第三百六話
サッカーイベントの計画はとてもたいへんだった。
学祭の実行委員とは規模が違う。
サッカーは大盛り上がりだ。
テストイベントなので20人くらい入ればいいなと思ったら、チケットは予約開始日に即日完売。
満員御礼が予想される。
せっかくなので外にも巨大ディスプレイで見られる場所や、飲食しながら楽しめるスペースを設ける。
当初はクレアにお願いしてイベント会社を紹介してもらおうとした。
そしたら商社の偉い人から連絡があって泣きつかれた。
「外宇宙でイベント開催したって言う実績が欲しいんです! 赤字でもいいんです! お願いします~!」
だって。
たしかにこれから嫌でも商売する相手だ。
お願いしよう。
命知らずの商社マンが物資と作業員連れてきて屋台を作りまくる。
商社マンが屋台やるのかなと思ったら、これまた命知らずのキッチンカーの事業者が来る? あ、はい。
詳しく聞いてみたら、このイベント参加に応募が殺到したらしい。
自分の裁量権を超越しそうな予感がしたので嫁ちゃんに事前に泣きついておいてよかった。
外交は人類統一政府になってから有名無実化した。
ポストのためだけにひたすらプールされ続けてた予算をジャブジャブ使う。
自分の金と勘違いして貯めてたらしいよ。
でもこれ本当に外交だしね。
向こうの通貨も大量に手に入る。
大赤字でも許されるんだって。
議会も承認しているようだ。
最悪足元見られて劣悪なレートで交換することも視野に入れてた。
物資を買いたたかれたり、商売の独占を契約に入れられたりね。
そういうのは回避できた。
なにやっても安くつく。
最初に出会ったのが商売を理解しているバトルドームだったのは本当に運がよかった。
国民も【外交成功しました】からはじまった方が精神衛生上いいだろう。
うんうん。
ユニフォームなんかは最短で作成。
出身地域ごとにチーム分けした。
このバトルドーム営業所の従業員のほとんどが鬼神国出身者。
なので鬼神国の地域ごとで分けた。
鬼神国出身者は運動神経がいい。
少し教えたら普通高校の体育の授業よりはマシな試合をしてくれた。
むしろ鬼神国はほぼ全員が戦士になるための厳しい教育をされており、フィジカルだけなら全国レベルである。
帝国民の目が肥えすぎてるだけで、その辺の草リーグや高校生の地区大会だって退屈ってほどじゃない。
最初の大会にしてはマシだと思う。
あと士官学校から志願したサッカー部員。
大学校にサッカー推薦で入ってきたガチ勢もいる。
なお俺はサッカーは授業でしか経験がないので今回はパス。
完全に運営にまわる。
イソノや中島などの士官学校野球部。
それに大学校の野球部まで含めた連中が「野球もオナシャス!!!」って懇願してきた。
「いやだからルールが複雑で一目見て理解できないのと試合時間が長いのと練習場所と道具がたくさん必要という問題がだな……」
「オナシャス!!!(血の涙) 土下座だな! 土下座すればいいんだな!!!」
「聞けよバカ!!!」
野球バカたちに話は通じなかった。
サリアに相談したら「今度お願いします」って言われた。
よしサリアに責任押しつけられた。
そしたら今度は空手部が土下座しにきた。
だーかーらー!!!
演武をさせてくれなきゃ一歩も動かない? わかったよ!!! プログラムに入れりゃいいんでしょ!!!
空手部が来たという噂が広がったら柔道部でしょ、相撲部でしょ、レスリング部でしょ。
頭を悩ませてるとクレアさんが来た。
え? プロレス研究会の発表会? 大学部も合同で? あ、はい。
コタツドライバーとかの悪ノリ禁止ね。
高度すぎて向こうさんが理解できないからね!!!
野球部は次回大会に回すとして、武道系のデモンストレーションは入れてもいい。
あとカトリ先生が当然のように帝国剣術の演武入れるよな?
って確認しに来た。
みんな! 先生にボコられないように練習するぞ!!!
エディ、あとはまかせた!!!
でさ、体育会が終わったら今度は文化系。
展示はいいのよ。それはもう商社と話し合いした。
だけど吹奏楽部や軽音研究会がライブやりたいんだって!!!
特に大学校の方は軍の音楽科に入隊したいセミプロの集まりだ。
一方、軽音は普通の軽音サークルである。
軽音……きみら吹奏楽部と一緒にライブって度胸あるな……。
なお大学校の吹奏楽部は雅楽もできるらしい。
ってとこまで手配したところで大王がやって来やがった。
嫁ちゃんと俺、トマスたちにサリアと筋肉ダルマのおっさんで出迎える。
大王は予想どおり。【主食プロテイン、以上!】みたいなおっさんだった。
「鬼神国大王ヒビヤである」
筋肉を見せつけるかのような装束であった。
サリアとかは祖先が同じかなって感じだったのだが……このおっさん……圧倒的に濃い。
やたら大きなツノがそびえ立つ。
「銀河帝国皇帝ヴェロニカじゃ」
嫁ちゃんと握手。
やっぱり共通の祖先を持つ種族のような気がする。
次に俺と目が合う。
やめろ、こっち見んな。
「ほう」
そういった瞬間、膨大な殺気が俺に放たれた。
だけど俺は何食わぬ顔。
だってカトリ先生みたいに「今すぐよけないと死ぬ!!!」って感じじゃないもの。
「我の殺気を受け流すか……ふ、ふはははははははははー! 面白い! 面白いぞ!!!」
嫁ちゃんは冷や汗を浮かべていた。
アイコンタクト「仕返ししていい?」
嫁ちゃんから返信「い・い・ぞ!」
はーい。
俺は殺気を放つ。
殺気を放つなんて言っても俺も理解してるわけじゃない。
なんか【ぶち殺すぞ】って感じで戦闘態勢に入る。
「ぬ、ぬう! これほどか!!!」
おっさんも冷や汗を流してた。
いやいやたいしたことねえッス。
カトリ先生だと殺気にプラスして、よけるかガードするかの二択迫ってくるから。
「がははははは! 気に入ったぞ!!!」
バンバンと背中を叩かれる。
暑苦しいおっさんである。
「スポーツとやら楽しみにしてるぞ。はっはっは!」
最初はこんなものか。
外交交渉もクソもない。
だって俺たち実績ないし。
でだ、サッカーの試合である。
初戦は鬼神族どうしの対戦。
高校サッカーの地区予選より技術はないけどフィジカルは化け物みたいな試合だった。
あれはあれで面白い。
酒飲んで騒いで楽しそうである。
ただゴール外したときに観客がビールの紙コップ投げ込んでたな。
最初はそんなものだろう。
試合が終わったら武道系の演武。
うん、彼らにまかせてよかった。
クレアたちは後半のハーフタイムで試合する予定だ。
だけどさ、こんなお祭り騒ぎに空気の読めないやつらが来たわけだ。
「警報! 警報! 屍食鬼の船です!!!」
サリアの声で警報が発せられた。
このタイミングできちゃうの!?
やめて!
クレアが見たことのない表情でブチ切れてるから!!!




