第三百二十四話
初戦は楽勝。
でもこれプローンが正々堂々戦ってくれる相手との戦争しか知らないだけだよね。
しばらくしたら戦略考えてくると思う。
俺たちのゾーク戦と同じだね。
最初は戸惑うけど適応するもんだ。
だから逃亡させなかったわけ。
情報が本国に行かないようにね。
捕まえた連中には合成した肉を与えてる。
捕虜虐待なんかしてないよ。
オオカミの人や亀の人が事情聴取を要請したら引き渡すかもしれないけど。
結果は知らにゃい。
我らは犯罪人引き渡し条約を誠実に履行しただけである。
プローンとは条約結んでないし国家として承認してないもん!
バトルドームの規約にもないもんねー!
我々帝国は法を守る国家なのである。
毎日戦争するわけじゃないし、メインで戦争するのは鬼神国だ。
俺たちは要請があったら参加すればいい。
諜報活動はするけどね。
というわけで細かい活動。
小さなドローンで蜘蛛を大気圏外からばら撒く。
あとはケビンにまかせる。
「んー、読めない書類があるよ」
ケビンが言った。
そりゃなめくじの文字は読めないわな。
翻訳も言葉の方はバトルドームの技術でなんとかなるんだけど、読む方は頼むしかない。
当たり前だわ。
たとえ友好国でもそんな技術俺たちに渡すわけねえわ。
鬼神国的にも裏切られないためにカードは多く持ってた方がいい。
こういうメタ認知本当に重要。
「写真で送って」
「了解」
サリアに頼めばいい。
鬼神国がなめくじで非人道的な実験やってたとかの記述があったら削除されるだろうけど、それでもかまわない。
見えなきゃ同じである。
絶対ありえないが「本当はプローンが被害者でしたー」なんて展開があっても知らん。
現状で話し合いが成立するのは鬼神国やバトルドーム加盟国なのだ。
俺も嫁ちゃんも知ったことではない。
俺たちの給料を払ってるのは帝国だ。
帝国の利益を優先してなにが悪い!
「この書類……会計帳簿ではないかの?」
「嫁ちゃんわかるの?」
「なんとなく書式がそれっぽいのじゃ」
うーんなんか嫌な予感がする。
サリアにサクッと送ろう。
サリアに送るとすぐに連絡が来る。
「……来てください」
今まで見たことないくらいブチ切れたサリアが連絡してきた。
「お、おう、落ち着け。今行くから」
「ええ……」
嫁ちゃんと行くと各国首脳がリモート会議で勢ぞろい。
前大王とサリアは普通は普通に生身で参加。
でさ、なんか空気がピリついてる。
みんな血管ビキビキさせてた。
やだ怖い。
なに?
なんなの?
「えーっとサリア、俺たちだけ意味がわからなくて困惑してるんだけど」
「でしょうね。いやー……はっはっは。ヴェロニカ殿……出荷リストでした」
あー!
それ聞きたくないやつ!!!
「拉致されて食肉に加工された証拠です」
「おお……それはなんというか……」
嫁ちゃんどん引きである。
「人食いなのは隠してなかったんじゃなかったっけ?」
「拉致して食ってるのは認めてませんでした」
詭弁の極みである。
よく許されてきたなあいつら。
「それどうすんのよ?」
「報復以外の選択肢……あります? 報復しなかったら我々が失脚します」
「ですよねー」
オオカミの人や亀の人も怒りで震えていた。
どうしよう……この空気。
いや気持ちはわかるけどさ。
「ということで領土奪還作戦です。次はタートル人の領土を奪還しましょう」
「へーい」
「帝国政府の多大なる援助には感謝いたします」
亀の人が頭を下げた。
「ですが今回は我らでやらねばなりません」
完全にガン決まってた。
「たとえ絶滅しようとも我らの手でやつらを地獄に送らねばなりません!」
オオカミの人も同調する。
「我ら銀狼人も戦うぞ!!! やつらだけは許せん!!! ここで逃げたら先祖に申し訳が立たぬわ!!!」
現在は弱小と言えども、かつての中規模国。
技術力は失われてないとのことだ。
「帝国は諜報で参加する。やつらの首は貴公らのものじゃ」
嫁ちゃんが言った。
そしてサリアが一言。
「鬼神国もやつらは許しておけません」
怒りで殺気を放出する前大王に対して、サリアは笑顔だった。
ただその笑顔は「ようやくぶち殺せる」という歓喜に裏打ちされていた。
そうなるよね……。
こうして俺たちは恨みの深さを再確認しつつ部屋に戻ったのだ。
「食堂行くのじゃ……」
そういやご飯食べてなかった。
食堂に行くと士官学校の連中が仕事してた。
どうしても連携しないといけないので食堂が一番便利なのだ。
なお一般兵の目の前で死にそうな顔で仕事してるので、「士官って楽そうだよね」って不満は出てこない。
むしろ「本当ならまだ学生なのにたいへんだよね」って言われるほどである。
差し入れもかなりくれる。
かなり気を使われてるような……。
「あの文書なんだったん?」
【外務省】の腕章をつけてエナジードリンクを飲んでたイソノに聞かれる。
「あー……人肉処理リスト」
ブッとイソノがエナジードリンクを吐き出した。
他の連中もブーイングしてくる。
「てめえレオ! メシ食ってる最中だったんだぞ!!!」
「この人でなし!!!」
「いやさー、この嫌な気分をみんなにもプレゼント♪」
「てめえええええッ!!!」
だってプローンと戦ってから二キロ痩せたんだもん!
もともと脂肪なんてほとんどついてないのにさあ。
ホント食欲なくなるわ!
「そう言うな。皆も婿殿が一番しんどい思いをしてるのは知ってるじゃろ?」
嫁ちゃんがそう言うと女子を中心として「そうだよねー、レオくんが一番たいへんだよねー」ってかばってくれた。
どうよイソノ。これが信用だぞ!
「というわけでケビン。悪いけどまた頼むわ」
「うん了解」
なんだかんだ言って暗殺だもんな。
ケビンには申し訳ないことをしてる自覚はある。
でもあの数の蜘蛛型ドローンの一斉操作は現状ケビンにしかできないのだ。
本人は「これで人的被害減らせるんだから別にいいよ」って言ってるけど申し訳ない。
「不思議とプローンに関しては罪悪感が生まれないんだ」
みんな「わかるわー」って顔してた。
俺もだけど。




