第三百二十六話
「での、婿殿は別件で用事があるのじゃ」
大型宇宙船免許のことで嫁ちゃんにお説教を食らう。
「婿殿は妾が信用できぬか!」
「いやだって政治的に対立したら嫁ちゃんは俺を追放したくなくてもさー、せざるを得ない状況になることはあるじゃん」
そしたらぽこぽこパンチされた。
ちゃんと言葉にするしかないか。
「だって俺、嫁ちゃんの足手まといになりたくないよ。だからそのときは姿隠すからさ。まさか民間で貨物運んでると思わないでしょ」
「こんの! ばかー!!!」
叩かれた。
「婿殿は妾に家族を守る甲斐性がないと申すか!」
「正座」と言われる前に正座。
「その通りでございます」
たしかに嫁ちゃんならどうにかするだろう。
でもなー、俺だって病気になったり老いたりするわけよ。
そのときはみんなに迷惑かけそうで怖いな。
「そもそも婿殿をないがしろにする勢力など叩きつぶしてくれる」
「じゃ、じゃあ帝国の邪魔になる少し前くらいのタイミングで教えてくれれば引退しますんで……」
「あいわかった! そのときはちゃんと教える! ……そもそも軍が婿殿を手放すと思うか?」
「邪魔になれば……ほら、帝国軍勝ちすぎてるから内部的に国粋主義的になりすぎて将来対立するかも」
「う……うむ……その発想はなかった。婿殿はいつもふざけてるの周りを良く見てるのだな……」
どうやら許されたようだ。
「たしかにタカ派に傾きすぎてもまずいか……この空気では外宇宙統一とか言い出しかねぬ……」
それはイヤだな~。
たしかに帝国外交とか安全保障的には鬼神国に大国になってほしいけど、帝国が統一するには遠すぎるもんね。
「ちょっと妾は兄上たちと相談する。婿殿は……」
「あ、嫁ちゃんこれ、おやつ」
ホットケーキを電子レンジで温めて生クリームとチョコソース、それに果物とベリーソースを添えて飾り付けて完成っと。
「婿殿……前から思ってたが婿殿は飲食でも生きていけるのでは?」
「ないない。ニーナさん見てると自分は井の中の蛙だって本当に思うよ……」
俺は大量に作るのは得意なだけだけど、ニーナさんはさらに圧倒的クオリティがついてくる。
ニーナさんが店出したら毎食通うと思う。
勝てる気がしない。
「ま、まあ、ニーナは別格じゃな……」
本当にすごいのである。
そんなわけで誤解が解けたところでサリアに会いに行く。
「ちゃーっす」
勝手知ったるサリアの部屋。
自分の湯飲みに勝手にお茶を入れて椅子に座る。
サリアも気にしない。
「なにかありました?」
「高位貴族で上級士官が学校指定のジャージでウロウロすんなって。給料安いんじゃないかと思われるって」
「そりゃそうですよ。上のものが従業員に夢見せないで誰がやる気になってくれるんです? 上の物が安い物着てたら指揮が下がります。あなたの地位が兵士のゴールなんですから」
「そうなんだよねー。ジャージメーカーでも買うか……」
丸ごと買うくらいは金が余ってる。
公爵会の連中、なんで金足りなかったんだ?
不思議でしかたない。
「それいいですね」
「なにが?」
「いやほら鬼神国と帝国人は体型そんなに変わりませんし。うちのアパレルとコラボしては?」
その手があった。
「妖精さん……」
「もうクレアちゃん呼びました」
さすが妖精さん。
面白そうな気配があると出現する。
クレアが資料の束を持ってくる。
「買えそうなメーカーの一覧と依頼できそうなデザイナー一覧。商社に連絡したら三分で資料作ってくれたよ」
「……なんかごめん」
「前にカフェチェーンのいスタッフの前でたこ焼き焼いたじゃない? あれが超絶大ヒットしたの」
「そういやそんなのあったな」
「そこからレオの思いつきは最優先体制だって」
おそらくジェスターの能力的なものが働いているのだろう。
あと野生の勘。
「なんかスンマセン……」
「みんな喜んでるけど、内情はたいへんだろうね……」
「う、うわぁ……」
サリアどん引き。
この事件を機に帝国では商人も少し頭おかしい説が鬼神国外務省では通説になった。
商社だけだと思うのよ。
でだ、組むメーカーは士官学校勢で話し合う。
特に大学院女子勢のガチッぷりは必見だった。
よく考えたら成人した女性の方が詳しいわな。
で、男子は憧れのスポーツメーカー。
女子は超高級ブランドと割れてしまった。
そしたらクレアが「両方でいいじゃない」と商社に連絡。
どの日のうちに商社、スポーツメーカー、高級ブランドのコラボレーションの合意書が送られてきた。
合弁会社立ち上げるんだって。
株は士官学校勢で七割保有と。
みんな金余ってるからバンバン資本投下しやがった。
ここで俺、やらかしたことに気づいた。
話が恐ろしく大きくなった。
数日後にはバトルドームに担当者がやってきた。
どこで聞きつけたのかトマスも参戦。
当然、嫁ちゃんも話しに加わる。
はっはっはっはっは……。どうしてこうなった?
もう俺には制御できない。
ただ戦艦で着ても恥ずかしくないジャージが欲しかっただけなのだ。
ちょっと怖くなって軍の偉い人に密告したら軍もイッチョ噛み。
軍の正式採用も視野に入れた話し合いになる。
だ、誰か止められる人!!!
外務省ならなんとかしてくれるはず!
……そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
外務省の野郎、鬼神国やバトルドームとの親善イベントとしてドバッと予算投下。
鬼神国アパレル風とかバトルドーム最新ファッションとかのファッションショーが開催されることになった。
ここでなぜかサム兄から連絡が。
実は俺の持ってる施設なんかもサム兄にまかせてる。
「うちのショッピングモールでファッションショーやるって。お前のショッピングモールでもやりたいって言うから予定組んどいたぞ。軍と外務省が全面協力だってよ。パレードまでやってくれるってよ」
乾いた笑いが出た。
ジャージ作るだけの話を使い倒すつもりだ。
サリアも引きつった笑いしか出ない。
だって鬼神国とバトルドーム側も帝国との親善イベントで大騒ぎになったのだ。
そう、三方共に対話とか協力の糸口が欲しかったのだ。
経済が死んでる亀さんやオオカミさんの失業者へ仕事割り振ったりとか、もうね、関係者全員本気だった。
思いつきで行動起こした俺たち以外。
俺はレンとクレアとイベントの中継を見てた。
「どうしようか?」
「旦那様はなにやっても派手になりますから。もうあきらめるしか」
「ぴえーんクレア~」
「あきらめよ。ふぁいと!」
びえーん!




