第三百七十話
レイブンくんたちと屍食鬼をボコボコにしていく。
体が崩れてるものはいない。
やはり新鮮な個体である。
捕獲!
はっはっは!
「殿! おとなしく指揮してください!」
レイブンくんに怒られる。
えー、でもレイブンくんも労働したいよね。
うん労働素晴らしい。
「レイブンくん! やっておしまいなさい!」
例の木刀(木刀とは言ってない)で壁を壊す。
中のケーブル引っこ抜いて敵をグルグル巻き。
俺の護衛に残った騎士団員にもケーブル渡して敵を縛らせる。
「さすが殿! 人間業とは思えない!」
ほめられてるのかバカにされてるのかわからないセリフだが、いい方に取ろうと思う。
それで休憩しながら後から来るはずの兵士を待つ。
戦闘服が蒸れまくってるので送風と湿気の排出ぽちっとな。
「ほへー、生き返るー」
……はらへった。
帰ったらなに食べよう?
タンパク質食べてえ。
士官学校のコロニーにあった中華食堂で食べた蒸し鶏うまかったな。
カオマンガイでも棒々鶏でもないんだよね。
なんかオイリーな塩だれかかってるやつ。
作ってみるか?
料理の名前もレシピもわかんないけど。
ケビンかニーナさんが料理名知ってるだろ。たぶん。
あー、餃子も食べたい。
餃子作るか、うん、餃子。(支離滅裂な思考)
などとボケッとしてたらレイブンくんの戦闘服が見えた。
壁を突き破ってくる。
レイブンくんは攻撃を喰らって飛ばされたようだ。
攻撃してきた主はすぐにわかった。
レイブンくんに飛び蹴りしながら壁を突き破った諜報人だからだ。
「と、殿! お気をつけください!!!」
レイブンくんが床に叩きつけられた。
俺はすぎに戦闘モードに頭を切りかえる。
ぎょうざ! 違う! そうじゃない!
おにくー!
ああん! 頭の隅から離れない!
「レオ・カミシロだな!!!」
男は戦闘服と思われるスーツを着ていた。
ただ船の中だからかヘルメットはつけてなかった。
短髪で岩みたいな顔。
一目で格闘家だなって顔だった。
うちのレイブンくんだってエースクラス。
それを壁壊す蹴りで倒すなんて……どう考えても肉体をテクノロジーでいじってるだろ。
つまり新鮮な患者じゃなさそうだ。
俺は男を無視して指示を出す。
「レイブンくんの治療優先。ここは俺が相手になる」
俺がそう言うと男が全力で突っ込んできた。
その手には大刀、俗に言う青竜刀が握られていた。
容赦なく俺に斬りかかってくる。
だけど俺はそういうのが好物だった。
木刀で応戦。
右左右っと。
すべてはじき返す。
パリィすらしない。
だって……。
「はいいいいいいいいいいいッ!!!」
サイドキックが来た。
そんな気がしてたのよ。
俺は蹴りをよけて軸足を払う。
でも相手も足払いをよけて距離をとった。
「レオ・カミシロ! 我らのメインランドを乗っ取らせはせぬぞ!」
「あー……はい。やっぱりメインランドってのは太極国本星のことか」
返事がない。
ただの図星だったようだ。
うーん、アホとは違うっぽいな。
なんだろう、この個々の端末の管理まで手が行き届いてない感じ。
ゾークの場合、マザーという絶対者による中央独裁だったけど、屍食鬼は中央の統制が緩そうな気がする。
いや違うか?
「もしかして屍食鬼の正体は単一の存在なのか?」
敵は黙った。
もしかすると知識を共有するクローンじゃなかろうか?
で、患者の脳を使って他の処理をしてる。
だから症状が進行して肉体が崩れてくるととたんにアホになる。
この男もすでに症状が進んでるのだろう。
すでに死んでるんじゃないかな?
自分が生きてると思ってるだけで。
「どうやったってお前らは勝てんよ。すでにお前らの策はわかってるし、ミン皇子を助けたら事実を公表する。お前らが選択できる手段は少ない」
「どんな手段だ?」
バカだねえ。
これを聞かせるのがすでに策なのに。
術中にハマってやんの。
「俺がミン皇子を助ける前に殺せばいい。ミン皇子を助けられなきゃ帝国の言葉に信憑性がない」
「ミンを殺せばいい」
「俺たちが監視してないとでも? そのときはお前らが謀殺した証拠を出してやんよ。その点、俺を殺すのはいいぞ。帝国はこの宙域から撤退するし。うちの仲良しグループが崩壊して百年は帝国の侵攻もねえんじゃねえの? ラターニアも鬼神国も経済的ダメージでしばらく動けない。どうよ? 俺を殺すチャレンジしちゃえば?」
俺が提案を口にしたその瞬間、男の目の色が変わった。
俺の首めがけて斬りかかってくる。
予想の範囲内。
後から動いた俺の方が速かった。
「ふんッ!!!」
突撃。
突きを喉にぶちかました。
そのままの勢いではね飛ばす。
かつてカトリ先生にさんざんやられた理不尽攻撃である。
悲鳴を上げることすらできなかった。
はね飛ばされた男は真っ直ぐ飛んでいき、船の壁に突き刺さった。
甘い甘い甘い!!!
「ま、俺を始末できりゃ、だけどな。縛り上げろ」
家臣に命令して終了。
アホめが! 俺を殺すのが無理ゲーだと気づけ!!!
そしてさらに追い打ち。
「妖精さん、今の撮影してた」
「ばっちりです!」
どんどん証拠が積み上がっていく。
ミン皇子の救出に失敗したときの政略にも使える素材である。
可能な限り助けようと思うけど、たとえ失敗しても太極国が無事じゃすまないようにしてくれる!
ミン皇子に皇帝になってもらって帝国と友好関係築く方が幸せだけどね。
でも常に最悪を想定しておくのは重要である。
ところでさ……。
「なんでキミら、あこがれの運動部パイセンのスーパープレイ見た後みたいな顔してるん?」
家臣団が熱い視線を浴びせてくる。
むさい!
「尊敬する殿の勇姿だからであります!!!」
あ、うん……。
ワザと普段からだめな俺を見せつけてるのに効果ないとか……。
ま、いいや。
考えるのやめとこ。
はいはい次、ミン皇子救出作戦ですよ~。
俺を殺しさえすれば勝てる。
屍食鬼にそう思わせることに成功。
ターゲット分散の術である。
これでミン皇子のタイムリミットが伸びた。
あとは俺が暴れて屍食鬼と太極国のリソース削ってやればどんどん捕まる可能性が減っていく。
ふはははははは!
帝国の悪辣さを思い知れ!!!
こういう人外相手の喧嘩は俺たち得意なのよ!




