第三百五十五話
さーて現在のレオさんは~。
レオさん、なんかモテはじめる。
ただしおっさんどもに!
クレアさん……いやクレア様にサポートで商社【帝国】のシャッチョサンとリモート会議。
シャッチョサンは侯爵だ。
雲の上の存在どころか、本来なら人生で関わることのなかった存在だ。
いやお前も侯爵家だろって思われるかもしれないけど、レベルが違う。
公爵会だってヤバいけどこっちは実力を伴ってる。
何代も重ねても公爵会に潰されなかった化け物である。
このおっさんのヤバさは想像以上。
だって公爵会関連企業を会社の吸収して雇用を守ったのだ。
普通は末端がババ引かされるものだが、それもほとんどなし。
違法行為やってた連中はさすがに逮捕されたけど、それ以外のダメージは軽微だった。
そのくらいの零細業者の従業員だと軍っていう選択肢もある。
ゾーク戦争のせいで軍は深刻な人手不足である。
他にも地方移住を視野に入れれば雇用はいくらでもある。
失業率なんて報道されなくなった。
最後に見たの去年だな……。
唯一ババ引かされたのは公爵会関連企業の株持ってた層だろう。
公爵会関連企業の株で運用してた銀行や保険会社へのダメージは軽微。
だって吸収合併したもん。
ファンドもまあまあ大丈夫。
ちゃんと吸収合併するって速報流したもん!
個人株主は……どうにもならんよね~。
ギャンブル感覚層とあせって損切りした層は救えない。
法律的に無理だった。
帝国は法治国家なのである。
事実上の革命起こしてごめんね。
いやワシら政府側なんだけどさ。
皇室盾にして好き放題してた連中一掃しちゃったもの。
……というわけで経済をよくも悪くもメチャクチャにした責任を取ってる最中である。
「おはようございます! よろしくお願いします!」
朝じゃないんだけど元気に「おはようございます!」。
労働時間が固定されてない職種あるある。
……商社もか?
なお本当だったら身分が上である大公の俺が先に挨拶するなんてのはまずいのだが、そんなの知らん。
俺は侯爵という名の農協組合長の息子である。
いいのいいの。権威があるのは嫁ちゃん。
俺は叩かれる壁でありたい。
「おはようございます。よろしくお願いします」
もうなれてしまったのかシャッチョサンは笑顔で挨拶してきた。
最初は焦ってくれたのに。
事前に送った資料なんかを分析したレポートを送ってくれて、中長期の経営指針をくれる。
事前に最終稿は目を通してる。
電子印鑑で【承認】っと。
「いやあ……まさか伝統を守るためだけに作っていた赤字商品がこんなに売れるとは……」
「ですよねー」
すでに麻薬なんかの市場を一掃する勢いでニッキ菓子や甘草菓子が売れてる。
あとストロングミント菓子に大根とかスモモの酢漬けなど。
とにかく刺激のある食べものが売れまくってる。
商社が対策会議開くくらいに売れてる。
「帝国では不人気のスパイス味の魚醤チップスも盛況です……取り合いになるほど盛況です……」
「やはりプローンの聖都を農地にするしかないかな……」
プローンの出した廃棄物で汚染された土の入れ替えが終わった。
この土は研究用になる。
こういうところから有用な薬を作る微生物を発見したりってはわりとあるのだ。
保管して研究する。
というか、いくらゲートがあって安全に来られるからって外宇宙になんて誰も来ねえだろって思ってたのよ。
俺は家帰りたいもん。
だけどさ世の中はわからないものである。
命知らずの商社社員に、命知らずの研究者、完全に安全意識が弾け飛んでる民間団体なんかが来るわ来るわ……。
志願者募集すると開始と同時に抽選の定員が埋まる状態だ。
【プローンの子どもたちの教育したいです】みたいな団体もだ。
いやそれ、帝国政府ですら「……どうしよう」ってなって会議が進まない状態なんだけど。
プローン教をある程度維持しながら肉食やめさせるという無理ゲーだからね!
とりあえず保留で。
なお草食の奨励と藻パウダーの導入で死亡率が激減したとのこと。
やっぱり無理な食生活だったんじゃん!
それと「観光したいです!」みたいな問い合わせは却下してる。
ラターニア人とトラブル起こす未来しか見えない。
ラターニアは闇金の作った国家なのにギャンブル許可されてるのよ!
身ぐるみはがされるでしょ! どう考えても!
ただラターニア人は約束を異常なほど重んじるため、八百長は法律で禁止されてる。
最高刑は死刑である。
バイク的な乗り物のレースで八百長やった連中が処刑されたってニュースが流れてたくらいだ。怖ッ!
さらにこっちで言うところのスロットマシンの仕様聞いたら複雑すぎて頭痛くなる。
要するに「詐欺は絶対に殺す」である。
「こりゃボウリング場には確率機置けないな」ってなったほどだ。
なのでプライズゲームの景品が食べもの偏重でややショボいが……「さすが帝国。わかってるな」って良い評価を受けてるから世の中わからない。
メダルゲームはそのままでも審査が降りた。
換金できないからいいんだって。
「約束のない世界はこうなんだぞ」っていう教育的効果があるんだって。
最近の中でも一番理解できない概念である。
間違ってるとか許せないじゃなくて、ひたすら宇宙猫になるやつ。
そんなわけで話し合うことは無限にある。
シャッチョサンも毎日が充実してるみたいで顔がツヤツヤしてる。
一方、俺は完全にド素人である。
帝都の有名大学出て各地を転々としながら30代後半くらいで仕事の全体像が見えてくる系の職種である。
俺にわかるはずがない!
クレア様がいなければ拙者は虫けらに候。
裏ではさぞバカにされてるんだろうなって思ってたの。
そしたら
「【まだお若いというのにこの理解力。お見それいたしました】ってほめてたよ」
だって!
クレアに言われた。
わからない。なにもかもわからない。どこまでがリップサービスなのかすらわからない。
さーてそんな感じで戦闘してないなあって思ってた。
海賊も屍食鬼も大人しい。
嵐の前の静けさかなって思ってたらラターニアから連絡が来た。
例の暗殺事件の背後まで詳細に調べたデータである。
印刷したいと思わない膨大なファイルサイズに拙者盛大にビビリ散らかす。
滝のように汗を流す大使に思わず言っちゃったよ!
「どう考えてもいま読み切れる量ではないので後日会談でよろしいでしょうか?」
「は、はい!!! もちろんでございます!!!」
レオくんこんなの読みたくないよ~。
でも少なくとも概要は把握せねば。
この分厚さ。
これが約束を破らない文明の恐ろしさであろう。
とりあえずわかったことは全部書いてるんだろう。
別にラターニアを疑ってるわけじゃないのに。
これ悪意ないのよ。
真剣なのよ!




