第三百四十話
海賊ギルドの自信の裏付けがわからない。
ラターニアが罠張ってるのかなって思ったけどバトルドームや鬼神国の情報でも関係なさそうだ。
サリアがつぶやく。
「裏にいるのがレプシトールってわけじゃなさそうですしね」
「また知らない名前だよ!」
「大国ですが……遠すぎて我々もよく知らないんです。ここは銀河の端ですしね。バトルドームも鬼神国も大国とつき合いないですからねえ。銀行ならラターニア、普通の商売ならパーシオンとレプシトールがいますし。隠してたわけじゃありませんからね!」
「つか新しいまた名前!」
「そっちもつき合いありませんって。そもそもが上位国に鬼神国もバトルドームも相手にされてないんです。支配惑星の数が違いすぎますからね。中位と上位には絶対的な差があるんです」
「なんでそんなラターニアがわざわざ来るのよぉー」
「はぁ!? なに言ってんですか! あのプローンを軍事力ほぼ使わないで滅ぼしたって噂が流れてますよ」
「えー……なにもしてないよ?」
したのは国家として当然レベルの工作である。
俺がやらんでも誰かがやっただろう。
「あれで……なにも……私は悪魔と手を組んでしまったのかも……」
「友人に対してあまりにもひどくね?」
サリアに抗議してると嫁ちゃんがサリアの部屋に来た。
「おう婿殿ここにいたか。ラターニアから婿殿のヘッドハンティングが来てるぞ。凄いぞ。銀河帝国最高の軍師じゃそうだ」
「イヤでゴザル!」
というかとうとう散々ネタにしてきた軍師呼ばわりされる日が来たか……。
アタイ……実体は猪武者なのよ。
至近距離で足撃たれてもよけられるけど、大規模作戦の指揮は無理だわ……。
それに俺が嫁ちゃんを裏切るわけなかろう!!!
そもそもだ。
ヘッドハンティングされた先に嫁たちがいるわけじゃない。
裏切るメリットがないのだ。
「じゃろうな。なぜなら我が夫だからの!」
「つうか軍師じゃない! 我が輩、兵士でゴザル!」
「え? 軍も他の大臣も【まさか大公に外交の才能が……】って喜んでるぞ。……誰が婿殿に外務を担当させようとしたのかわからずじまいじゃが」
「それ! たまたまポストが空いてたから適当に空気感で入れたやつ!!!」
当初の予定では俺を働かせる気はなかったと思うよ。
役所がちゃんと機能するまで客引きパンダで置いてただけで。
「カッカッカッカッカ! ラターニアの狙いはわかっておる。こうやって不和の種をばらまこうとしたのじゃろな」
「やり方ヘタクソすぎない?」
「我々のことを知らぬのじゃ。いや知る気もないのじゃろうな」
「ラターニアに限らず大国はそういうところありますね。鬼神国とプローンの違いもわからない連中がいるくらいです」
なるほど。
「ラターニア人からしたら私とレオさんの区別もつかないと思いますよ。口座作れば口座の額で判別してくれると思いますが」
「なにそれ怖い!!!」
行くところまで行った拝金主義である。
「とりあえずヘッドハンティングはしねえとして、海賊ギルドを相手にしてる上位陣ってどこよ?」
「上位陣ならどこでも。麻薬や売春扱ってるのが彼らなので」
「それさー、よく許してるね。帝国だとガチガチに管理されてるか禁止かのどちらかだよ」
「娯楽が少ないんですよ。私らからすれば娯楽で個人が同人誌出版してる帝国の方が異常ですわ」
この前、鬼神国で帝国美術展やるっていうから国宝カタログ持っていったのよ。
ぶ厚い辞典サイズで数十冊。
しかもこれ簡易版。
別名【絶対滑らない国宝リスト】。
国宝収蔵するだけの惑星あるもの。
仏像なんかの宗教美術に浮世絵に茶器に絵画に……。
あと国宝の同人誌に。
さすが日系文明……記録残すの好きすぎる……。
俺でもどん引きだけど、サリアからすれば「なんでこんなにあるのぉ!?」ってレベルみたい。
こういう文明って俺たちだけみたい。
プローンなんかも昔の建築物ないし。
古いのは聖典くらいだけどそれも焼けちゃったしね。
鬼神国も帝国にプロの音楽家がいるってだけでも衝撃的だったみたい。
映画とかアニメとかも向こうにはないそうで。
とりあえず、帝国の放送局で●休さんを放送してるけど視聴率がエグい。
それでそろそろタイミングかなと思って名作同人誌【ファッQさん ~人妻迷宮の謎~】をサリアに渡したらグーで叩かれた。
「これ翻訳出版したら全力で潰しますからね!」
ってブチ切れられた。
どうやら帝国文化は戦略兵器のようである。
「そもそも輸出用物資のカタログ見ても恐ろしく品目が多様なんですよ。同じ野菜の品種で数十種類ありますし。私たちからしたら品種が同じなんだから一緒でしょって思うところです」
「なるほどね~。ねえねえ、サリアきゅん。ぽく思いついちゃった」
かわいい顔する。
きゅ~ん。
「それ国を滅ぼすときの顔ですよね!」
「うん、最終的にはそうかな。海賊ギルドのバックが誰かわからないけどさ。丸ごと商売奪っちゃお?」
「な、なに考えてるんですか?」
「うんプローンの母星手に入れたし。帝国は所有権持ってるけど植民する気ないし。子どもたちは別の惑星ですくすく育ってるし。新生プローンを名乗って海賊狩りしようかなと」
プローンは鬼神国で育てている。
苔や植物を与えたところ死亡率が大幅に減った。
というか滅ぶ前のデータが頭おかしい数値だったのだ。
子どもはほとんど死ぬのが前提じゃん!
やはりあいつら草食動物じゃん!
というツッコミしかない結果である。
現在、彼らには教育プログラムを検討中である。
まずは科学的食育から教え込もうと思う。
するとサリアはガクガク震えてる。
「鬼人より鬼みたいだ……」
サリアと違って嫁ちゃんは冷静だった。
「ま、婿殿のやることだ。好きにすればいい」
というわけで食堂に移動。
外務副大臣代理補佐見習い研修生のエディがカップラーメン食べていた。
たまに食べたくなるよね。
冷凍の生麺の方が美味なんだけど、やはり別枠なのである。
味噌ラーメンみっけ。
俺も食料庫から持ってきてお湯を注ぐ。
「どうしたレオ?」
「あのさ、エディ。海賊狩りしない?」
「了解」
「プラン聞かないの?」
「レオなら大丈夫だろ」
こうして悪い軍師による海賊追い込み作戦が決行されたのである。
なお屍食鬼対策はまだ考え中。




