第三百六十二話
屍食鬼問題の棚上げが決定した日、ラターニアからのニュース速報が流れた。
【太極国は銀河帝国に対してこれ以上の侵略を直ちにやめるよう声明を発表】
侵略?
そもそも我が帝国は深刻な少子化に悩まされてる。
領土の拡大など物理的に不可能。というかさっさと安全確保してこの銀河から撤退したい。
半ば押しつけられたプローンの惑星くらいか?
あれもテラフォーミング終わったら教育したプローンの生き残りを植民するつもりなんだけど。
プローンに関しては既存の価値観すべてを否定すると後の復讐劇に発展しかねない。
だから食育と科学や医療教育に絞って教育してる。
実際効果が出てる。
子どもの死亡率は減ってるし性格も穏やかになっている。
あの異常な攻撃性は栄養不足から来る精神錯乱だったんじゃねえかな?
異常プリオンによる脳の崩壊もあったし。
いまでは大豆の生産を奨励してる。
プローン教はカルト化と陰謀論は阻止する方向で残すことにした。
というか帝国自体、大王を名乗ろうが無主の惑星にカルト宗教の楽園作ろうが基本的には放置だ。
例えばレン、レンはビースト種の救世主とみなされ大王と呼ばれてるが嫁ちゃんは関与しない。
レンが「我こそが正当な銀河帝国皇帝である」と言いだしてクーデターでも起こせば処刑せねばならなくなるが、そこまでは放置である。
ヘタにいじって後の反乱に繋がる方がまずい。
嫁ちゃんに言わせれば「いちいち寝言に反応してられるか!」である。
そもそもビースト種長年の目標である差別解消も、俺とレンの子どもができたらゴールだ。
公爵家確定だし、政治的な発言力も持てる。
そもそも嫁ちゃんはゾーク戦争終結と同時に【すべての民族は平等である。帝国はあらゆる民族差別を許さない】と宣言してる。
もちろんプロパガンダは流しまくり。
プローンを【反科学の犠牲者】として報道してる。
で、嫁ちゃんは気にしてないが、官僚は大問題であると認識してる。
ビースト種には社会の仕組みを重点的に教育。
それと失業対策の技能教育もする。
ま、彼らはレンと俺のいる軍に入りたがるんだけどね。
プローンには栄養学や食育、それに生活の基盤である農業教育を施す。
希望者には科学や工業もちゃんと教える。
プローンの文化や芸術は……一応教えてる。
外宇宙派遣事業に応募した教師が頭抱えてた。
外宇宙で一旗あげようとした学者も頭を抱えてた。
だって地方局のホテルCMみたいな音楽に、ゴリゴリ原色の謎壁画だし。
喜んだのは文化人類学の学者くらいだろう。
とりあえずなんとか回収できた資料から再構築したものを教えてる。
……つまりなにが言いたいのか?
俺たちは滅んじゃったから支援してるだけで支配してねえっての!
後始末しかしてねえっての!
子どもしかないんだから、あと10年は国の運営できねえっての!
そもそも滅ぼしたのラターニアじゃねえか!
でさ、滅ぼした方のラターニア大使がブチ切れてた。
「我々にも非難声明が送られてきました」
【ジェノサイドダメ絶対】だって。
笑顔だけど目元がピクピクしてた。
連日のストレスで限界に近いのだろう。
聞いてみたら太極国は滅ぼした文明はそれこそ星の数。
国や文明滅ぼすどころか住民皆殺しも何度もやった国だそうだ。
それだけ古い国なんだろうけど。
古い国は長い歴史の中でやらかしまくってるもの。
でもラターニア的には「てめえが言うな! てめえだけは言うな!!!」といったところだろう。
新商品のラターニア人向けエナジードリンクあげたら喜んでた。
あとラターニアの各種薬草成分を入れた健康ドリンクも。
お疲れ様ッス!
大使とは個人的にはかなり友好的関係だと思う。
さて非難声明であるが、ラターニアもさすがにスルーできずに即日抗議。
雲行きがあやしくなってきた。
うっわ、そうか。
細けえことは気にすんな精神で自分の有利な状況作り出そうとする太極国に対して、嘘はつかないし異常なくらい細かいことを気にするラターニア……相性最悪だわ。
ラターニア名物、超ぶ厚い書類を送りつけたわけである。
たぶん太極国読まないと思う……。
一連のやりとりをはたから見てる俺たちが一番ドキドキしてる状態である。
ラターニアがいつキレるか心配である。
当事者と比べると小国である鬼神国は巻き込まれるんじゃないかとパニックに。
逃げるとかじゃなくて、黙って軍に志願タイプのパニックね。
うちらもラターニア経由で反論を送る。
どうせ読まねえだろうけど。
なんかさー、太極国って熟成された公爵会のにおいがするんだよね。
もうちょっと洗練されてるような気がするけどね。
でだ、非難したからには接触あるんだろうなって予測してた。
いきなり攻撃してくる蛮族なら容赦しないってだけである。
嫁ちゃんと待っていたら接触はすぐにあった。
だけど斜め上の方向で。
「我が国はラターニアに宣戦布告する。共に戦うなら存在を許してやろう」
あ、うん。
ラターニアに肩入れしようっと。
初手お話し合いにならない勢力と仲良くできるはずねだろと。
相手との国力差とか難しい判断は嫁ちゃんに委ねよう。
「太極国は論外じゃ」
ですよねー。
とはいえラターニアと軍事同盟を結んでないので基本は放置。
周辺宙域の治安維持の協力だけである。
その辺はラターニアや鬼神国と詰めてある。
ラターニアは一度約束したら死んでも守れって言う国だけど、ちゃんと契約内容を詰めれば怖くない。
ラターニアを仲間はずれにしろ的な事を言われても無視無視。
そんなこと聞いたら逆になめられる。
だったら約束もしないし同意もしない。
相手の狙いを達成できそうな気がするだけの答えを返してやる。アホめが!
こうして曖昧な答えを繰り返してヌルヌル逃げる戦略が爆誕したのである。
これはね、待ってたのよ。
太極国がアホなこと言い出すのを。
そしたらヤクザに豹変すればいいってだけ。




