第三百五十三話
空腹を抱えながら会議室へ。
【お客様】ってのはラターニアの大使だった。
ラターニア大使とリモート会議である。
「ら、ら、ら、ラターニア人が閣下の暗殺を謀ったというのは本当ですか」
大使はあわててた。
そりゃねえ、【戦争はじまるかも?】っていう瀬戸際だし。
いや俺たちは戦ってもいい。
でもラターニア的には自分たちと話が通じる商売相手だ。
今のところは商売は小商い程度だけど、将来はわからない。
というかラターニア相手に商売する連中はそんなに多くない。
俺たちは雇用を生み出してるし、ちゃんとニコニコ現金払いだし、現地の慣習には従うし、わからなければちゃんと聞く。
日本人の末裔的にはやりやすい相手である。
ラターニアも俺たちの商売が大きくなった方がいい。
戦争するよりは仲良くするほうが利が大きいのである。
約束の重さに関しても俺たちはやりやすいはずだ。
もし戦争するんでも自分たちのタイミングではじめたいはずだ。
年単位で経済を排除してからかな?
「いえ、わからないんで問い合わせただけです」
「は、はあ……抗議などは?」
「まだなにもわかってないのでなんとも」
案外冷静な俺に対して大使はあわててた。
そりゃねー、この銀河だと戦争開始だよね~。
でもね俺たちからすれば敵の意図がわからなければなにもできない。
だってさー、ラターニアと俺たち戦わせて弱ったところを両方パクリなんて考えてそうじゃん。
それに狙われた本人が涼しい顔してるのだ。
国内世論程度に文句は言わせない。
「あ、あの……閣下はお怒りではないと?」
「よくあることですので」
ケビンに撃たれて以降、暗殺者の襲撃は何度もあった。
なぜか俺、殺りやすいと思われてるんだよね。
いまさら驚くことでもない。
「怒ってるんじゃなくて黒幕が誰か知りたいってだけですのでご安心を」
「は、はあ……」
もう大使さん、冷や汗だくだく。
ずっと汗ふいてる。
いわゆる強硬姿勢のタカ派からは「開戦の原因になりそうな発言取ってこい」って言われて、平和主義のハト派からは「絶対に戦争にならないように!」って言われてるんだろうな。
板挟みつらい。
「正直言うと、帝国を謀略で動かそうってのが気にくわないってのはありますけどね」
「閣下は犯人が我々ではないとお考えですか?」
「いま私を殺そうとする理由がありませんので」
大使が汗をふいた。
ひとまず平和ルートの方針が固まったのだろう。
……たぶんね。
大使がウルトラ優秀かつタカ派の手先で俺たちが【チョロい相手】だって報告するかも。
でもそれもいいや。
たとえチョロい相手でも、もうラターニアは俺たちを田舎の小国なんて思ってない。
遠くの対策が必要な相手くらいには思ってる。
「は、犯人は海賊ギルドでしょうか?」
「それも先方に問い合わせてます」
俺はわざと言った。
【海賊ギルドと外交チャンネル持ってるもん】って意味である。
【自分たちが代理します!】みたいなのを牽制する。
操られてたまるかっての。
それがたとえ善意であってもね。
俺たちは独立国だぞっと。
「そ、それはそれは」
冷や汗ダラダラ流してた。
おそらく予想してたより俺たちがコミュ強文明だったのだろう。
ゾークと祖が同じだからそういう評価になるのはしかたない。
「とにかく我々は情報提供をお願いしたく。よろしくお願いいたします」
頭を下げておく。
別に条約結んでるわけじゃない。
犯人引き渡しも求めない。
情報も善意で提供して欲しいってお願いしてるだけだ。
貸しも借りもない。
ただ断ればラターニア側に貸しが作れる状況だ。
「ぜ、善処いたします」
まー、かわいそうなくらい汗だくだくである。
圧力かけて個人的な恨みを買う気はない。
物事の道理がわかってる相手が法律の範囲内でお願いしてるだけ。
別に断ってもいいっすよ。
