
「現地採用の二等兵だ。アタシの部下になる予定。アタシたちと同じ衛生兵に配属されると思うから助けてやって」
「わかったであります! よろしくなのであります!」
正確には衛生兵と給養員の兼任である。
「料理できるようになっとけ。人生の生存率上がるぞ」って兄貴が言うしな。
「荷物置いたらアタシたちとジャージに着替えて行くぞ」
「どこにですか?」
「食堂。アタシたち給養員でもあるんよ」
「食堂のお手伝いであります」
三人で食堂に行く。
着替えであるが執事さんはちゃんと部屋から出て行ってくれた。
食堂では鬼の形相でレオの兄貴が食事を作ってた。
兄貴は考えなきゃいけないことや悩みがあると料理をし始める癖がある。
「あ、兄貴……」
するとニーナ姉さんがやってきた。
「レオくんいま集中してるから」
「いつものッスか?」
「うん、いつもの。今日は士官学校近くの中華料理店の蒸し鶏再現するんだって、あれ棒々鶏だよって言ったのに……」
このときはワンオーワンも空気を読んで話しかけない。
兄貴はああやって料理を作って頭の中を整理してるのだ。
兄貴は優秀な軍人だ。
でもあの兄貴が悩むくらいなのだから難しい話なのだろう。
「とりあえずぅ、タチアナちゃんたちは物資出してくれる?」
「うっす」
メモを確認。
冷凍の鳥肉ね。
もはや植物性タンパク質の合成肉は本物と見分けがつかない。
アタシもどっちを使ってるのかわからない。
ひき肉の状態の冷凍は高確率で植物性タンパク質なんだろうけど。
ま、どっちでもいいや。
冷凍庫にカートを持っていって肉を探す。
「そっちの段ボールが鳥肉だってさ。積み込むぞ」
シーユンにも手伝ってもらうがアタシたちよりもっと小柄だ。
本当にお手伝いだけだ。
その分、ワンが力持ちだから困らない。
「タチアナ! 完了であります!」
「ういー」
カートに積み込み完了したらシーユンにも手伝いさせる。
こういうところから教えないとな……。
って待てよ!
ワイシャツのアイロン、あれアタシが教えるのか!
うおおおおおお、アタシもまだそんなに上手じゃねえぞ!
シーツもか!
こっちも苦手だ。
ワンは上手なんだよな。
細かい作業得意だから。
……執事さんに頭下げて教えてもらおう。
あの人、元軍人だからそういうの詳しいんだよな。
普段だったら兄貴に泣きつくけど今の状態じゃ……やめとこ。
クレア姐さんもなんか怖い顔してるし。
あ、そうだ。
シーユンに言っておかねえと。
「その……なんか悪ぃな。いきなり仕事させて。身内に不幸あったって聞いてたんだけどよ」
するとシーユンはなんとも言えない表情になった。
「優しいんですねタチアナ。聞いたとおりです」
「聞いたって?」
「鬼神国の聖女ってタチアナのことでしょ?」
「勘弁してくれよ……」
アタシが聖女ってガラかよ!
どう見ても育ちの悪いガキだろが!
食堂に帰って調理を手伝う。
そしたら味の確認ついでにみんなより先に食事。
相変わらず兄貴の作るメシうまいな。
高級な料理じゃないんだけど食堂味。
味の濃さが下町の食堂っぽい。
兄貴……軍人じゃなくて食堂の親父でも食ってけるんじゃねえかな?
ま、ヴェロニカ姐さんと離婚でもしない限りそれは無理だろうけど。
シーユンは口数が少なかった。
もともとそんなにお話しするタイプじゃなさそうだ。
アタシはダラダラ頭の悪い会話するタイプである。
「それでさー、どうよ、うちの兄貴? かっこよくね?」
とシーユンに話を振る。
するとシーユンに顔が真っ赤になった。
あ、あれぇ?




