第三百四十五話
ラターニアにはリップサービス不要。
曖昧表現はだめ絶対。
それを心に刻む。
余計なこと言って約束と判断されるのは避けたい。
取引はニコニコ現金払いと、現地社員の誰が決裁権限を持っているかと限度額まで取引先にも通知。
勝手に取引されて詐欺みたいに潰されるのを避ける。
さらに取引や会話内容のすべてをログとして保管、訴訟に備える。
と、ここまで警戒感バリバリでやってたら印象悪いかなって思う。
ところがだ、ラターニア的には好印象のようだ。
「我々のやり方に合わせていただいてとても助かってます」
完全に文化の違いである。
ラターニアを警戒しまくっていたが、もしかしてこいつら……悪意自体はない?
単に異常な思考なだけぇ?
で、やはりだが、国民のほとんどは契約を理解しないヤンキーである。
なので一部の知識階級に契約で縛られ、半奴隷状態にされていることがわかった。
軍も借金で志願させる……実質徴兵制が敷かれている。
ラターニアの軍役で金がもらえるわけがないじゃないですかー。
ゆえに軍人の士気は限りなく低い。
職業軍人の俺たちからするとタマヒュンである。
……ぽくラターニアの子じゃなくてよかった。
従業員からも地獄みたいな話をいくらでも聞ける。
借金返済まで無給とか、軍で学んだことは死にスキルになるとか、戦場に出てPTSD患っても補償がないとか、そもそも保険に入れないとか。
帝国における徴兵制を常々疑問に思ってたが……。
ちゃんと給料が出る!(残業代もちゃんと出る!)
各種免許の講習あり!(スキルアップで失業率減少!)
徴兵される前に志願すると各種奨学金が受給可能!(俺たちにも出る!)
10代から体を鍛えまくってるわけじゃない普通大学の院生は義務警察官で代用!(うろうろされたらジャマ!)
退役軍人会によるアフターサポート完備。(これがなくなったら暴動が起こる)
軍人共済による保険制度あり!(死亡時にクローン作れるくらいは出る)
ラターニアと比べたらなんと先進的な制度だろうか!
そんなわけでラターニア社会の情報がいくらでも入ってくる。
ラターニアは国家統計を公開してない国家だ。
でもね、そんなの無意味なの。
推論する方法は千年以上前に確立されている。
うちのボウリング場もディスカウント店も雑談は許されてる超ホワイト企業。
というか雑談に給料払ってる認識だ。
雑談、これ重要。
スパイなんか潜入させるより効率的に情報収集できる。
ラターニア側も店に工作員を潜入させてるはずだ。
帝国のポテチとかせんべいとかボウリング場の仕組みなんかの恐ろしくくだらない情報とラターニア人のリアルな生活とかの情報をトレードする。
ラターニアだって帝国の醤油や塩の生産量からおおよその人口や少子化傾向なのくらいはもう分析してるはずだ……してるよね?
してなかったらおかしいよね?
俺たちは主食や調味料の生産量からラターニアのおおよその人口を把握してるよ。
社食から一人あたりの消費量がわかるもん。
向こうの会社とも取引するから、取引と売上から社会全体で扱ってる食品の総量を推測できるし。
従業員に払ってる給料から経済規模もある程度推測できる。
すると食品の廃棄量とかも見えてくる。
経済規模から過剰生産分を算出できるもんね。
こうやって出した数値はラターニア公式が宣伝してる数字より実態に近いだろう。
数学怖えええええええッ!
「ゴミの回収とかどうしてるの?」って現地人に聞けば処理の方法がわかる。
帝国での大学生にあたる学校の子を雇えば、専門の子がいるので雑談ついでに教えてもらう。
帝国みたいに執拗なリサイクルはしてないみたい。
現地の駐在員から【川が汚れてるな】とかの情報をもらったら少し調べれば原因がわかる。
隠すほどの情報じゃないところから社会全体を丸裸にしていく。
別に敵対行動じゃない。
鬼神国でもバトルドームでも同じことしたもの。
両者とも情報はオープンだからサリアに聞けば国家の大きさや経済規模がわかる。
プローンくらい文化が離れてると少し難しくなるけど、それでもある程度は把握できる。
法律の方も【我が社はラターニアの法律に従います。資料ください】って言えば資料教えてくれるし。
市販されてれば資料買えばいいだけだし。
宗教や伝統なんかも市販品を買っておく。
逆に軍事情報なんかは集めない。
警戒されたくない。
お人好しで善良な国家と思わせるのが大事。
だってラターニアの軍事情報なんて海賊締め上げればいくらでも手に入るもの。
って話を嫁ちゃんにしたのね。
そしたらさー。
「婿殿……外務省に統計の専門家を配置しろと言ったのはこのためか!」
「うんだ。妖精さんの持ってた古い資料からやり方発掘した」
人類統一政府だった時代が長すぎて外務が死んでたからね。
「こ、ここまで婿殿が外務向きとは妾も思ってなかったのじゃ……」
なんか世間では俺が外務省を立て直したみたいに言われてる。
違うもんね!
立て直したのは妖精さんと歴史研究者。
歴史でよくある【~を建設した歴史上の人物は?】って問題と同じ。
答えは大工さんである。
俺は資料どおりにやっただけ。
でだ、今回の大会の話に戻そう。
ラターニアのお店で大会を宣伝する。
鬼神国とプローンのチャンネルだけじゃ宣伝効果が低いからね。
広告業界がわりと未熟だったので苦戦したけどお店で宣伝する形にした。
本当はネットでバンバン宣伝したいんだけど、ラターニアは検閲あるから届かないんだよね。
別にラターニア社会に届けたいんじゃない。
【今から海賊ぶち殺すから】って上層部と周辺国に宣言してるだけだ。
ここまで露骨にやったのに気づかなきゃ知らん。
海賊との取引を停止するか俺たちに接触するか。
どちらにせよ損にはならん。
あえて誤算を言えば、ラターニア人の参加希望者が殺到したくらいだろう。
みんな金色のネックレスつけてる系のヤンキー。
選抜大会を開かないといけないくらいである。
なお予選失格者にはサッカーでもやってもらって満足してもらおうと思ったらラターニア側に却下された。
スポーツが許されるのか宗教庁で審議するので待って欲しい。
うす了解ッス。
面倒な連中だな。
……球技にビビリ散らかすなよ。
あ、賭けやるやつがいるから取り締まらなきゃいけない?
あ、はい。
予測はしてたが不自由な社会のようである。
こうして俺たちの準備は続き、大会当日を迎えたのである。
はっはっは!
最近訓練できなくてストレスたまるわ……。




