第三十一話
博物館で在庫を漁る。
ほんと捨てるの苦手だな公爵さん。
バックヤードはゴミの山だった。
「なんだよこの書類」
紙なんて帝国の中央ではもう何百年も使われてない。
地方では使われてるし、うちの侯爵家も使ってる。
士官学校でも掲示板の貼り紙くらいには使われている。
10代のアホガキ揃いの教育施設では紙の方が破損のダメージが少ない。
ディスプレイ壊されたら痛いもんな。
俺たちは殴っても止まらないのだよ。
直すのもたいへんだ。
一般に売られてる商品は造形プリンターで出力しても使用料取られるし。
しかも高い。
田舎惑星もだいたい同じ理由だ。
紙の方が便利である。
紙なんて言ってるが合成セルロース樹脂の生分解性シート……細かい話はやめておこう。
俺も全部知ってるわけじゃない。
で、おもしろ半分に書類を読む。
不正を見つけたらあとで脅迫しようと思う。公爵家ムカつくから。
俺は屈辱の報復は必ず果たすタイプである。
読んでいると普通に在庫確認の書類ばかりだ。
つまんねえな!!!
で、パラパラめくって飛ばしてると500年前の古い書類が出てくる。
「状態がいいな」
紙だと思ったら、鉱石のシートにレーザー彫刻してある記録用シートだった。
風化しない素材に風化予防のコーティングがされている。
そこに彫刻してあるので長期保存ができるというものだ。
普通はガラスケースに挟んで保存する物だが。
というか紙とは……?
この手のシートに機密が書かれていることは少ない。
むしろ戦勝記念とか歴史的イベントを記録してる物が多い。
どれどれ読んでみるか。
500年前の歴史的出来事なんてジェスターが暴れたくらいだろう。
そんなに期待できないけどね。
「弱P弱P→弱K強P」
瞬●殺やんけー!!!
おま、ぶち殺すぞ!!!
しかもなんかスティックあるじゃねえか!!!
てめえ俺がコマンド入力できないとか思ってやがるな!!!
ぶち殺すぞ!!!
おりゃーやってくれるぜ!!!
俺は瞬獄●を入力する。
するとゴゴゴゴゴゴ……と音を立てて本棚が動いた。
そこに扉が出現する。
扉も自動で開く。
なんてこった……。
「クレア、応答してくれ。隠し部屋を見つけた」
「こちらクレア。隠し部屋って」
「わからない。入ってみる」
「待って、近衛隊呼んでくる」
クレアと近衛隊のモヒカンのおっさんが来た。
「これが隠し扉か……公爵は何を隠していたのだ?」
「うちの実家の悪口が濃厚……」
「この先は危ないかもしれないよ。三人で向かおうね」
二人の顔は正直だった。
【俺が何かやらかすから監視する】と書いてある。
特にクレアは【私が見てないと】と妙な義務感まで持っていた。
間違ってないのが恐ろしいところではある。
三人で中に入る。
先行するのはおっさんである。
「ワイヤーなし。床にトラップなし。罠はないようだ。入ってこい」
入ると古い情報端末があった。
ワークステーションのようでかなり大きかった。
「昔の端末だね」
「立ち上げてみる」
端末を起動すると既視感のあるOSが立ち上がった。
「専用機と同じOSだ……」
ただこちらはワークステーション。
文書作成や表計算用だからもっと簡単だ。
文書のフォルダを開ける。
大量の日記が保存されていた。
「こんな古いものなんで保存してたんだろ?」
クレアに聞かれるが答えなんか出てこない。
適当なことを言ってみる。
「捨てられなかっただけじゃないかなあ」
「婿殿、それはあまりにも無理がある。隠し部屋にわざわざ置くのか?」
「でもさーこんなの取っておく意味なんてないでしょ……どれどれ、【我々ミストラル家はゾークとの戦いに辛くも勝利した】ってちょっと待て!!!」
「なんでこの間決まったゾークの名称使ってるの!? それいつの話?」
「500年前……」
俺は汚い笑顔を作った。
「公爵家はやつらを知っていたのか……?」
「レオ、続けて」
「はーいママ。【生物兵器ジェスターは華々しい戦果を上げた。だが、それが問題だった。子を成せぬように作ったにもかかわらず、やつらは子を成した。ジェスターどうしの子など許しておけぬ。やつらを抹殺せねば!!!】」
「クリティカルな文書だー!!! こんなもん端末ごと処分しとけよ!!!」
「なるほど。公爵は捨てられずに取っておいたというわけか……」
「うちのお母様も古い鍋とか捨てられないのよねえ……取っ手とれてるのに【まだ使えるから!】って……」
クレアの家もそんな感じみたいである。
ゴミ屋敷が文書の保存に役に立ってしまったようだ。
「つまり、なんだ。500年前、ジェスターはゾークと戦った。だがそれを恐れたものが反乱をでっち上げ皆殺しにした……ということか?」
おっさんがアゴを触る。
陰謀の証拠を見つけてしまったというのに、のんきなものだ。
「さすがに飛躍しすぎじゃない? それにあんまり知りすぎるとよくなさそうな……」
「いくらセンセーショナルでも500年前の出来事だ。知ったところでどうということはない」
「度胸ありすぎ!!!」
「殿下にメッセージを送っておく。それにしても……戦い方を知っていたはずでは?」
文書をさらに読んでいく。
【ビーム兵器の運用】
嫌な予感しかしない。
【ゾークにはビーム兵器が効果的である】
「あー!!! そういうことか!!! これ信じてビーム兵器ばかり置いてたけど、とっくに対策ずみだったのか!!!」
アホである。
本物のアホである。
そりゃ対策するわ!!!
俺だって対策するわ!!!
「それでビーム兵器に強いカニが生まれたわけか……」
「公爵には聞きたいことができたようだ」
ボキボキと指を鳴らす。
もしかしてウチを目の敵にしてたのって……。
いやそれはさすがに考えすぎか。
資料を駆逐艦に送信。
そのころには修理を終えたメリッサたちとも合流した。
「あははははー! 壊れちゃったよ。やっぱ隊長みたいにいかないわー!!!」
メリッサは明るかった。
不穏極まる現状に一服の清涼感よ……。
「隊長、今日もゲームしようぜ! ほれ起動しろって」
またボコボコにされる!!!




