第三百七十五話
シーユンはぽつりぽつりと話し始めた。
「私はチャン・ミン・シーユン。つい三年前までチャン将軍の娘として育てられました」
お家騒動かな。
子どもが殺し合う系かな?
だから下位の子どもは養子に出しちゃえ的な世界か。
うーん、子どもをお家騒動の危険から守ったという意味では麻呂はまだマシ……。
違うな。ただ単に麻呂がクズすぎて子どもが結託できただけだわ……。
「私もチャン将軍一家を本当の家族だと思ってました……でもある日皇籍に戻れと命じられました」
「なんで?」
「皇太子……兄様が事故で廃人状態になりました」
「事故?」
「屍食鬼の寄生に失敗したのです。次兄は屍食鬼の存在に気づき、私にすべてを教えてくれ逃げるように言ってくれましたが……殺されました。今では体を乗っ取られ別人になってます。私は逃げようとチャン将軍を頼ってこの惑星に逃げましたが……ある日、宮殿から帰ってきた両親が別人になって帰ってきて……」
シーユンはぎゅっと自分の服を強く握りしめた。
「幸い両親は私を監視するだけでした……私はこの惑星に閉じこもって……いつ殺されるかと怯えておりました……」
涙がこぼれぐしぐしと嗚咽する。
シーユンにとって親はチャン将軍とその奥さんだったのだろう。
家族を殺され、その体を何者かが操っていたのだ。
屍食鬼への憎悪。それに後悔。
胸中は複雑だろう。
「途方に暮れていたところ。イーエンズ大人が性別を逆にしたクローンを影武者にすることを提案しました」
「性別が変わったのにわからなかったの?」
「……ええ、性別が変わったことすらわからなかったのです。屍食鬼どもは!」
シーユンは虚ろな目をしていた。
もはや憎しみなんてものじゃ説明できない感情だろう。
屍食鬼はゾークと同じなのだろう。
人間を雑に理解してる。
いや違うか……同じ遺伝子を持ってる肉ならなんでもいいのか。
どうせ乗っ取って使うだけだし。
我々と屍食鬼の間にはそれくらいの断絶があるのだ。
「私は兄上たちのスペア……対外的には男子であると説明されてました。おそらく私が皇位を継ぐときがきたのなら男性に性転換させられたのでしょう。イーエンズは……私を逃がすための時間稼ぎをしようと……屍食鬼の行動を逆手にとりました。で、でも……私はこんなの望んでない!!! 私は何の罪もないクローンを犠牲にするなんて望んでなかった!!! 私が死ねばよかったのに……」
シーユンは泣き出した。
クレアが優しくあやす。
ああ、なるほど。
屍食鬼に感染してなかった兵はシーユンを狙ってきた。
彼らは近衛隊とかだったのだろう。
第三皇子が女だと知っていた……いや顔を直接知っていたのか。
だけど屍食鬼はそうじゃない。
クローンであるミンを処刑して終わりだろう。
いや……ミンの体を乗っ取るつもりか……。
「ミンは屍食鬼の陰謀を暴くためだけに生まれたクローンなのです……なんてむごいことを……ミンはまだ生まれて一週間しか経ってないというのに。ミンの体にはラターニアから提供された毒が仕込まれてます。あなたがた銀河帝国から提供された対ゾーク用の毒を改造したものです。体を乗っ取ると周囲の屍食鬼にまで毒の効果が発生すると聞いております」
そういや提供したな。
ゾークにしか、というかカニ以降の人外型にしか効果ないからイラネってなったやつである。
ワンオーワンや絶望、アオイさんにはまったく効果がない。
というか彼らは系統的には人間とみなされている。
殺虫剤への応用すらできない持て余してた技術である。
研究しなきゃいけないけど新たな技術的展望はないっていう地獄みたいなやつ。
そうか……屍食鬼に効果のある毒が作れたのか……。
「わ、私は……復讐したい。イーエンズのため……違う。両親のため……だけじゃない。ミンのため……ううん、虐げられた皆のために。屍食鬼は……やつらは生きていていい生き物じゃない」
ゾクッとした。
プローンの話になったときの亀さんやウサギさん、オオカミさんたちの目と同じだ。
ここで俺は腹を決めた。
「えーっと、みんな、注目! 現地採用のシーユン二等兵だ。よろしくな!」
ラターニア兵が目を丸くして俺を見る。
「悪いな。銀河帝国で保護させてもらうわ。利害関係のないうちでゆっくりしてもらう。なあ聞いてるんだろ! 大使殿!!!」
すると通信が入ってきた。
「ええ……聞いておりますとも。むしろ私どもからお願いすることを検討してました。本当によろしいので?」
「皇帝陛下も反対しないと思いますよ。むしろここで俺が保護しなきゃ皇帝陛下にお仕置きされます」
【男を見せい!!!】って尻蹴られるな。
うちの嫁ちゃん男らしいの好きだし。
ま、この会話は嫁ちゃんとこにも送られてるし、もう嫁ちゃんも受け入れに動いてるでしょ。
俺の嫁ちゃんへの信頼感は絶対である。
「ただ……一つ弁明しておきますと、我々はイーエンズ大人の計画は把握しておりません。毒を渡しただけで計画は今知りました」
そうだよねー。
さすがに子どもを犠牲にするのは知らないよね。
知ってたら「ラターニアは賛同できません。ご再考を。強行するなら協力は打ちきります」って切って捨てられるわな。
だって普通に気分悪いもん。
イーエンズ爺さんは後がない無敵の存在だから思いついたんだと思うよ。
だとしたら……シーユンを預けるのにうってつけの存在がいる。
「おうタチアナ、聞いてたな」
俺たちの乗ってきた戦艦で後方任務をしていたタチアナと通信した。
「……うん、じゃなくて【はい准将閣下】」
おっと、こっちはこっちでご機嫌斜めだ。
クローンのことだからな。
別の国の話だとしてもクローンのタチアナとしては気分が悪いだろう。
「シーユンの面倒見てやれ。今からお前の部下だから」
「ちょ! おま! レオ兄! アタシに部下とか!!!」
「はっはっは! 軍ってのは理不尽なものさ! お前もそろそろ管理職の味を知れ」
「あ、てめええええええ!」
あらま反抗的。
でもさ、タチアナは面倒見がいいんだから適任だと思う。
なんだかんだで仲良くできると思うよ。
それと屍食鬼な。
俺、いま最高にイライラさせてもらってる。
そりゃねイーエンズ爺さんも近くにいたらぶん殴るところだ。
ラターニアにだって少しムカついてる。
知らんかったけど、悲劇はある程度予測してたと思う。
イーエンズ爺さんはたぶんもういない。
逃げられた! 卑怯すぎるだろ!
ムカつくから考えるのやめとこ。
今はシーユンだ。
たぶんなー、預けるのクレアやケビンやニーナさんじゃダメなんだよな~。
優しすぎるから甘やかし放題になりそう。
体育会系のメリッサもダメだ。
体動かせばなんとかなる理論は危険だ。
レンも一皮剥くと脳筋だからだめ。
エディ、イソノ、中島に預けたら三人の婚約者に俺が殺される。
嫁ちゃんは……嫁ちゃんが気を使いすぎてストレスでやられそうだ。
となると一番友だち目線でいられるタチアナがいいと思うんだよね~。
ピゲットとカトリ先生にも手伝ってもらおう。
ピゲットは嫁ちゃん育てた経験あるし、カトリ先生は教え子に女児の一人や二人いるだろ。
うん、いい考えだ。
次は屍食鬼に地獄見せるプラン考えようっと。




