第三百二十七話
みんなやたら小綺麗なジャージを着ている。
EDMが流れるクラブで踊ってそうなパリピになってる。
俺はと言うと言い出しっぺということで鬼神国の和装っぽいテイストの服を着てる。
なんか和装ジャージというか、なんというか……。
そのくせガラはツノ生えた虎。思ったより派手だ。
これお高いグレードのやつで試作品価格200万クレジットよ!
着るのが怖いやつ!!!
特定の階級しか使っちゃいけない色とかあるそうで、商社とサリアとバトルドームの会議でこのデザインになった。
嫁ちゃんはジャージではなく鬼神国の伝統衣装を着ている。
たぶん鳳凰だわ~。
似合うわ~。
なお値段であるがつけられないタイプのものである。
イベントでの使用と撮影が終わったら即博物館行きになるやつ。
これだけ似合うとNTRに怯える日々になりそうだが、俺の心は安定していた。
だって鬼神国の美人の基準は背がデカい、おっぱいデカい、尻デカいである。
サリアの解説によると「鬼神国の赤ん坊は大きいので。昔から子ども産むときに負担の少ない体。つまり背が大きい、特に骨盤が大きい女性が美人とされてます」だそうで。
かなり切実な理由だった。
おっぱいは知らん。……え? 最近? ケビンが原因?
どうやら多くの鬼神国人の性癖を破壊しまくったようである。
ボーイッシュ巨乳ボクッ娘が帝国側の最終兵器説まであるんだって。
俺は悪くない。
帝国の着物姿のメリッサがやって来た。
さすが武門のお嬢さま。着慣れてる。
ただしこっちは龍。
ただ鬼神国風。
「似合うな~」
「これでもお茶に生け花に琴も習ってたし。和服は得意だぜ!」
さすがサムライの一族である。
髪もエクステでかさまし。
良家のお嬢さま風である……いや実際良家のお嬢さまなのか……。
プローンが大人しくしている間に外務省広報用の撮影会。
従軍記者さんがカメラマンしてくれるんだって。
サリアとキールティちゃんのカップルが伝統衣装で撮影に臨む。
「どさくさ紛れに結婚が既定路線になってませんかね?」
サリアに詰められたが言わせてもらう。
「周りが言いだした。それは決定路線なのよ……」
「怖ッ!」
「あらなにが怖いんですの?」
「ナンデモナイヨ」
うん仲良し。はっはっは!
サリアは決断が遅い傾向があるし、キールティちゃんが尻叩いて補ってくれるといいんじゃないかな。
なんて外交官としてのお仕事である撮影を終えてお茶を飲む。
士官学校の連中もそれぞれが撮影をこなす。
お高いジャージ汚すのが怖いのでみんないつもの芋ジャージに着替えて食事。
はっはっは! 文句は言わせねえ!!!
サリアもいつもの服である。民族衣装なんだって。
なおキールティちゃんは普通グレードの民族衣装である。
だって汚すのイヤだもん。
「汚すくらいなら高い服着ませんよね!」
「私、サリア様のそういうところ嫌いじゃありませんわ」
「え? うん」
サリアはちょっと照れてた。
「私、これでもカミシロ様には心の底から感謝してますのよ。貴方様がいなかったらサリア様が大王として立ち上がることもありませんでした。このまま憎きプローンを倒せればサリア様の地位は盤石なものになります」
キールティちゃんからすればそうだろう。
それを笑ってみてたのよ。
そしたらブザーが鳴る。
「戦闘員、配置につけ。カミシロ隊は待機」
あんれー?
なんでだろう?
「士官の経験積ませるためじゃないですか?」
「えー!」
妖精さんがそう言うと、今度はケビンが立ち上がって食堂の大型モニターの電源を入れた。
艦内放送が映る。
そこには汚い船が見えた。
「海賊ギルドですね」
サリアが教えてくれる。
「あー、プローンとか屍食鬼と仲のいい……」
「そうバカにしたもんじゃないですよ。商圏の広さだけならバトルドームより大きいです」
「でも海賊でしょ? なんで放置されてるのよ?」
どう見てもニーナさんの実家みたいに本当に危ない航路で案内役兼護衛やる代わりに荷物の一部を通行料でもらうみたいなのじゃないもんね。
どう見ても略奪ヒャッハー軍団だもんね。
「商圏が広いからですよ。上位層とも取引があります」
「へー」
上位層もたいしたことねえなと思いつつ観戦。
通信が入る。
当然、通信も晒される。
「てめえがプローンに喧嘩売った銀河帝国か!」
おっと耳が尖ってるけど人間型だ。
嫁ちゃんがゆったりと気怠げに答える。
「なんじゃお主は? 名を名乗れ」
「泣く子も黙る海賊ギルド様よ! てめえ! 商売に俺らを挟むのがこの銀河のルールだぜ!!!」
どこから聞きつけたのか。
商売やりはじめたのを知ってやがった。
「屍食鬼とプローンと手を切れ。話はそれからじゃ」
「はぁ!? てめえなに言ってやがんだ! ぶち殺すぞ!!!」
「ほう、それは宣戦布告かの?」
「お、おう! 海賊ギルドなめてんじゃねえぞ!!!」
「わかった。トマス! 撃墜せよ!!!」
「御意!」
スムーズすぎるこのやり取り……最初からそうするつもりだったのね。
トマスの軍が出撃した。
人型じゃない方の戦闘機で敵を撃墜していく。
容赦なんて一切なし。
いや投降すればいいだけなんだけど、相手が頭悪すぎた。
そりゃ嫌がらせに来ただけのチンピラだろうしね。
難癖つけてくるんだろうな~。
ここでどう対応するかで相手の出方が変わるかなと。
戦国時代なら体をバラバラにして送りつけるところだけど。
するとトマスから通信が入る。
「皇帝陛下。捕虜にしますか?」
「殲滅せよ」
ですよねー!!!
さあ、向こうがどう出るか。
プローンでしょ、屍食鬼でしょ、今度は海賊ギルドでしょ。
三つの勢力を同時に相手にするのは面倒だなあ。
でもここで潰しておかないと帝国の安全が保障されない。
うーん、戦略レベルの軍事って当事者になると難しいね。
国内世論、将来の不確実性、政治的立ち位置、現状把握の難しさ。
それらの結果、第三者から見るより選択肢の幅が狭まるわけだ。
後年の歴史学者による「こうすればよかった」は選択できないのよね~。
勉強になるわ~。




