第三百三十九話
もうね。
勘弁してくれよって大艦隊がやってきた。
数がアホみたいに多い。
俺たちじゃ戦うのも一苦労って感じだ。
やだねえ、俺たちに軍事力見せつけてやんの。
俺たちは期日前にプローンの子どもたちを保護する。
滅亡が確定したら法王は大人しくなった。
もうすべてをあきらめたようだ。
「……満足か?」
法王は降り立った俺に言った。
「我らからすべてを奪って満足か!!!」
「ラターニアの介入は予想外……というかラターニアの存在すら知らなかった。俺たちぶとっては戦争も交渉の一部にすぎない。あんたらを滅ぼす気はなかった」
「ぐ……」
「悪いな。本当に子どもの保護だけで手一杯だ」
「ふはははは! 子どもたちが我らプローンの意志を継ぐ! いつか銀河帝国を滅ぼすのだ!!!」
「そこはラターニアにしとけよ」
「……」
心が折れてしまったのか法王は黙ってしまった。
子どもたちを船に乗せて俺たちは去る。
同じく子どもを保護してたサリアから通信が入った。
「こちらは終わりました」
「おつかれー。それにしてもさ、ラターニアって約束にこだわってるけど……詐欺に弱そうじゃね?」
そう言うとサリアはブンブンと首を振った。
「絶対やめてください! ああ……もう! 知ってる限りは教えます!」
「あつらに何者よ?」
「ラターニアは元は高利貸しの集まりでした」
「一番約束守らない連中じゃん」
「ええ、それで敵を作りすぎて一度滅亡寸前まで行きましてね。そこから復活して一大勢力を築いた国家です。実体は暴力に裏付けされた金融業者と考えればいいかと」
「やだ怖い……」
国家ぐるみの金融業者なら利子マシマシの取り立てし放題じゃん。
怖ッ!
「イメージしてるのは犯罪組織だと思うんですけど、それはちょっと違うんです……滅びかかったせいで彼らは自分たちにも命をかけて約束を守るっていう枷をはめてます」
「約束の価値が重すぎる!!!」
なんで極端から極端に行くのかな?
ここの連中の価値観さー、極端すぎるのよ!
なんなのその上品なヤクザみたいなの!
「だもんで信用こそされてますが、誰も関わり合いになりたくないってポジションです、いいですか! やつらに借金して払えなかったら……内臓取られるだけならいい方ですからね!!! ラターニアは奴隷制度ありますからね!」
「でもさー、返せばいいじゃん」
「普通の借金ならバトルドームの金融機関を使えばいいだけです。ああいうのは返済できないやつが借りるんですよ……」
完全に闇金である。
「鬼神国は金借りたりしないの?」
「うちは幼児教育からラターニア人にだけは絶対に金を借りてはいけないって教えてます。関わり合いにさえならなければ無害ですので」
おいおい……なんだその伝説の化け物みたいな扱い。
「要するに絶対にあいつらをだまそうとしてはいけません。どちらかが滅びるまで殺し合いになります」
「お、おう……だまされた方が悪いって文化じゃないのな……」
「ええ、だました方が圧倒的に悪いって文化です……」
そこで俺はようやく……ラターニアがなに考えるてるかわかった。
「待って……つまりそんな闇金が無償で動くってことは」
「おそらくプローンは金を借りて返さなかったんです! おそらく警告も無視したんだと思います! それで我らとプローンの争いが終わるまで見守ってたということです。おそらく……いつのかわからないくらい昔の借金でしょうね。ラターニアには時効も破産もありませんので」
「勘弁してくれよ……」
時効も破産もない社会って怖い!
「つまりプローンの聖都星は?」
「差し押さえされるのでは?」
「お、おう……」
サリアと話してるとラターニアの大艦隊がミサイルを発射した。
弾幕レベルのミサイルがプローンの聖都星を焼き尽くす。
プローンは抵抗しなかった。装備の量と質が段違いだった。
その威力は遠目からも恐ろしいものだった。
おそらく皆殺しだろう。
こうして銀河に悪名を響かせた神聖プローン帝国は滅亡したのである。
自業自得だけど……。
俺たちの価値観からすると納得するのは難しい。
もやもやしてると嫁ちゃんから連絡が入った。
「買ったぞ」
「なにを?」
「プローンの聖都じゃ。ラターニアに持ちかけて即金で支払ったわ!」
交易で得たこっちの金はほぼ活動費だ。
使おうと思えば自由に使える。
……それにしてもよく買えたな。
「ラターニアに金借りたりしてないよね?」
「いいや、安かったぞ。ラターニアは領地を広げる気はないようじゃの」
「他に条件つけられなかった?」
怖いぞ! 嫁ちゃんなら大丈夫だと思うけど。
「向こうから平和条約をとは言われたが……やつらの人となりがわからぬ。もう少し理解が進んで判断すると言っておいたぞ」
「よかった……」
「婿殿が言っておるのはラターニアが高利貸しということか?」
「そうそう。闇金だってサリアが言ってたから」
「言質を取られるようなマネはしておらぬ。代金もつり上げられる前に払ったしの。契約書もある。賃貸のつもりだったとも言わせぬ」
「なに考えてるかわからないのが怖いんですけど」
とにかく惑星が一つ手に入ったわけだ。
するとここで問題が起こる。
「金返せと来たか」
ラターニア?
違う違う。
あいつらはもっと賢い。
アホの方だ。
「まさか海賊ギルドにまでお金を借りてたとは……?」
海賊ギルドが【惑星を手に入れたんだからプローンの借金はお前らが耳を揃えて返せ】と言ってきた。
抵当権でも設定されてるのかなと思ったら、そういうのはないようだ。
要するに完全に言いがかりである。
「オラオラオラオラァ! 俺たちのバックにはラターニアがいるんじゃ! 金払えやボケが!!!」
あー、うん。
俺たち惑星買ったけど、プローンの後継政府じゃねえのよ。
なんの関係もねえのよ。
完全に言いがかりだわ。
外務大臣代理補佐見習い研修生としてラターニアに連絡。
「海賊ギルドにはお金を貸してます。戦争? どうぞご自由に。当方は彼らと軍事的な約束はしておりません。返済不可能と判断したら勝手に取り立てさせてもらうだけです」
だそうである。
ラターニアの方がまだ話が通じるようである。
「ラターニアからは【どうぞご自由に】と回答あった。よって、不当な要求は却下だ」
「て、てんめえええええええええええッ!!! ぶち殺すぞ!!! おい! この海域の海賊呼んでこい!!! 帝国ぶち殺すぞ!!!」
こうして我々は海賊ギルドとの全面戦争に突入するのだった。
話通じなすぎ。
プローンが滅亡したことで反動が一気に来たのである。
……ところでさ……なんで海賊ギルドさ、あんなに自信満々なんだ?




