第三百四十一話
海賊対策のためにクレアを伴いある重要人物に会いに行く。
我々の文化が流入した結果、鬼神国で発生したとある流行の発信者。
地下で細々やってるため仮面をつけていた。
そう彼らこそが地下出版グループ【薔薇の会】。
……ってさ~。
「キールティちゃん暑くない?」
体型と髪型でわかるわ~。
体型隠したつもりだけど俺の女体センサーはだませない。
キールティちゃんだわ~。
「な、ナンノコトヤラ?」
「うん、まあいいや。それでさ、【オネショタ】【BL】【嫌な富豪……ビクンビクン】本の提供だけどさ」
「声が大きい!!!」
「別にいいじゃん。俺はキールティちゃんのことを【性癖を分けあった同士】だと思ってるよ……」
「同士……い、いえ! まだ恥ずかしいからだめですわ!!!」
「それでさー、アクスタ手作りキットなんだけどさー」
「恥じらいが軽く流されましたわ!!!」
「いいからいいから。これが資料で。紙というか樹脂ペーパー……なんでもいいや。とにかく印刷したから。当局のガサ入ったら燃やして」
「は、はい。それでイラスト講座の方は?」
「ですよねー。えっとクレア……」
クレアにバトンタッチ。
「イラストレーターの先生のスケジュールを確保しました。こちらのサイトで毎晩講座を生配信します。編集版は翌日に配信される予定です」
鬼神国は建築の職人はいるけどプロのデサイナーやイラストレーターはいない。
会社の中で絵を描いてる人はいるんだろうけど、それが特殊技能であると思われてない。
なので技術の研究は行われておらず、伝統技法の行程があるだけである。
趣味としては多少あるんだけど帝国ほどの多様性はない。
というかこれに関しては日本の文化を継承してる帝国がおかしいだけである。
なのでサリアの目をかいくぐってデッサンから教える。
今回のイラストレーターはネットを中心に活躍する20代前半、若い女性の先生である。
なんと帝国美大主席卒業! からの就職失敗!
宮廷芸術家の試験をインフルエンザで欠席。
大学院進学も才能嫉妬勢だった教授の嫌がらせで断念。そして無職へ……。
半引きこもり状態でSNSでリビドー丸出しのイラスト投稿してたらデビュー決定したという……。
なんか親近感感じるぞ!
そんな【俺たち】の代表みたいな彼女であるが、安定収入を餌に協力してもらった。
……フリーランスつらい。
軍隊内フリーランス状態の拙者、なぜかあふれる同士感で心が満ちるのでゴザル。
とうとう給料が謎の歩合制になったんだもん!
「事実上、大臣なんだから当然でしょ?」
なにそれぇ!!!
今のところたくさん入ってくるけどさ、いつ途切れるかわからないもんね!
というわけで先生には感情移入しまくりである。
キールティちゃんも興味津々である。
流通させてる【健全なコンテンツ】だけだと需要がね……。
いや漫画の神様だってエロい落書きしてたわけでな。
やはり描きたいって需要はあるんだよね。
これが世界の選択なんだよ。
べ、別に、未来の王妃であるキールティちゃんを落とせばいいとか考えてないんだからね!
というわけで文化汚染事業は継続中。
そしてここでプロパガンダである。
一休さんで慣らしたので「海賊ダメ絶対。海賊見かけたらすぐに通報!」とCMを流す。
ぐははははは! 資本主義の洗礼を受けよ!!!
「ところでクレアさん……。なぜ……お顔がツヤツヤしてるの?」
「秘密」
……クレアさんもイラスト講座受講するみたい。
士官学校の男子も女子も何人か受講するそうで。
我が隊からも神絵師が誕生しそうな気がする。
がんばれ!
海賊対策のプロパガンダはすぐに効果があった。
通報の数がすごいことに!
やはりプローンとの戦争で鬼神国の治安対策がなおざりになっていたようだ。
まずは鬼神国周辺の海賊退治っと。
サクッと捕まえる。
長いこと海賊対策だけやってた帝国軍である。
海賊を捕まえるノウハウは抱負なのだ。
「てめえコラァッ! 俺らのバックには大国がついてるんだぞ!!!」
いつものセリフだったので吐かせる。
どこがお前らのケツ持ちなのかなあぁ?
たいていは答えられない。
なかなか尻尾つかませてくれないなぁ。
こっちは大国がバックでもいいのよ。
【略奪させてくれないから宣戦布告するぅ!】
っていう間抜けな一言引き出せれば。
そしたら内から引っかき回してぶち殺すから。
実際はそこまで間抜けじゃないだろうけどね。
なんて思ってたところで嫁ちゃんに呼び出される。
「婿殿、これどう思う?
医官の先生が机に並べるのは……麻薬だ。
帝国も麻薬汚染はあるが種類はそんなに多くない。
昔からあるものばかりだ。
新しいのは電子ドラッグくらいか。
不正改造したナノマシンで気持ちよくなくものだ。
ところがだ。
海賊が扱ってる薬の種類の多さよ!
なにこれぇ!!!
「なにこの種類!?」
キノコの粉末に、植物の樹脂に、微生物の生産物質に、化学的に作ったやつに……。
種族ごとに違う薬ってのはわかるんだけど、気持ちよくなる方向の多様性がもの凄いことになってる。
10%の確率で心臓止まる薬とか。
本当にギリギリ死ねる薬とかまである。
薬に命をかけてる。
だって無害化するんじゃなくて、わざと死の危険を増大させてるのだ。
バカなのかな!
「娯楽の少ない世界の末路がこれか……」
「バカすぎるでしょ!」
「人生が棒に振ってもいいくらいの価値しかないようですな」
医官も同意してくれた。
やだ怖い!
「なんで薬を無害化する方向性に行かないのぉ!?」
「どうやら危険な方が価値があると考えられてるようです。一言でいえば自殺ですな」
医官の発言を聞いて嫁ちゃんが大きくため息をついた。
「帝国に入らぬよう成分を解析してくれ」
「はっ!」
嫁ちゃんも理解できないのだろう。
俺だってわからんわ! こんなの!
俺は泥すすっても生き残りたいと願うタイプだ。
おそらく永遠に彼らを理解できないだろう。
うん? もしかして……この銀河……限界集落なんじゃね?




