第三百五十話
大人。
翻訳音声だと「たいじん」。
ターレンとかかな?
最初さー、翻訳のバグだと思ったのよ。
そしたら異世界後宮モノみたいな老人が画面に映った。
完全に東アジア風の伝統服だ。
時代とか王朝はわからないし、そもそも同じ祖先とは限らない。
先入観は厳禁だ。
服は化学繊維だけど。
でも帝国も坊さんがゲーミング坊主だからな。
人のことは言えない。
口に出さないようにしとこ。
「大公閣下にご挨拶を」
イーエンズは片手で拳を握って、もう片手で拳を包み頭を下げた。
拱手かな?
拱手だとしたら右手を包んでるから男性かな?
いや爺さんか婆さんかわからない顔してるのよ。
種族の違いもあるけどさ、なお種族的な外観はラターニア人に近い。
「よろしくお願いします」
俺も拱手。
まずは立った状態。
【休め】から足を閉じて【気をつけ】の直立不動になる。
そこからはうろ覚え。
たしか手の甲をつけてVの字にした両手を前に出して、下から回してから拳を握って両手を腰の横に置く。
そしたら拱手してまたVの字にして前に出す。またクルッと回して拳を腰の横に。
そしたら右手を手刀にして左胸の前に置く。
親指は手の平の方にたたむ。
左手は同じく手刀で下に伸ばしておく。
その状態で一礼。
日本式より浅めの角度で顔は下ではなく相手を見る。
「そ、その礼は……?」
説明しづらいのでほほ笑む。
「親切な人に教えていただきました」
嘘である。
なんか知ってた。
たぶんソース元は前世。
もう18年近く前というか妊娠中の期間も入れて19年弱も前か。
しかも脳が未発達な赤ちゃんから幼児のころに大半の記憶をロストしてる。
もはやどこ情報だかもわからない。
なお、この礼をしたのは悪意のない軽い嫌がらせである。
一定程度の規則性を持った礼法、しかも同じ文化圏もしくは周辺で存在してそうな礼法だ。
しかも帝国の礼法とは違うもの。そのくらいは調べてるはず。
それをやることで【周辺国とすでに接触してるかも】とか【もしかすると同一の祖先か?】とか【もしかして中にスパイがいるのか!?】とか調べることが山のよう増える。
調べてもなにも出ないけどね~。
「それはそれは……。親切な方ですか」
だけど向こうさんも古狸。
もうリカバリーした。
最初だけ驚いてたけどすぐに笑顔になる。
男の声だけど音がちょっと高いな。
去勢された男性歌手。カストラート的な……。
……去勢?
宦官だ!!!
タマタマをたまたま取っちゃう官僚だー!!!
そういや大航海時代に冒険した宦官がいたな。
タマタマがきゅっとした。
やあ! ぼくレオくんのタマタマ!
レオくんはタマタマ取っちゃう話になるとタマヒュンするんだ!
ビビリだね!
なおこの場に嫁ちゃんはいない。
嫁ちゃんが海賊が嫌いなのと犯罪者に皇帝自ら会うってのはまずいってなったからだ。
副官というか俺の尻拭い要員としてクレアがいる。
護衛も部屋の外にレイブンくんたちがいるだけだ。
「レオ大公閣下は非常に見識がお広いようで……。私どももメンツを潰されなくてすみました」
それはイソノのファインプレーだ。
俺はメンツ潰そうと思ってた。
「発案者はイソノです。イソノに伝えておきます」
「レオ大公閣下は優秀な部下をお持ちだ。実にうらやましい。これで5大人どもも大人しくなりましょう」
あらま新情報。
5大人。
海賊ギルドには5人の大幹部がいるってことか。
「5大人とはなんですか?」
「海賊ギルドの5代派閥です。やつがれもその一つの長をさせていただいております」
あー、【大人】なんて訳されるのは本当に最高幹部だからか。
「失礼ながら、この近辺の文明圏の方ではないご様子ですが」
「その通りでございます。やつがれはかつて太極国の宦官でございましたが……いまでは身を持ち崩し海賊の幹部になる始末、生き恥をさらしております」
やはり宦官だ。
思いっきり自分を下げてる。
つまりそれだけいまの自分に自信を持ってるってことだ。
この爺さんなら俺との直接戦闘を全力で避けるし、頭脳戦も得意だろう。
その点、俺は経験が圧倒的に足りない。
戦闘はまだしも外交と政治はアマチュアに毛が生えたようなものだ。
こりゃ難敵だぞ。
いや……敵になるかどうかもわかってないのか。
うっわ!
この銀河、メンツが濃い!!!
俺は特にレスポンスを返さなかった。
最大限に警戒。
「それで本題でございますが……」
「他の大人殺せ」なんて言いだしたら敵確定だろう。
あと海賊行為を認めろとか私掠船のお墨付き与えろとかか。
それは断るしかない。
残念でした!
うちは法治国家なのよ!
「ラターニアでの商売を拡大して頂きたく……お願いつかまつります」
「はい?」
「銀河帝国が現われた以上、この星域での海賊業は成り立ちますまい。海賊……息子たちをカタギにしてやりたいと思います」
つまりうちの会社で雇えと。
乗っ取り……?
されても特に困らんな。
ポテチは似たようなイモあればすぐにコピーできるし。
別にゴボウとか菊芋とかそれこそアピオスとかでも作れるわけで。
会社乗っ取られても、というかラターニアに取り潰しされるシナリオをちゃんと考えてあるしな。
それが内部からの乗っ取りになるだけで。
これさ民間とか小さな銀行なら一大事だけど、帝国経済全体から見たらカスみたいな事業だしね~。
カミシロ大公家が持ってる銀行だけでダメージ受け止めきれるレベル。
最終的にはカミシロ大公家所有の保険会社に少し影響出るかなって程度だ。
それも最終的には国が補填するしね。
うん、ぜんぜん困らん。
「いいですよ。いい子にしてくれるなら」
「荒くれどもですので多少はあるやもしれませぬ。そのときは遠慮せず処断して頂きたく思います」
言葉は嘘ではないようだ。
少なくともいま口にしてるその瞬間は本人も言葉を信じてる。
本音と発言を完全に分けられるタイプか?
うーん、腹の中でなに考えてるかぜんぜんわからん。
鬼神国みたいに感情に訴えかけると弱いとか、公爵会みたいに腐敗しきって逆に行動パターンが読めるとか、ゾークみたいにそもそも交渉する必要がないとかじゃないぞ。
困ったな。
業務急拡大につき人手が足りないんだよね。
正直海賊でも助かるわ。
でも恩着せがましく言うこともない。
あくまでイーエンズが帝国に頼んでるというカタチだ。
それも海賊撲滅の手がかりではある。
仮に俺に仕向けた暗殺者や破壊工作員でも海賊殲滅への大義名分ができる。
何一つ困らない。
しかも今回の件、俺に決裁権がある。
だって会社の最高責任者俺だもん。
我がディスカウントストア【セルバンテス】とボウリング場【カウントワンツースリー】で大量に雇うことになりそうだ。
うっわ、今まで一番苦手な相手が現われたよ!
【お前が年取った姿じゃね?】
やめろ!
そういうのだけはやめろ!!!




