第三百十八話
ザウルスとタンクの戦いが繰り広げられてた。
いや~、すげえのよ。
なんでメインでやらなかったんだろうってレベル。
「なるべく流血はだめよ」って言ってあるからヘッドバッドとか凶器攻撃はなし。
あれは見る方も高度なスキルが要求されるのだ。
だから今日は超高度な技の応酬が繰り広げられた。
さすがプロ。
まずは打撃から入って、極限まで磨かれたレスリング技術を披露し、客を沸かせる。
型稽古になれてる鬼神国人には刺さる試合だ。
そこからスーパーヘビー級どうしの大迫力の飛び技の応酬。
武術側の人間でもこれはワクワクする。
そしてプロレス特有の派手な投げ技。
人口=武術家の鬼神国では危険性がよくわかるものだ。
技がきまるたびに歓声が沸いた。
関節技でさえみんな楽しんでいた。
ザウルスが倒れ、起き上がれずにいる。
それをタンクが見下ろしながら吠えた。
「てめえザウルス! ゾークに殺された仲間はもう起き上がれねえんだぞ!!!」
ストンピングをするとザウルスがよろよろと起き上がった。
「全力出してこいよ!!!」
「うおおおおおおおッ!」
ザウルスが吠えた。
それからはチョップの応酬がはじまった。
そういやニュースでやっていた。
帝都への攻撃でプロレス会場が襲撃された。
その場にいた選手が皆殺しにされたのだ。
「ザウルスのタッグパートナーは木場と言っての。観客を逃がすために最後まで戦ったのじゃ。監視カメラにすべて映っておっての」
嫁ちゃんが教えてくれた。
そんなん俺たち泣くだろが!
パンフレットで事前情報として知らされていた観客たちから割れんばかりの大歓声が起きた。
「レオさん、仲間の敵討ちってのは鬼神国じゃ定番の美談なんですよ」
サリアが教えてくれた。
「敵と戦って敵討ちした。そういうの鬼神国じゃ英雄扱いなんです」
なるほど。
帝国とは少々違うが……それでも先祖が同じなのかなってくらい理解できる文化だ。
「特に今回プローンへの敵討ちを国民が望んでます。これはとてつもない事になるかも」
うん? なにそれ?
そう貴賓席にいた俺たちは、まだ売店の惨状を知らなかったのだ。
チョップがエルボーになり二人が何度も打ち合う。
肉が軋む音、筋肉の躍動、それを人々が固唾を飲んで見守っていた。
最後に二人が同時にラリアットを繰り出した。
魂をこめた一撃が会場を揺らした。
二人はよろけた。
だがタンクの方がダメージが大きかった。
棒立ちになっていた。
「木場ぁッ!!! 俺は! 俺は! てめえの代わりに外宇宙に来たぞ!!!」
ザウルスが故人であるタッグパートナーを名前を叫んだ。
ザウルスがタンクを持ち上げ投げた。
担ぎ上げると自分のサイドに倒れ込みタンクの巨体をマットに叩きつける。
エメラルド・フロウジョン。
大技が決まった。
そのままスリーカウント。
うん、素晴らしい試合を見せていただきました。
観客総立ちである。
試合後に抱擁する二人。
その姿に歓声が浴びせられた。
ホント、こんなの泣くだろが!!!
この試合の後に学生たちって大丈夫か?
いや本当に大丈夫なのか?
悩んでいると嫁ちゃんどこかと通信してた。
そして真っ青な顔して俺の方を見る。
「どうしたん?」
「……ざ、ザウルスとタンクの試合映像の総集編を求めに客が殺到……ば、売店が倒壊した」
「おう……サリアっち……」
サリアも通信してた。
「あー、こっちも問題が……警備隊が蹴散らされたみたいです」
俺もサリアも嫁ちゃんすらもいろいろ甘く見てた。
あまりにも試合内容がよすぎたのである。
興奮、男の意地、涙。すべてがそこにあった。
たった十数分でザウルスとタンクの名は鬼神国中に知れ渡ったのだ。
するとまたしてもサリアに通信が入った。
「あ、はい。サリアです。え……バトルドームに注文が殺到? ちょ、私はもうマネージャー退職したんですけど、大王様どうにかしてください? どうにもならないでしょ!!!」
「お、おう……」
「お二人ともなんとかしてください!!!」
そう、なんとかするしかない。
だけど事態を沈静化させたのは……クレアだった。
会場にクレアが入ってくる。
入場曲はネットで話題になったアイドルの曲だ。
衣装かわいいな。
対戦相手もアイドル系。
こっちもかわいい曲で入ってくる。
今まで感動に震えてた観客たちが面食らう。
「え? 戦えるのぉ!?」
ってみんな思ったんだと思う。
お前らはクレアの強さを知らない。
案の定、クレアたちは観客の度肝を抜いた。
女子らしい大技連発。
飛びまくりである。
さらに場外乱闘まで。
そりゃ本職と比べたらプロレスの技術は低い。
でもそれを圧倒的運動能力でカバー。
そりゃうちのエースパイロットの一人だしね。
対戦相手の女子だって負けてない。
だって士官学校の女子だもん。
学生プロレスなのにボディスラムで投げたあとにロープの反動を使って一回転して投げた相手に体を浴びせた。
ライオンサルトとかすっげえわ。
これには観客も大満足。
「な、なんとかなったな……」
「ふう……」
って思うじゃん。
サリアが泣きそうな顔になる。
「今度は写真集をめぐって暴動が……」
もういろいろあきらめた。
俺も嫁ちゃんもサリアも。
後日引き渡しということで引換券配った。
なおプロレス研究会の男子であるが、あれほどやるなと警告してた学生プロレス奥義コタツの上でパイルドライバー、通称コタツドライバーをやりやがった。
だから初心者には伝わらねえってつってんだろ!!!
パンツに相手の頭つっこむバージョンだったら問答無用で営倉行きと思ってたが普通のパイルドライバーでよかった。
まだ他人様にお見せできるやつだ。
意味はわからないがシュールなのは伝わったようで笑いが起きてくれた。
なんで君らそうチャレンジャーなの? ねえ!
いい感じに観客の熱を冷ましてくれたことには感謝する。
なお午後に行われた野球のテスト試合であるが、ピゲットたち嫁ちゃんの近衛隊草野球チームが乱闘なしで相手チームにケガ人を多数作ったため中止になった。
士官学校野球部って地区大会じゃ上位校のはずなんだけど……。
それはそれでウケたのでよしとする。
なお対プローンのプロパガンダのつもりは全然なかったんだけど、鬼神国世論がたいへんなことになったようである。
外交って難しいね。




