第三百六十一話
不憫すぎるゾークちゃんの歴史がわかった。
あいつらカードの引きが悪すぎるだろ。
大使はあえて言及しなかったけど、おそらく屍食鬼も同じやろって話だろう。
というかプローンも同じだよね。おそらく。
プローンは文化や制度の成熟が間に合わなかったせいで崩壊した。
身の丈に合った能力が一番無難なのだろう。
そう、ジェスターとかいう身の丈に合わない能力に振り回され何度死にかけたか……。
おそらく彼らの苦悩を理解できるのは俺だけだろう。
そう准将とか外務大臣とか大公とか……少尉はまだいい。
隊長は許してやる。
だけど佐から先は身の丈に合ってねえだろと!!!
大公はまだいいよ。嫁ちゃんが皇帝だし、バカ殿でも許されるから。
優秀な人に仕事振るもの。
でも准将はねえだろ!
軍事法廷の弁護士になって、出世競争を勝ち抜いた先の階級だぞ!
俺の人生設計にない階級だぞ!
責任が大きすぎるだろ!
俺もいつか崩壊するような気がする。
さて、そんなわけで屍食鬼退治に戻る。
基本的には日本住血吸虫と同じように感染経路潰しと治療である。
感染経路は蚊。
あ、詰んだ。
マラリアとかはどうやっても撲滅できないもんね。
蚊を絶滅させるのは難しいし。
なので治療優先。
艦内の一斉検査で数人が感染してた。
数人ですんだのは妖精さんによるAI自立型蜘蛛型ドローンのおかげだろう。
念のため水耕栽培施設の一斉消毒を行った。
例のいくらでも増えるイチゴの苗やいくらでも増えるトマト、もはや雑草扱いのエンサイなどをどさくさ紛れに処分。
大丈夫です!
種は異常なくらいストックしてます!
熟した実の部分は食えって言われてるんだけどね。
なので食堂はトマト祭り。
イチゴは大半をラターニア向けのお菓子工場に流した。
昼食のパスタを茹でながら考える。
作るのはアラビアータである。
もうね、俺が料理作りながら考えるのが当たり前になりすぎて誰もツッコミ入れなくなった。
完成したナスのアラビアータを食べながら嫁ちゃんたちと話す。
戦闘員だからと会議拒否勢のメリッサも俺の料理を餌にすれば参加してくれる。
「ひーまー!!!」
メリッサが文句を言う。
ですよねー。
検査方法がわかって蓋を開けてみれば海賊ギルドもラターニアも被害甚大。
両勢力ともメンツを潰された形で激怒してる。
イーエンズ爺さんは銀河帝国、鬼神国、ラターニアによる屍食鬼の取り締まりに協力。
海賊が犯罪やってる暇がないというギャグでしかない状態である。
さーて、ここで反省。
実はラターニアと海賊ギルド対策で夜の街のお姉様たちを募集してしまった。
今さらいらんと言えなくなったので第一陣をバトルドームとラターニアで営業。
ラターニアに派遣するお姉様と一部あそこナイナイな元お兄様たちには研修を受けさせた。
「絶対に約束するな。命の保障ができない」と。
結婚詐欺とか普通に死刑だぞと。
おかしい……。
元お兄様の方が人気だぞ。
売上が倍近く違うぞ。
ちゃんと元お兄様って注意文つけてるぞ!
ラターニアがわからない。
ぽく既婚者だからわかりゃにゃい。(そっと目をそらす)
そうそう既婚者で思い出した!
ピゲットに道場に呼び出されたよ……。
そしたら泣かれた。
寄生虫問題に端を発して朝のチュー習慣発覚した件である。
殴られるかと思ったら、嫁ちゃんを大事にしてくれてありがとうって泣かれた。
育ての親であるピゲットの胸中は複雑だったようだ。
なんせ交際0日で結婚だからね~。
夫婦仲は悪くないのは知ってたが普通に恋愛してるってのは思わなかったようである。
嫁ちゃんもわざわざ言わねえだろうし。
それはいいとしてメリッサの暇持て余し問題である。
でもさー、現状戦闘ないのよ~。
ラターニア内では帝国を敵視する勢力いないみたいだし。
プローンに比べれば天と地ほどの差で、鬼神国と比べても話し合いになるってので評判は悪くない。
鬼神国はサリアの対抗勢力は自滅したし。
あえて言えば海賊ギルドくらいか?
ゴリゴリの戦闘員であるメリッサにはつらいだろう。
うーん、どうしよう?
「暇なら俺の護衛でもする?」
そう言うとメリッサは目を輝かせた。
レイブンくん、黒目からハイライト消すのやめて。
というわけで護衛がメリッサとレイブンくんになった。
なおメリッサも伯爵家当主なのでメリッサの騎士団もいる。
実家の道場の無役の人たちである。
就職先まで完全保証という評判で道場の入門者が殺到してるらしい。
うちの近衛騎士とかもメリッサのところにお願いしてるしね。
帝国って全体的には少子化なんだけど、地方だと子だくさんの貴族がまだいるんだよね。
そこに次男より下が無役でニートを余儀なくされてるわけである。
うちの実家みたいに直球でド貧乏だったら軍に入れて仕送りしてもらうとか、エディの婚約者のミネルバさんみたいに軍の奨学金で大学にって考えるんだけど、金持ってる家はメンツがあるからね。
警察官僚の上の方とか裁判官は中途半端に金持っててメンツが大事だからつらいみたい。
帝都の国立大学に合格するのが当然の世界観。(医学部は別。医学部は正義)
士官大学校は大学に非ずだって。
アマダが言ってた。
るせー! こちとら軍しか知らんわ!!!
士官幼年学校落ちたら公立中学から農業高校か工業高校行こうと思ってた俺氏、涙が止まらない!
なので貴族の次男三男を積極採用である。
あと平民も言うこと聞けて問題起こさない人材なら積極採用よ!
というか現状いくら採用しても「まだ大公家の家臣が足りません」って言われるレベルである。
東京都レベルの自治体を一から作ってるようなもんだもんな……。
名ばかり侯爵家の末っ子がそこまでわかるわけねー!!!
というわけでメリッサとその騎士団、それとレイブンくんたちカミシロ家騎士団がゾロゾロついてくる大名行列状態になった。
バカ殿のおなーりー。
今日の気分は井伊直弼。
ラッキーカラーは暗殺色の芋ジャージ。
ラッキーアイテムは足を撃たれるライフル。
それはいいとして、屍食鬼問題はいったん棚上げ。
拠点がないのが判明して疫学的に根絶するしかないから。
ってことは次は海賊かな?
海賊も大人しいんだよね。
イーエンズの爺さんも屍食鬼潰しで忙しいし。
さーてそんな暇を持て余した日々は長くは続かなかったのである。
予想はしてたんだけどね。
ほら、俺だし。




