第三百二十九話
今日も駆逐艦分解のお手伝い。
「お前、上級士官の仕事どうしたんだよ?」って思うじゃん。
そりゃ【能力的にできる仕事】、【妖精さんの手助けでなんとかできる仕事】、【そもそも知識が絶望的に足りないため俺にまかせようというのが間違ってる仕事】ってのがあるわけよ。
特に外交は資料読みゃいいってもんでもない。
だから【帝国で一番いい大学で首席取った文官の能力でギリギリ】みたいな難しい仕事は免除されてる。
だってそのレベルの文官になると省庁は入ったあと国費で大学院行くもの。
その事情を知ったのって【佐】になってからだからね!
30歳近くまで勉強やってた勉学アスリートの最低水準に脳筋軍人が到達できるとお思い?
だから政治家と同じですわ!
……謎のお嬢さま言葉やめとこ。キャラじゃねえわ。
なので俺のできることは資料作ってもらって決裁するだけ。
決断と責任取るのは俺だけど、資料作るのは文官。
む、無能なんかじゃないんだからね!!!
本来なら士官学校3年生がはじまるちょっと前なのよ!
隊長クラスでギリギリの教育しか受けてないの~!!!
それに拙者、こちらの方が得意でゴザル。
今日は微粒子回収のお手伝い。
全身防護仕様の船外作業服で漂うゴミを吸い取ったり、ほうきとちりとりで回収するお仕事。
重力装置は働いてるからサクサクゴミを回収。
いやこれ重要らしくてさ、この粉にしか見えないやつを解析するんだって。
すごーい執拗。
使われてる木材一枚からもどういった気候のどういう植物かまで解析する。
植物ですらない可能性もある。
この一見するとキャバ嬢の部屋にありそうな安っぽい毛足の長い絨毯も帝国にない繊維かもしれない。
本当に執拗に解析に回す。
なんてやってると昼には内装の撤去が終わり、午後からは外装や配線などになる。
ここは俺は不参加。
専門家が写真を撮りながら慎重に分解していく。
そりゃねえ。内装なんかよりこっちが重要だよね。
なので食堂に戻る。
すると妖精さんが現われる。
「鬼神国にプローンにオオカミさんに亀さんの翻訳アプリ完成しましたよ~」
「難しかったみたいですのう。妖精さんにしては苦戦してましたな」
「いやデータが足りませんでしたので。特にプローンの聖典は支離滅裂すぎて逆に解析の邪魔でしたし~。あと鬼神国の翻訳文書も【意図的な】間違いが多かったですしね」
「お疲れ様ッス。鬼神国に関しては必死なんだろうからしかたないよね~。俺でも相手を悪役にするわ」
「ですねー。でも抗議するほどは間違ってないんですよ~。裁量権の範囲で悪く言ってるというか。ま、そういう文化なんでしょうね。ま、これで翻訳頼まなくてもよくなりましたね」
「いや頼むよ」
「は?」
「二つの翻訳文書見比べて鬼神国側の情勢を読むのに使う予定」
「いい根性してますね」
「友好国でも分析は常に必要なのよ」
こういうの必要らしいよ。
偉い人の受け売りだけど。
次は敵対国。
「プローンはどう?」
「相変わらず他人に理解できないタイプのプロパガンダに終始してます。【なぜ罪を許され肉になることを選ばないのか!!!】ですって」
「……ねえ妖精さん。思いつき言っていい?」
「なんですか? 嫌な予感しかしませんけど」
「もしかしてさ、プローンって美味しいんじゃね? だって貝類でしょ? それにやけに肉にこだわるなって。あいつらかつて捕食されてたんじゃないの?」
「……あははははは……やめてくださいよ。……あはは……研究所にレオ・カミシロの意見として送信と」
いや食わないけどさ。
あいつらさ、執拗すぎね?
食われる立場の発言にしか見えなくなってきたのよ。
気持ち悪いから食わないけど。
食材としての興味は間違ってもないんだけど、プローンの行動が恐怖から来てるんじゃないかってのは気になる。
恐怖から来るものであれば手玉に取るのはたやすい。イージーである。
プローンちゃん……銀河帝国はね……そういう心理戦クッソ得意なのよ。
お高いジャージ姿でキリッとする。
「うわぁ……レオくん若いのに泥仕合得意すぎるでしょ!!!」
「妖精さん……俺はね。同年代の中でも戦場で死にかけた数はトップクラスだと思うのよ」
「ま、まあそうですね」
「自分が死なないためだったら手段なんか選んでられないって思わない?」
「……うん、そうですね。かわいそうに」
哀れみはやめて。
悪いのはゾーク。
その後、なぜか俺のレポートはかなり真面目に取り上げられた。
研究所的なところも大真面目に議論する。
食えなんて言ってねえからね!
【食われるかもって怯えてるゆえの反応だよね!】って言いたいだけなんだからね!!!
でー、結論が出た。
嫁ちゃんの執務室に呼び出される。
「食われる恐怖からの行動じゃ。婿殿、帝国大学が結論を出したぞい」
「なんで俺の思いつきが大事になってるの?」
完全に思いつきなんだけど!
和服デーの嫁ちゃんは静かにほほ笑む。かわいい。
なんかね、俺たちのファッションが注目されてるんだって。
芋ジャージを着る隙がない……。
「婿殿の勘の精度は異常なほど高いのじゃ!」
「えー……つまりあいつらなんなの?」
「元は大型の陸生貝だったらしいの。元いた惑星ではありとあらゆる動物に捕食されていたようじゃ。それが外宇宙のなにものかの介入により知性を持った。ゾークと同じじゃ……と推測されている」
「待って、つまり神みたいな存在がいる?」
「神とはなにかという問題があるがの。とにかく上位存在じゃ。本当に存在すれば……じゃがの。少なくとも自分たちはそう思ってる存在じゃろうな」
化け物がいやがるのか……。
勘弁してくれよ。
「最強の超能力者と自称上位存在か。胸が熱くなるのう」
「うわあああああん!!! なんか死ぬ気がする!!!」
「まだ戦うとは決まっておらん! 今はプローンと戦う準備を進めるのじゃ!」
ふえーん。了解ッス。
被害者属性が出たのにもかかわらず同情する気が起きない。
これプローンの才能だと思うのよ。




