第三百五十九話
さーて、あれから数日。
寄生虫を見つける方法がわかった。
屍食鬼許さん。
さて俺が血を吐いた流れ、それが重要だった。
例の味を思い出すだけで歯がガチガチしてしまうドーナツであるが、あれに入っていた香り付けのスパイスで寄生虫が死に絶えたようだ。
俺の場合は胃に寄生されてたので血を吐くハメになったと。
状態が悪かった俺は屍食鬼が患ってる死病への感染が疑われ隔離期間が延長になった。
やだー!
これまでさんざん死線くぐってきたのに最期は遠征先であっさり病死とか……アレキサンダー大王かな?
とにかくそれは認められない。
バイ菌ごときが俺を殺せると思うなよ!!!
え? ウイルス、細菌? 違う生き物? ……とにかく死なない!!!
幸い、帝国のナノマシンで細菌をサクッと倒す。
え? ウイルスは対応してない?
抗ウイルス薬……あ、はい。
微生物って難しくね?
お薬さえ飲めばあとは自動回復でどうにかなる。
タチアナが俺の能力の【ものまね】で治療してるらしい。
鬼神国だけではなく、我が軍とラターニアでも大量に信者獲得中。
え? 出てきたら憶えてろ?
しかたないじゃん。そういう政略なんだし。
え、恥ずかしい?
タチアナはシャイなのである。
そんなタチアナはケビンやワンオーワンと大忙しである。
ケビンとワンオーワンは衛生兵、タチアナは聖女役である。
え? 聖女って次言ったらぶっ殺す?
だからそういう演出だっての!
そんなタチアナは毎日俺のところに来て文句を言う。
俺が総責任者じゃないのに。
「聖女やめたい!!!」
「ですよねー。でもさ、もうやめられないのよ。これが」
いまやめられたら暴動が起こる。
ラターニアだってタチアナのおかげで暴動が拡大しなかったって言ってるし。
いまラターニアでは【伝統食品を食べて寄生虫を駆除しよう】キャンペーンが行われている。
つうかね、例のスパイス!
やたら繁殖力が強くて雑草扱いなんだって!
なので鬼神国も帝国も大量に買ってる。
で、ケツの毛まで抜かれてるかっていうとそんなことはない。
ラターニアは伝統料理が滅亡しかけてたらしい。
鬼神国の料理の方が美味しいんだって!
俺たちからするとどちらもスパイス味なのだが違いが大きいようだ。
魚醤か? 魚醤の違いか?
そういやラターニア人って魚醤好きだよな。
……帝国の醤油もいけるんじゃね?
さてラターニアは国民向けに【伝統食を食べよう】ってキャンペーンを開始したけど、あまりうまくいってないようだ。
そこで帝国である。
資本主義の奴隷である俺たちは上手に広告を作れるってわけである。
だって●休さん……えげつない視聴率だもん。
広告枠はオークション制で奪い合いになってる。
そんな我らが広告を作りまくる。
変なプロパガンダだったら断ってたけど寄生虫根絶目的だからいいよね。
さすがに伝統食からいきなり国粋主義にたどり着かないだろ?
みんなそう思ってた。
でもこれがまずかった。
いや帝国的には好機なんだけど影響がエグい範囲に及んでて……。
もともとあまり容量の大きくないラターニア人の堪忍袋の緒がキレてしまったのだ。
ラターニア全国民の一斉寄生虫検査が行われた。
鬼神国と帝国艦隊、それにバトルドームもだ。
さらに海賊ギルドも。
ただし海賊ギルドはイーエンズの爺さんのとこだけ。
そしたら衝撃の結果が。
海賊の9割が感染していた。
で、海賊と取引してたラターニア人も感染しまくってた。
屍食鬼になって人や屍食鬼になりかけてた人もいた。
ラターニアは土葬文化である。
しかも帝国みたいに頻繁に墓に行く習慣がない。
つまり知らない間に屍食鬼になって生き返ってたと。
気づかなかったんかワレェッ!!! 怖いわ!!!
