第三百四十二話
娯楽が消滅したディストピアワンダーランド。
それがこの銀河の正体だろう。
人々の話題は喧嘩と女と薬だけ。
……田舎のヤンキーかな?
テクノロジーは戦争のため。権力を握るのは金貸し。
一部の強者によるやりたい放題と民への搾取。
中堅国のVIPすらその異常性に気づくことはない。
そこにスポーツやイラスト、音楽やプロレスなどの娯楽を持ち込んだのが帝国である。
その反逆者がプローンだったと考えることもできる。
価値観が帝国寄りの鬼神国だって娯楽なかったもんね。
俺たちとしては別にプロを育成したいわけじゃない。
コミュニケーションの手段として持ち込んでるだけだ。
映画だって最初は仮装した人がキャッチボールする映像から始まったんだぜ。
完成度なんて気にしない。気にしない。
挿絵やデザインする人に別に料金が発生するところからはじめようと思う。
だってさ、鬼神国語の文書。だんだん読めるようになってきたんだけど。
……フォントが一つしかないのよ。
デザインするって習慣がないのね。
いや多少はあるんだけど伝統の範囲内での個人のこだわりレベルなわけで。
なので現在、会社や個人デザイナーなんかと組んでフォント開発中である。
そこからかよと!
思えば……俺たちの社会ってありとあらゆる場所にデザインがあるんだなと……。
そう考えるとイラスト講座を入り口にして工業デザインに誘導する導線確保しといた方がいいな。
デザインがかっこいいってのはプロパガンダとして最強なのだよ!!!
で、技術盗まれるの覚悟でサリアの機体も帝国で作る。
「帝国の人型戦闘機ならもう操縦慣れました。何度シミュレーターやってると思ってるんですか……機体の癖まで憶えましたよ!」
操縦関係は問題なし。
じゃあ作っちゃおう。
軍事系の商社と組んでデザイナーに金かけまくって開発。
大王専用機なのだ。
商社の人たちも「腕が鳴ります」とやる気に満ちあふれていた。
そしたら暇してたサリアパパがやって来た。
「俺のも作ってくれ」
「うぃーっす、ちゃんと代金払ってね~」
「おう!」
サリアパパは仲間にするような雑に応対じゃないと逆に怒る面倒なおっさんである。
宣伝になるしいいかと予算申請する。
するとすぐに許可が出る。
公爵会のアホどもが無駄遣いしてた事業が片っ端から廃止されて宙に浮いた金があるのだ。
帝国の技術の売り込みなので断られることもなかった。
で、サクサク会議。
名ばかり侯爵の末っ子じゃ一生会えないような財界のお偉いさんがこぞって会議を申し込んでくる。
大公になって一番変わったのがこの辺であろう。
軍と外務省の予算権限をある程度持ってるのもそうだけど、金を生み出す福の神マシーンと思われてるようだ。
外宇宙との取引は俺が窓口みたいなもんだしね。
経済誌とかもやたらスーツ姿の俺が腕組みしてる写真を表紙に使いたがるしね。
俺としては作業着でフォークリフト運転してるのとか重機操縦してるのにしてほしい。
嫁ちゃんは敬礼してる姿みたいなキリッとしてる写真ばかり使わせてるけど。
とにかくだ。……なにが言いたいかというと。
……暇だ。
海賊どもが俺たちを避け始めた。
おそらく鬼神国の軍内部に協力者がいるのだろう。
怒りはない。
俺が海賊でもそのくらいはする。
なので鬼神国に真実を交えた嘘を流しまくる。
「麻薬なんかより気持ちいい文化がやって来るぞ!」
なんてのな。
この世にあるたいていのスポーツは勝てば麻薬なんかより気持ちいいんだけどね。
脳内麻薬ドバドバよ。
プロに近くなると痛み止めで使うようになるから別の問題が発生するんだけどね。
それは現状考えなくていい。
それと並行して取り締まりを激化する。
はっはっは!
バカどもが!
うちの軍、海賊相手の追いかけっこは得意なんだぞ~。
俺は参加しないけどね~。
だから暇である。
なので仕事が終わると神社に行って座敷童ちゃんとキャッチボールをしにいく。
すると藁人形を持った男子のアホどもが俺を待ち構えていた。
血の涙を流しながらウンコ座りしてる。
座敷童ちゃんもどん引きしてた。
「えっと死ね?」
「るせええええええええええ! 下剋上だぼけがああああああああ!」
「なんでキレてんのよ!?」
「キサマァ! なにをしたかわからないのか!!! 貴様のせいで、貴様のせいで!!! 士官学校女子がキレイになってしまったではないか!!!」
あー、それね。
アダムさんのお化粧講座で士官学校女子たちはメークを憶えた。
そしたらキレイになったのだ、
そりゃねー、士官学校じゃメーク禁止だし。
本当は大学校から慌てて憶える、みんな伯爵家当主じゃん。
アダムさんのおかげでどこに出しても恥ずかしくない程度のスキルは身についた。
すっかり美しくなった女子を見て、バカどもは後悔してるようだ。
「えっと……死ね?」
「てんめえええええええええええ!!! お前だけモテやがって!!! ものどもであえ~!!! レオをぶち殺せ!!!」
木刀持った男子が次から次へと出てくる。
おーお。数そろえちゃって。
やだねー、男の嫉妬。
「だから言ってんだろ! 女子かわいいって!!!」
「るしぇえええええええええええええッ!!!」
俺は素手で構える。
すると別の男子が飛び込んできた。
このタイミングで乱入者!?
「このバカどもが! 俺はレオに加勢するぞ!」
エディか。
さらに二人が俺のところにやって来た。
イソノに中島だ。
「愛の戦士イソノ! 俺もレオにつくぜ!」
「正義の戦士中島! 義によって助太刀いたす!」
「え、お前ら……俺の仲間なの!?」
てっきり襲いかかってくる側かと。
「ふん、我らも学習したのだ! レオに味方した方がモテると! 婚約者にほめてもらうんだ!!!」
「そうだそうだ! 婚約者はレオの味方! 俺は敵にでも媚びてくれる!!!」
やはり二人は安定のクズだった。
逆に安心した!
三人で男子どもをぶちのめしていく。
我が隊男子最強格の三人である。
楽勝、楽勝。
全員ボコボコにする。
「それで……なんでこんなことしたのよ?」
積み上げたアホどもに腰掛けて聞いた。
「け、結婚前に勝負をつけたかったんじゃああああああああああッ!」
「バカなのかな?」
そういや男子複数人に【先に籍だけ入れちゃお】って話が出てるって報告あったな。
先方が急がせてるんだって。
帝国内では勝ち組決定だしね~。
結婚相手の親からしたら先に地位を固めてしまおうって思うのだろう。
「今さらマリッジブルーかよ……」
「心を乱したのは貴様だ~!!!」
そりゃさー。
同級生との恋愛は人生の実績解除だろうけどさ~。
もう遅いのよ。
するとエディが冷静に一言。
「バカだろお前ら」
本当に、それ!!!
するとバカどもが泣きながら逃げていく。
「ばーかばーか! 死ねー!!! うわああああああああん!!!」
もうわけわからん。
あ、そうか……ここはヤンキーしかいない銀河。
つまりあいつらみたいなのが抑圧されてるわけだ。
ガチの大国が来ても崩せるかも?




