第三百三十八話
それは使者だった。
ラターニア王国。
上位陣の大国である。
やって来たのは尖った耳で眼鏡をかけた男性だった。
若く見えるが大王よりも年上らしい。
異星人の年齢はわからんな。
男はエグザスと名乗った。
「大王就任おめでとうございます。50年前の約定を果たしにやって参りました。それと銀河帝国の皆様はじめまして。あなたがたを歓迎いたします」
そう挨拶した。
どうしよう……大国って言うからもっと高圧的なヤバいやつだと思ってた。
だけど相手は大国を名乗るだけあって少なくとも表面上は分別ある国家のようだ。
サリアは冷や汗を流しながら言った。
「約定とは? 聞いておりませんが……」
「プローン殲滅の件です。4代前の大王様と約定をかわしました。勝利への筋道が見えたら手を貸してほしいとのことです」
待って……4代も前の約定を憶えてるのぉ?
しかもプローンの敗北が見えてきたこのタイミングですぐ来るってことは……ずっと監視してたの?
怖ッ!!! ラターニア怖ッ!!!
ウルトラ粘着質だ……数十年前にジュース買うのに借りた100クレジットを憶えてるタイプだ!
「その大王はプローンとの戦いで討ち死にしたんです……」
「ええ、当時の大王様は勝利を手にしてプローンを殲滅する予定だったとか」
サリアが教えてくれた。
約束した当人が死んでも約束自体は有効。
タマヒュンである。
嫁ちゃんも冷や汗流してる。
サリアはおずおず聞く。
「あの……対価は? その……なにぶん昔のことで当方は準備ができておりません」
「ご心配ありません。私どももプローンは目障りでしたので。対価と我らの行動は同じ。聖都惑星の生物の消滅です」
その発言で空気が変わった。
「現在我らはプローンの絶滅までは望んでません。種の保存をしながら無害化する方針です」
サリアがそう言うが、エグザスは表情を変えずに言い放った。
「それは関係ありません。約束は約束です。我らは約束は死しても守りますし、約束の変更は認めません」
事情が変わろうが約束は約束。
そういうタイプの文明か。
こりゃなに言っても無駄だろう。
向こうに敵認定されるだけだ。
すると嫁ちゃんが口を開いた。
「エグザス殿。攻撃までにプローンを救助するのはかまわんな?」
「攻撃時間は通知いたしますので、それまではご随意にどうぞ。我ら攻撃するまでが約束でございます」
「あいわかった。事前の通知感謝する」
それしか言い様はない。
バチバチの全面戦争してたわけじゃないから【俺たちの獲物だ!】って主張するには弱い。
もし主張してもなにを言われるかわかったものじゃない。
俺たちは約束に対しては部外者でしかない。
人権あたりの概念は合法違法以前の問題だ。
おそらくその概念は……ラターニアには存在しない……。
あえて言えば4代前の大王と歴代プローン指導者が間抜けだったということだろう。
俺たちにだってプローンを大国を敵に回してまでかばうメリットはない。
説明してくれただけマシ。
少なくとも銀河帝国を国として認めてると考えるしかないだろう。
せっかく作った砂の城蹴飛ばされて壊されたのはムカつくけどね。
ただ、それはあくまで俺の感情でしかない。
「鬼神国ならびに銀河帝国とは末永く友好関係を築ければと存じます。ではこれで」
エグザスは一方的に通知すると足早に帰ってしまった。
言葉は丁寧だが完全に格下扱いだ。
俺たちが抵抗しようがかまわない。
そのときは罰を与えればいい。
そういう上から目線の隠しきれない傲慢さが現われていた。
「ま、今のでどういう国かわかったと思いますが……はぁ……」
サリアがため息をついた。
「また濃いキャラクターの国が来たね……」
「あの国はとにかく約束にこだわるんです。時効って概念はないですし、祖父の代の小銭を取り立てるので有名です。だからバトルドームも取引してないんです。頭おかしいので」
怖ッ!
取引とか交渉できないタイプの国か!
いや邪悪よりはマシ……どうなんだろ?
嫁ちゃんが聞く。
「向こうは約束守るのか?」
「死んでも守ります。それが酒の席での発言だったとしてもね。だからうかつに約束なんかできないんです。なにやってんの! 前の大王!!! バカなの!!!」
プローンとは頭のおかしさの方向が違う。
「まずはプローンに通知しましょう」
「それしかないよね……」
で、プローンに教えてやった。
本来なら教えてやる義理はない。
だけどささすがに聖都惑星丸ごと皆殺しはね……。
プローン側は俺たちを見下して官僚を出した。
善意で教えてやったが上にまで話は行かないだろうな。
「次は革命軍か」
革命軍にも通知する。
するとすぐに連絡があった。
「子どもたちだけ救ってくだされ」
「それだけでいいのか?」
嫁ちゃんがたずねた。
だけどリーダーの決意は固かった。
「我々は罪を重ねすぎました。憎しみの連鎖を断ち切るにはプローン教ごと我々が滅びる必要があります」
「そうか……」
嫁ちゃんは言葉を失っていた。
カメさん、オオカミさん、ウサギさんからは「この機を逃してはなりません! すべての惑星からプローンを絶滅させましょう!」って意見が上がった。
だけど主に戦ったのは鬼神国だって言って納得してもらった。
子どもの移送計画を立てた日、嫁ちゃんが食堂にやって来た。
「婿殿……皆の衆……妾はわからぬ……。プローンは悪じゃ。だが絶滅はやりすぎだと思うのじゃ。でも妾もゾーク戦争で首都惑星にコロニーを落としたし、惑星を焼いたこともある。だが……後からしゃしゃり出てきてこれは……」
「俺たちはあくまで部外者だからな。恨みってのはそれだけ深いんじゃないかな?」
イソノが珍しくまともなことを言った。
「プローンはやらかしすぎてるからな」
中島も同意する。
その後士官学校の連中から異論はあったけど現実的なものじゃなかった。
院生の人もわからんって。
わかるのは……俺たちにはなにもできないということだけだ。
俺たちはきっかけでしかない。
俺たちがゲートをくぐったときにはプローンは滅亡の道を歩んでいたのだ。
大急ぎで子どもを収容し。鬼神国所有の無人惑星で保護した数日後。
プローンは滅亡した。