ラターニア的にはそういやそういう死病があるな程度の認識だった。
文化と医療の両方から見逃してたのである。
帝国の方が医学は進んでるのか……。
それに比べて鬼神国の感染者の少なさである。
海賊と取引してなかったせいと分析された。
つまり屍食鬼は海賊と仲良し風を装って海賊船から蚊を広めて寄生虫をばら撒いていたということである。
うっわ~。とんでもなく悪質。
あまりに外道っぷりに言葉もない。
当然ラターニアは激怒というか逆に静かになってるレベル。
もう殺すしかないよねっていう空気だ。
無表情で屍食鬼の勢力下の惑星へ総攻撃を開始した。
プローン殲滅したときと同じ生物皆殺しミサイルによる攻撃である。
イーエンズ大人も激怒した。
だってラターニアの商圏潰されたのと同じだし。
メンツも潰された。
なんだかメンツを潰された方にブチ切れてる気がする。
海賊も屍食鬼は発見次第駆除となったのである。
鬼神国に至ってはサリアどころかサリアパパまで出てきて大激怒。
感染ほとんどないのにこのパフォーマンス。
おそらく屍食鬼を滅ぼしたいのだろう。
というわけで屍食鬼討伐の方向性に世論が向いたのである。
だけど問題はすでにラターニアが屍食鬼の巣を破壊しまくってることだった。
なのに屍食鬼は減ることがない。
というかラターニア人が増えてきた。
これにはラターニアも頭を抱えた。
滅亡まで行く話ではないけど、現政権が吹っ飛ぶには充分ではある。
つまりラターニア側に納期とか締め切りができてしまった。
そこまで来たのに屍食鬼の言うメインランドはわからずじまい。
メインランドがそもそも何を指してるのかすらわからない。
おそらく巣の本体じゃないかなって思うんだけど……。
なにもわからない。
俺はこのころようやく退院した。
いままで一番長かった……。
さて我々の蚊の対策は力技であった。
ケビンの蜘蛛型ドローン、あれを簡易的なAIで制御したのだ。
蜘蛛が艦内をうろついて蚊を駆除する。
ついでに暗殺用ドローンの警戒もね。
そんな俺は例のドーナツを食べる。
「頭痛くならねえな……」
「つまりそういうことじゃ」
嫁ちゃんも注意深く見守ってる。
あのドーナツ、感染してる状態で食べると頭痛くなるんだって!
甘ったるいところに謎スパイスの風味がして好きじゃないけど頭痛くならない。
お残しなしでいける。
「みな寄生虫チャレンジしてるみたいじゃの」
嫁ちゃんも安心したのかドーナツを食べた。
「甘すぎるの……」
一つが限界。
「なんか作ってくるわ」
「頼んだぞ~」
クレープでも焼くか。
ニーナさんが料理を作ってる横でクレープを焼く。
「レオくん器用だねえ」
「いつ軍をクビになってもいいようにしてるのさ……」
「レオくんクビにしたら暴動起こると思うよ~」
生地が焼けてきた。
「嫁ちゃん、甘いのとしょっぱいのどっちがいい?」
「甘いの!」
ということで生クリームにアイスクリームにカットフルーツを乗せてっと。
フルーツソースかけて……。
「できたぞ~い」
するとワンオーワンがすでに来てた。
タチアナと「ちょうだい」のポーズをしてる。
「いまから作るから! これ嫁ちゃんに持ってって」
「はいであります!」
というのがここ数日の出来事。
ゾークネットワークとの互換性とかはまだ解明されてなかった、
で、そこで爆弾が投下されたのだ。
ラターニアの大使が会談で絞り出すように言った。
「ゾークが発見した遺跡があります。調査しませんか?」
さーて、SFホラー展開になってきた昨今であるが……これ怖くないやつだよね?
え? なんで大使目をそらしてるの? ねえ!




