第三百五十八話
アオイさんとワンオーワンを呼び出して話を聞く。
ついでにタチアナもついてきた。
タチアナはラターニア人が大好きなスパイシー魚醤チップスを食べてる。
「タチアナ……それ美味しい?」
「嫌いな味じゃねえッス」
俺はニオイと後味が苦手だった。
食えないわけじゃないけどさー、選択肢が与えられてれば避ける。
ワンオーワンも「くださいです!」って言い出さないところを見ると苦手な味なのだろう。
好き嫌いなくて偉い!
「それでさ、俺が呼んだって?」
「はい! 准将閣下がテレパシーで呼びかけました」
「ええ、ゾークネットワークと互換性のある通信で」
……なんてこった。
「どうしたでありますか?」
「すまんみんな! 【衛生兵! 俺なにかに感染したかも! 俺と接触したものをピックアップ! 隔離して!!!】」
「え……?」
とばっちりを食らったタチアナがお菓子の袋を落とした。
はい隔離。
全身をスキャン。
それだけじゃなくてレントゲンとCTにMRI、それと超音波検査もする。
脳の検査もする。
抗寄生虫薬を飲んでベッドで寝る。
何度目だろうか?
俺……忘れたころに死にかけるよね?
艦は消毒と清掃がされ、全職員の一斉検査が行われてる。
クレアは感染してるものとみなされ、嫁ちゃんは濃厚接触者のため両名とも隔離された。
院生と研究者も隔離である。
静かにブチ切れるピゲットに「退院したらツラ貸せ」と言われた。
嫁ちゃんと【おはようのキス】してるのがバレたからだろう。
いいじゃん! ちゃんと籍入れた夫婦なんだから!!!
高校生の健全な交際の範囲だろが!!!
そんなの実質死刑宣告だよぉ!!!
レオくん生きてけないよぉ~ッ!!!
さて入院すると暇になった。
血相変えたサリアにレポート提出。
すると鬼神国に密偵放っているであろうラターニア大使も血相変えて問い合わせてきたので、まだまとめてない寄生虫の解剖レポートを渡した。
俺と嫁ちゃんのお見舞い名目で新しく作る商品のサンプルくれた。
スパイシー魚醤せんべいに、なんか死ぬほど甘いシロップにつけたドーナツの缶詰に、ドライフルーツをスパイシーなカラメルでコーティングした謎の飴などである。
数百キロくれた。
嫌な予感がしたので缶詰を入院組で分けてもらう。嫁ちゃんだけ人柱免除で。
「うぎゃああああああああああッ!!!」
痛い!
頭が痛い!!!
なんじゃこりゃ!!!
あまりの糖分に脳が拒否した!!!
たった一つだ、缶詰の中の小さいドーナツ一つ食べるのに十分以上を費やした。
お残しは許されない。
なんか頭がチカチカしてるけど食べきった。
だって味の感想聞かれるもん!!!
そのとき「食べてません」なんて言えないだろ!
【甘すぎてまずい】を【新しい文化との出会いでした。帝国に輸出する場合はもうちょっと甘みを控えた方がいいかもしれません】と表現するのは許されるはずだ。
うお、気持ち悪くなってきた。
あ、やべ。
【たいへんお見苦しい映像のため省略】
胃の中のものを吐き出してもさらに続く。
すると胃が痛くなる。
毒?
いや検査はしたはず!?
そして俺は血を吐いた。
あん?
「なんか蠢いて……うんぎゃああああああああああッ!!!」
すぐにナースコール。
俺の吐瀉物はすぐに回収。
なんと孵化したばかりの屍食鬼の寄生虫だった。
入院延長!!!
原因はわからないけど、どこにいるかわかったので検査の精度が上がった。
CTにもMRIにも映らねえし、超音波や内視鏡から逃げやがるの!!!
こんなの見つけられねえよ!
感染者は院生と俺。それと実験助手数名。
それとクレア。
嫁ちゃんは大丈夫だった。
つまり俺は朝チューの後に感染したらしい。
感染者は解剖してた人と見てた人。
食べものに共通性は……って軍艦で同じ物食っとるわ!!!
空調系統は……ってダクトで繋がってるけど遠いよ?
すると艦内で蚊の死骸みたいなのを発見。
これが寄生虫の中間宿主っぽい。
艦内は大騒ぎ。
俺の人体実験結果からナノマシンでの駆除装置を製作。
全員接種した。
アオイさんとワンオーワンは感染なし。
感染してたクレアはナノマシンで駆除。
で、それでわかったんだけど、あの甘すぎのお菓子!
あれに使われてたスパイス。
ラターニア原産の植物の実。
それに駆除効果があることがわかった。
あのクソ甘いお菓子は寄生虫駆除用の薬だったのではないかという説が持ち上がった。
そんなのわかるはずねえだろ!!!
ということで薬がわかったのでラターニアと共有。
ふう、助かった……って思うじゃん!!!
普通ならここで終了って思うじゃん!!!
……じゃあさ、屍食鬼ってどこから来たの?
そうなのである。
ゾークネットワーク互換ネットワークを使う寄生虫が本体説。
それが濃厚になってきた。
で、ラターニア大使が青ざめた様子で連絡してきた。
「ラターニアのいくつかの惑星が屍食鬼に乗っ取られました」
そして同時にサリアからも連絡。
「例の薬を国民全員に飲ませる説計画を立てたところ、いつくかの惑星が反乱を起こしました」
もうね、なにこのカオス!!!
そういきなりピンチになったのである。
ちょっと待って、屍食鬼の勢力ってアホみたいに広いんじゃ……。
俺たちが知らなかっただけで。
だから屍食鬼は余裕だったのか!
屍食鬼は海賊ギルドやプローンがどうなろうとかまわなかったのだ。
屍食鬼はもっとしたたかな生き物だったのだ。
ゾークも運が悪すぎる!!!
そして俺はある決断に踏み切った。
病室からイーエンズ爺さんに資料を送る。
メインランドの存在に……わかってることすべて記載した。
するとイーエンズ爺さんはすぐに会談を要求してきた。
敵か味方か。それはわからない。
いやおそらく損はしない。
表立って味方するわけじゃないけど、なんらかの情報をくれるはずだ。
海賊ギルドからしたら屍食鬼切って帝国と仲良くしても困らないのだ。
イーエンズの爺さんは開口一番宣言した。
「屍食鬼討伐に参加させていただきます」
さーて思わぬ仲間ができたんだけど、屍食鬼ちゃんはどう出るかな?




