第三百五十一話
さーて、楽な海賊退治のはずが面倒な展開になってきたぞ。
とりあえず荒くれの中ではマシな方の海賊を大量に雇用。
鬼神国だとトラブル起こしそうなのでラターニアに出店しまくる。
店を作ってから雇うんじゃなくて、雇用が先なので社員教育は問題なく時間が取れた。
元海賊の従業員もラターニア人相手の商売だから緊張感を持ってる。
暴れたり商品に手をつけたら即死亡フラグが立つのをわかっているようだ。
ここまで考えてたらあの爺さん……俺の天敵だな……。
爺さんの方も俺を殺すって選択肢をあきらめたんだろうけどね。
爺さんの方のゴールは明確だ。
「イーエンズ大人のとこの海賊か。見逃してやれ」
って勝手に現場が言い出す空気を作ることだろう。
それもさー、せいぜい危険物じゃないものの密輸とか売春やカジノ程度を見逃す話だ。
その程度のお目こぼしでいちいち処分してられない。
むしろその程度すら絶対に許さない潔癖さは弱点になりかねない。
警察行政を市民から引き剥がすのは破壊工作の初歩だよね~。
そこから社会をグズグズにできるもん。
現実問題としてカタギさんに迷惑かけたら取り締まられるって程度でいい。
イーエンズ大人がこの辺の売春の元締めだと仮定すると……仲良くするしかない。
ボウリングだけじゃまだ勝てない。
アニメだって●休さんでならしてる段階だし。
映画も持ち込んだけど演者は帝国人だ。
種族の違いで浸透してない。
アニメや映画を始めとする各種クリエーターも育成段階だ。
10年はかかると思う。
いやー20年かかるかな。
セルバンテスがはじめたイラスト入りチラシや店内POP。
あとひたすら流れるオリジナルソング。
鬼神国やラターニアでは商業イラストレーターが生まれつつある。
まだお店のチラシレベルだけどね。
これも20年はかかるかな。
店舗がある地区のラターニア警察とコラボするしかないな。
【けじめくん】とかどうよ?
約束守るカワウソ。
約束守れなかった子をバッティングセンターに連れてく……。
余計な思想が入りすぎてるな。却下。
とにかく海賊の少なくとも一つの派閥が俺と仲良くすることを選んだ。
うーんめんどくさ。
もうちょっと筋肉とか物理とかで決着つけられないかな?
そしたら軍部からメッセージが来たのよ。
「なによこれ? えーっと嫁ちゃん、いまそっち行っていい?」
「なんじゃ?」
「俺、准将に昇進とかいう寝言が送られてきたんだけど!」
「寝言じゃないじゃろ。むしろ当然じゃろ」
「いや俺に准将の仕事できるはずがないでしょ!」
「……もうやっておるではないか。まて婿殿……まさか……認識がその段階なのか……」
はい?
「おいどんまだ10代でごわす!」
嫁ちゃんの執務室でそう主張すると嫁ちゃんがため息をついた。
「あのな婿殿。胸に手を当ててよく考えてくれんか?」
「ほう……浮気してないよ、俺」
「それは心配しとらん。それに浮気してたら昇進させないじゃろが! まったく婿殿は……婿殿はいまなんの仕事をやっている?」
「諜報活動と外交? それと少々の工作」
「諜報活動と少々の工作は本来どこの仕事じゃ?」
「軍……あ!!!」
「軍はいま大騒ぎじゃぞ。レオ・カミシロを囲い込めとな」
拙者、少々やりすぎた模様。
「な~にが【自分はいち兵士】じゃ! すっかりだまされたわ! たいした戦略家ではないか!」
「た、大軍指揮するのは苦手だもん! 将棋だってクラスで一番弱いし!」
軍略は無理でゴザル。
本当に将棋とか弱いのよ。
なお囲碁は勝敗判定の部分で挫折した。
何度説明書を読んでも勝敗判定のとこがわからん。
士官学校の作戦指揮シミュレーターも苦手だし。
「こちらの血を流さずにプローン滅ぼした時点で軍の評価が覆ることはない」
「あれはほぼ運じゃん! ラターニアの介入あったし!」
「だから准将じゃ。仕事が問題なら現状よりも仕事量は減るぞ。現場指揮官も兼任じゃ」
「おっと現場仕事はしていいのね。なら受けるわ」
「どういう判断じゃ……」
いやだって戦闘機乗らない俺とか考えられん。
人型戦闘機乗り引退するには若いと思うのよ。
というわけで名ばかり准将決定。
プロパガンダ的に考えれば、若くして戦争で活躍すればトップ近くまで行けるって示すのはいいことだよね。
帝都の有名大学卒業者のエリートだけが人生の成功ルートじゃないっては重要である。
そりゃエリートも努力したんだろうけど、それしか道がないってのは健全じゃない。
エリーコースから外れた人間が努力しなくなるもの。
庶民に夢を見せるの、本当に大事。
働くの楽しいよ。
結婚楽しいよ。
子どもいると楽しいよ。
このプロパガンダ。本当に大事。
これがなかったから帝国は慢性的な少子化傾向なわけでな……。
というわけで名ばかり准将決定。
えーっと会社で言うと人手不足の会社で平役員で部長で課長で係長まで兼任してる感じ?
ディスカウントストア基準だとパートタイマーの副店長が本社の役員兼任してる状態か……。
……終わってるな帝国軍。
ぼやきながら戦艦の共同トイレに行く。
レイブンくんもトイレの前で待機してる。
護衛だからしかたないよね。
そこで俺は自然の声に耳を傾け……。
うん?
トイレの外にいるレイブンくんに声をかける。
「なんかいる」
血相変えて中に入ってくる。
小なのでなんとか止められた。
ビッグガンをファスナーに挟まずに収納。
大きいから挟まずにすんだな!
大きいから!!!(変なプライド)
収納さえすれば見えようが見えなかろうがなんとでもなる。
不審者の姿は見えない。
光学迷彩かな?
でも気配はすぐにわかった。
銃だったらヤバい。
攻撃なんかさせない。
ステップワークで狙いを定めさせないで、思いっきりボディブロー!!!
おっしゃ!
ここにいるな!
タックルして持ち上げる。
「つ~か~ま~え~た♪」
そのまま後方にぶん投げる。
反り投げじゃ!
武器なんて使わせない。
思いっきり床に叩きつけてさらに背中をつかむ。
持ち上げて! 回しながら後方にぶん投げる!!!
カレリンズ・リフト!!!
「もう一度行くぞ! コラァ!!!」
と叫んだところでレイブンくんに羽交い締めにされる。
「れ、レオ様! 殺してしまいます! どの勢力の工作員か尋問しなければ!!!」
光学迷彩は解けていた。
襲撃者はマスクをしてナイフを握っていた。
ベロ出して失神してるけどねえ。
武器から手を離さないとは敵ながらアッバレ!
格好は……まーた胡散臭いアジア風。
これがなイーエンズ爺さんがよこしたヒットマンならどれだけ楽か。
だって俺は知ってるもの。
これイーエンズ爺さんのとこの服じゃないもの。
微妙に文化圏が違う。
まるで外国人から見た中華風にされてしまった封建時代日本くらい違う。
マスクを取るとラターニア人だった。
でもラターニア人が襲ってくる理由ないし。
「えーっとレイブンくん、嫁ちゃんに通報。それとラターニアの大使と会談セッティングするから」
「かしこまりました。保安部、侵入者を捕獲した! 警戒レベルを上げろ!」
警報が鳴る。
一人とは限らないもんね。
さーて、忙しくなってまいりましたよ。