どう転んだって困らないし。
被害者の俺が言うのだから間違いない。
で、会談終了。
「レオくん、どうだった?」
妖精さんが現われる。
どうせ聞いてたくせに~。
「当たり前のことをお願いしただけ。貸しも借りもないかな」
「いいのそれで?」
「うん犯人でっち上げられても困るだけだし」
で、今度こそカツ丼作りたいなって思ったら通信が入る。
外務省のお姉さんだ。
「閣下、イーエンズから会議の申請がありました」
「はいはい繋いで」
おなかすいた。
通信が接続されてイーエンズ爺さんが映る。
爺さんは震える手で拱手してた。
「このたびは……まことに……」
「ハメられたんだと思いますよ」
直球をぶつけてみる。
だってこれで話し合いにならないほど頭悪ければ、そこが弱点だってわかるし。
ある程度状況を認識してるって思わせないと。
暗殺者向けられた本人が冷静なのは意外だったみたいだけどね。
なるべく話が通じる連中と思わせたい。
それを弱みと取るようなら殲滅すればいいだけだ。
話し合いができていい子にしてるなら見逃す。
この銀河で帝国領なのプローンが持ってた領地だけだし。
それも大半はカメさんやウサギさんオオカミさんなどの領土を奪われた国に返還しちゃったしね。
プローンが荒らし回ったとこは帝国主導でテラフォーミングしてるけどね。
国を返還したら帝国民になりたいって言われたけどさー、返事は保留した。
不可能だよね~。
文化も風習も違う。
後に禍根残すだけだわ。
だもんで海賊ギルドに関しても惑星プローンとその周辺の帝国領土で悪さしなければ基本スルーである。
鬼神国をはじめとする友好国には軍事支援するけどね。
でもそれもいつでもひっくり返る。
海賊ギルドが全面戦争をお望みならね。
それがわからない爺さんではないだろう。
「こちらでも調査いたします」
爺さんはいまはそう返事した。
腹の中じゃ罪をなすり付けたい連中が無限に出てきて損得考えてるんだろうけどさ。
正直言うのが一番だと思うよ。
「ありがとうございます。でも犯人見つけても首送ってきたりするはやめてください。うちはそういう文化じゃありませんので」
嘘である。
地方では切腹斬首ありありである。
でも帝国政府代表としてはそういう野蛮な風習ないよって言っておく。
というかね!
首でいいってなったら全然関係ない首送ろうとするでしょ!
それを調べるのに膨大な書類がががががががが……。
書類仕事煩雑にされたも困るのよ!
「胸に刻んでおきます」
会談は終了。
俺のはらはグーグー鳴っている。
もうね我慢できない!
俺は早足で食堂に行く。
食堂の冷凍庫から俺の名前が書いてある保存袋を取り出す。
カツ! ヨシ!!!
油ヨシ!
米ヨシ!!!
卵ヨシ!!!
揚げてくれる!!!
「た・い・ちょ・う♪」
メリッサに見つかった。
「ちょうだい♪」
無言でサムズアップ。
理解のある婚約者でよかった。
するとハラペコどもがやって来る。
「はらへった~。レオがカツ丼作ってるって聞いたぞ」
エディがやってきた。
「いま作ってるわ」
するとエプロンつけたケビンとニーナさんも援軍で来た。
「おなかすいた~。レオ、タレ作って。レオのは外食味だから」
ケビンまでイソノと同じ事を!
「手伝うよ~」
もうね、お昼食べないでずうっと仕事してたもんね。
クレアたちも合流してみんなで調理。
「びえーん! おなかへったであります!」
「レオの兄貴~。はらへった~」
タチアナとワンオーワンのハラペココンビも来た。
「いま揚がるから待ってろ。配膳頼むわ。麦茶配ってくれ」
「ういーっす」
「お手伝いがんばるであります!」
飯作ってたらとうとう嫁ちゃんまでやって来た。
「婿殿~。おなかへったのじゃ~」
「へーい」
もう俺、こういうのでいいのよ。
頭使うのやめたい!




