第三百二十五話
戦争って言っても移動と待機時間がほとんどである。
今は待機時間。
俺もイソノを筆頭とした体育会外務省軍団も【外務省】の腕章を外して完全休日モード。
病院区画で働いてたワンオーワンもタチアナも今日はお休み。
ケビン、メリッサ、レンもお休みである。
みんないつもの芋ジャージでいつもの食堂でダラダラしてた。
兵士たちが俺らを見てヒソヒソ話してる。
「なあ……あれ大公様だよな?」
「士官学校のジャージ着てるぞ……」
「貴族ってブランド物で固めてるんじゃねえの? あそこにいるのほとんど伯爵以上だろ?」
「つうか最低でも少尉だろ。給料いいんじゃねえの?」
「いや、だって大公様、こないだたこ焼き焼いてたぞ」
「食堂で働いてるニーナちゃん、あの子も伯爵で少尉だろ?」
「おい大丈夫かよ! この帝国」
あ、やっべーな。
とは思ったけど疲れてたのでスルー。
でも動かないとな……。
「ワンオーワン、ホットケーキ食べる?」
「食べるであります!!!」
「んじゃお手伝いして。ほらタチアナも」
しゃきーんっと起き上がったワンオーワンとタチアナと厨房へ。
ホットケーキを焼く。
どうせカツアゲされるのでみんなの分も焼いていく。
「ワンオーワン、冷蔵庫からホイップクリーム持ってきて。タチアナはベリーソースとチョコソースお願い。あと冷凍庫から果物適当に」
「はいであります!」
焼きまくってるとケビンとニーナさんがやって来て手伝ってくれる。
ニーナさんもホットケーキ屋さんに。
盛り付けは上手なケビンにまかせてっと。
「ちょっとぉ男子ぃッ! 配膳しなさいよぉッ!」
「うっわ! レオ、きも!!!」
お約束のやりとりをして男子が配膳してくれる。
焼いてて思い出したけど、亀の人ことタートル人はスッポン料理とか禁忌かなと聞いてみた。
直接聞くの大事。だって種族の考え方も違うもん。
そしたら「ゲテモノ料理に分類されるけど何も思わない」と回答が来た。
そりゃそうか。俺たちだってタートル人がサル食ってても何も思わないわ。
プローンは俺たちを直接食うから問題なわけで。
相互理解って難しい。
頭の整理をしながら一心不乱にホットケーキを焼き続ける。
すると艦内放送が入った。
なんだろうと思うと嫁ちゃんがキレた声でまくし立てる。
「婿殿とその一味! 食堂で待ってろ!!! あと妾の分のホットケーキ焼いとけ!!!」
なんだろう?
嫁ちゃんの分はあとで持っていく予定だったしちょうどいい。
すると明らかにブチ切れた嫁ちゃんとその近衛隊までゾロゾロやって来た。
「あ、皆さんも食べます」
俺はできる男。
もう焼いた。
おっちゃんたちの分は香りつけにラム酒をちょっと垂らしてっと。
「……まあいい。近衛隊も食事せよ」
嫁ちゃんのはホイップ多めで。
「はい嫁ちゃん」
「ありがとう……じゃないわい!!! 聞け! お主ら!!!」
なんか本当に怒ってる。
なんだろう。
「お主らのせいで軍に動揺が走ってるわ!!! 給料安いんじゃないかとな!!!」
「えー!」
芋ジャージ軍団が一斉に不満の声をあげる。
だって給料いいけど使い方わからないし、贅沢する趣味もなければ時間もない。
「お前ら今までの給料なにに使った?」
「はい!」
俺は元気よく手をあげる。
「嫌な予感しかしないが婿殿」
「軍を追い出されたとき用に大型民間宇宙船の免許をリモートで取りました!」
「……予想はしてたがそれか!!! それなのか!!!」
「軍人で所定の単位クリアしてるんで一部免除で48万クレジットかかりました!!!」
「はい論外!!!」
なぜか不合格判定を出された。
なにこの理不尽質問。
「そもそも婿殿を追い出せるわけないじゃろが!!!」
「えー……」
そうなの? 本当に? 信じちゃうよ。
「はい皇帝陛下!」
次にエディが手をあげる。
「お、おう、エディか」
「実家に仕送りして残りは領地に送りました!」
するとほぼ全員が「そうだよな。仕送りだよな」って同意する。
「多すぎるわ!!! お前ら伯爵じゃろが!!!」
嫁ちゃんがギャオーっと吠えた。
するとイソノが手をあげる。
「スポーツカー買いました!」
「な、なんだってー!」
「フフフフフ……。運転はしばらくできそうにもねえけどな」
全員がイソノの天才的なプランに度肝を抜かれた。
なんか無駄に金持ちっぽいのきた!
「は、発想が貧困すぎる……そんなの貴様らにとってお小遣い程度じゃろが!!! つかイソノ! 運転手雇え!!! お前は運転するな!!!」
「えー……」
するとレンの目が光った。
「牛一頭飼いました!!! 肉が送られてきたらみんなでバーベキューです!!!」
「な、なんだってー!!!」
合成肉だってあるのに牛一頭!
すげえぜ!!!
「ほう、どこで買った?」
「農業惑星への推し活納税です!!!」
地方税を好きなところに納税すると産地の品もらえるやーつ!!!
「論外!!!」
「ええええええええええええー!」
みんなに動揺が広がる。
「オ金持チ、難シイデース!!!」
俺も降参。
だって給料は隙に使ってるけど、領地の上がりは領地の経済に使ってるし。
軍や外務省からの給料も将来の貯蓄で投資してるくらいで残りは実家に送ってるしな。
それも農業法人と会社作ってて俺も経営者なせいか増えて返ってくるんだよね。
無駄遣いしても一向に減らねえぞ。
「婿殿の場合はあるじゃろが! 映画館ごと買うとか」
「もう買った。実家の惑星にできた新駅の近くの複合商業施設丸ごと、あれ俺の」
「お、おう」
自分の領地は執事さんとかに丸投げしてる。
公爵会の下で私腹を肥やしてた連中は処断されたので、残ったのは優秀で誠実な人たちだ。
好きにやらせたら恐ろしいくらい開発が進んだ。
自分の財産はすでにとてつもない規模、個人で管理できない水準に達している。
それを財団化してそこから給料もらってる形だ。
その財団も帝国から補助金もらって各種事業をやってる。
俺ももはや意味がわからなすぎて全貌を把握できてない。
だって俺個人の会計士と弁護士と税理士がいるんだよ! 意味わからないよ!
ただ大型宇宙船の免許もふらっと思いつきで受験して一括で免許取得料を払えた。
これを金持ちと言わずになんと言う!!!
「だーかーらー!!! まずはその芋ジャージを変えるのじゃ!!!」
嫁ちゃんが怒鳴る。
「だってこれ着心地いいんだもん!!!」
「着るのは部屋だけにしろ!!!」
えー。
俺たちのセレブライフはまだ遙か彼方である。




