第三百十九話
なんかさよほど悔しかったみたい。
プローンがネット放送でプロパガンダを開始した。
俺限定で琵琶湖を思い出させる地方のホテルみたいな曲が流れる。
「あなたがたはお肉になることで罪を許されるのです!」
じゃじゃーん。
……つまんにゃい。
本当にだまそうとしてるのが見え見えのオーバーアクションで「オマエ肉、オレ喰ウ」としか言ってない。
伝わるとでも思ってんのか?
鬼神国民を感動の渦包んだプロレス研究会を見習えオラ!
あれからザウルスとタンクのおっさんはバトルドームでインタビューを受けまくってる。
一日にして全宇宙規模のスターになったのである。
やはり帝国民ってエンターテイメント能力に全振りの文明だったんだなと。いやかなり本気で。
おっさんたちも何が求められてるか理解してる。だってプロだもの。
毎回木場選手の写真を持って行ってる。
本人たちも求められてるのを理解しつつも、パフォーマンスなんかじゃなくて心の底から木場選手への友情からやってるので……こんなん泣くだろが!!!
木場さんの写真も笑ってるような気がする。
木場さんがいた団体、帝国プロレスの関係者が招集された。
外宇宙まで来いとは言えないけどさ。
みんな外務省から仕事を割り振られた。
帝国本土でも毎日ニュースになってる。
帝都民は特に身内や仲間を失った人が多い。
そりゃバラエティよりはこっち見たいよね。
鬼神国もクーデターでなくなった人もかなりいる。
プロパガンダはやりすぎるとよくないんだけどね。
サリアも「プロパガンダなんて一割くらいですよ。主に鬼神国が補助金出してるって意味です」って言ってる。
嫁ちゃんも「プロパガンダは復興アピールくらいかの。こんなにウケるとは思ってなかったのじゃ」とのことである。
でだ、もう一人。
人気ものになっちゃったのが、女子プロレスの試合を披露したクレアとその対戦相手のコト選手……本当は琴子なんだけどリングネームがコトなんだって!
それはそれは恐ろしい勢いで写真集が売れた。
写真部に適当に作らせたやつなのに……。
従軍ジャーナリストの人に顧問してもらったら腕がメキメキ上がってるんだよね。
顧問の所属会社が鬼神国だけじゃなくて帝国でも販売。
グラビアアイドルや普通のアイドルをぶち抜いて写真集週間売上ランキング一位に輝いた。
なお二位はザウルスとタンク、それに木場選手の写真集である。
もうクレアを地味子なんて言うやつは誰もいない。
「前から言ってるんだがの、婿殿は女性の趣味が恐ろしくいいのじゃ」
嫁ちゃんが俺が焼いたタコ焼きを食べながらつぶやいた。
「ほう、聞こうか」
「婿殿はアイドルや女優タイプに反応しないが隠れファンがいるタイプを次々落としていくのじゃ」
「NTR専用ヤンキーってことぉッ!!!」
「アレクシアに無反応だったではないか!」
「元おっさんに反応してたまるか!!!」
「アオイは正統派の美女じゃぞ」
そういやちゃんと話してからなんも反応しなかったわ。
ケビンと同じにおいがしたからだろうか?
「嫁ちゃん……俺には嫁ちゃんが一番大切だよ」
秘技!
都合の悪いトピック回避の術!!!
「えへへへへへ。なんじゃ~。もう!」
ふう助かった。
その後もたこ焼きを無心で焼いてごまかせた。
クレアのところに行く。
クレアは完全に疲れていた。
アイドル扱いされる日が来るとは思ってなかったようである。
「たこ焼き食べる?」
「ありがとう」
うーん疲れてる。
「今までベンチャーの役員とか、レオのとこの幹部とかのインタビューは受けたけど……まさか写真集を出す日が来るなんて……」
「機体の写真集は前に出したんだけどね~」
殺戮の夜シリーズ機体写真集はかなり前に出版した。
マニアに大受けしたらしいよ。
あとメーカーさん。
現在最強の機体だからね。
マニュアル制御で操作が難しくて異常なくらい応答反応がいいからパイロットを選ぶけど。
うちで一番美人である。
これだけは曲げない。
あ、そうそうプローンの話しなきゃ。
「プローンがプロパガンダ戦略はじめたって」
そう言ってこちらの規格に直した動画をクレアに見せる。
「なにこの地方局の朝早くにひっそりやってそうな番組……」
同じ感想であった。
「そもそも主張がわかり合えないからひたすら面白くない。しかも本人たちは面白いつもり」
「それ! まさに言語化したらそれ!」
本当に面白くないのだ。
最初、違う文明だからかなって思ったのよ。
だけどサリアに聞いたら「自分たちだけが正しいと思ってる宗教国家なんでああなっちゃうんです」と言ってた。
うちも人類だけで固まってるけどそれでも価値観が多様なんだろう。
うーん納得した。
「それでさ、サリアが次の試合の予定組んでくれって」
パリンとクレアの眼鏡にヒビが入った。
怪現象かな?
「つ、次?」
「うん、人気ありすぎて土下座でもなんでもするんでお願いしますって」
「こ、今度は男子を中心に」
「はっはっは。話題になってない時点で察してくれ。学生プロレスは鬼神国にはまだはやかったんだ……」
もうね、プロレス研究会の男子を問い詰めたら「俺はプロレスをやりたかったわけじゃない! 学生プロレスをやりたかったんだ!!!」だって。
哲学かな?
とりあえず「根性叩き直します」ってザウルスとタンクが言ってくれたんで安心である。
なお、研究会の備品庫で空気人形などが発見されたので焼却処分になったことは報告しておく。
でだ、俺はプローンとの戦いは三月以降かなって思ってた。
バトルドーム所属の他の国々とも同盟結びたかったし。
鬼神国はズッ友状態だけど商売相手も同盟相手も複数いた方がいい。
将来どうなるかなんて誰にもわからんからね。
でもさ、思ったより追い込まれてたのよ。プローンども。
あとでよく考えたら、思い当たる節は前からあった。
だって宗教国家なのに屍食鬼や海賊なんかと組むくらいだもん。
でもそのころの俺たちには、プローンの表に出ない内情なんて気にする余裕はなかったのだ。




