第三百六十八話
ラターニアは自国民の保護を主張し艦隊を派遣した。
ラターニアの金融機関で働いてる労働者が数万人いるそうである。
個人への小口金融だけかと思ったら証券会社や投資銀行がメインらしい。
全面戦争に発展する可能性があったがなんとか回避。
太極国側の【ラターニアと金でもめるのは危ない】という理性的な判断である。
やだ素敵! ラターニアちゃん頼りになる!
俺たちはトマス艦隊から借りた船でラターニアと現地入り、混乱のどさくさに第三皇子ミンを回収する予定だ。
まずはラターニアの船にドッキングしてラターニア兵の認識タグをもらう。
ラターニアの船は技術的には俺たちとあまり変わらない。
全体的に狭いのは過剰な物資のせいだろう。
これ現地で捨ててくことにならない?
ミンのいる惑星ってラターニアの支配地域から近いよね?
「会計上は現地住民への支援ということにします」
なるほど。
それを聞いて俺たちも物資を大量に積み込んで出発。
三日ほどかけて現地に到着する予定だ。
嫁ちゃんは待機。
今回は士官学校生とその近衛騎士団で任務にあたる。
あくまで人道的な任務である。
ワンオーワンはお留守番だけどタチアナは連れて来た。
理由はジェスターの勘がささやくから。
それ以上の理由はない。
艦隊に加わった鬼神国の要請である。
俺たちは書類上はラターニアの指揮下である。
いいのいいのそれで。
参加できてるだけいいってことよ。
で、問題は出発してから一時間後に起こった。
「レオくん、海賊の反応だよ! イーエンズ大人のグループとは違うみたい」
戦闘服脱がなくてよかった。
もう半日着たままだけど。
船はどう見ても古い駆逐艦。
ボディーに戦闘でついた痕がついている。
……ちゃんと修理しろよ。
そりゃ民間人なら歴戦の猛者が……ってビビるかもしれないけど、俺たちはプロである。
アホかっていう感想しかない。
俺たちは軍艦や人型戦闘機の修理をさんざんしてきたのだ。
板金修理も塗装もみんなできるんだぞ!
特にレンはスナイパーになるまでメカニック担当だったから俺より上手いんだぞ!
だまされるかボケが!!!
俺は戦闘機で発進……しようとしたらエディ、イソノ、中島に捕獲された。
「レオ、ステイ! てめえは指揮官だろ!」
指令室送り。
あたい運動しないと太っちゃうわ!
「海賊船攻撃しますか~?」
「妖精さん、全艦に攻撃開始命令出して~」
「はーい」
するとラターニアの司令官から通話が来る。
ヤクザ映画に出てきそうな顔の指令は顔を真っ赤にしていた。
「人道任務の艦隊に攻撃をしかけるとは卑怯千万!!!」
ブチブチブチとおでこからこめかみに血管浮かびまくり。
あたい、司令官の血圧が心配だわ。
任務中に脳出血で倒れるとかやめてね。
「あ、うん、はい。こちらで抑えますんでラターニアは先にどうぞ」
「我らも攻撃に参加します!!!」
ですよねー。
バーサーカーモードになったラターニアが海賊を追いかける。
勝負になるわけねえじゃん。
あれでもこの辺で太極国と並ぶ大国よ。
もうねバカスカミサイル撃っていく。
ラターニアは人型戦闘機による領地確保ではなくミサイルで更地にしまくる戦術である。
俺たちがやったら
ここまでは【現場に出ないと生きていけないよぉ】っていつもの泣き言だったのよ。
でもさ、ここからがいつもと違った。
「レオくん! 伏兵! 船籍は……屍食鬼です! 船は……太極国の対ラターニア戦の新造艦です!」
やはりだ。
屍食鬼が足止めしてきた。
もうこれが答えである。
屍食鬼は太極国の乗っ取りをしかけていたのだ。
どれほど乗っ取られるかはわからない。
「クレア! 俺出てもいいよね!」
「わかったから!」
「ラターニア司令官殿! 屍食鬼の戦艦は対ラターニア用です。ここは俺たちが食い止めます! 司令官は目的地を目指してください!」
「だ、だが!」
「いいから! ミサイル無駄撃ちしないで! ミン皇子と民間人を助けてください!」
「わかった!」
通信切断。
よっしゃあああああああああああああ!
俺はスキップしながら【殺戮の夜】のところへむかう。
殺戮の夜ちゃん、パパでしゅよ~。
サクサク乗る。
「殿! レイブン隊出撃いたします!」
「怪我すんなよ!」
「はっ!」
俺たちが出撃すると屍食鬼の船から通信が入った。
「レオ・カミシロだな。太極国情報部中尉アナン・クァンだ。貴様らの企みは阻止させてもらう!」
おそらくミンを救助しようとしてることだな。
「企みって人道救助……」
「そちらではない。鬼神国の聖女タチアナを使い。神話の再現をするつもりだな」
え?
どういうこと?
「天と地を統べる我らが始祖が太極国を作り、お互いを殺し合う鬼は地獄である鬼神国に追放された。鬼神国を救う聖女によって鬼は罪を許され再び太極国に帰ることができる。太極国の神話だ」
聞いてないし、鬼神国のデータにそんなのなかった。
ふえええええええええ、おそらく鬼神国それ忘れてるよおおおおおおッ!
だって強いか弱いかくらいにしか興味ないもんあの人たち。
そもそも太極国の神話の研究なんて後回しだったのよ!
ラターニアや鬼神国研究の方が重要度高いし。
そんなの知らないよおおおおおおおおッ!
「バ、バレタカ?」
とりあえず肯定しとこう。
「だが残念だったな! もはや太極国は我ら屍食鬼のものだ! お前らは鬼も人も救えない! 勝つのは我々だ!!!」
お、おう。
どうしよう。
タチアナは勘で乗せただけでゴザル。
……よし。
「愚かな連中だ。政略だけでプローンを滅ぼしたこの俺に何の策もないと思ってるのか?」
嘘である。
ただのハッタリだ。
「例え策があっても貴様をここで殺せば終わりだ!!! ものどもかかれ!!!」
くっくっく、リアクションを返してしまったな。
貴様は、屍食鬼はもう俺の術中にある。
俺の策がなんなのか! 悩むがいい!!!
名付けて! 【鮫島事件作戦】
それにしてもいいこと聞いた。
タチアナにもがんばってもらおうっと!




