第三百三話
「な、なんだ! なんだその武器は!!!」
筋肉ダルマがさらに顔を真っ赤にする。
そろそろ高血圧で死にそうな気がする。
キレる気持ちはわかるけど。
「木刀だが?」
それは木刀なんて代物じゃねえ。
木刀に謝れおっさん。
「ど、どんな卑劣な武器だ! わが槍を壊すなんてあるはずが……」
ですよねー。
そう思いますよね。
なんらかの筋肉アシスト使ってると思うじゃん。
「いいぞ。使うか」
そう言ってカトリ先生は剣を放り投げた。
刃なんかついてない。
そのまま床に落ちるはず……床に深々と突き刺さった。
筋力アシストなどない。
純粋な筋力であの頭のおかしい剣を使っているのだ。
このド変態が!!!
もっと俺に優しくしろ!!!
「は?」
「使えよ。いいぜ。俺は素手で」
先生はコキコキと首を鳴らした。
それが終わると指をポキポキ鳴らす。
「ほらさっさと木刀拾えよ」
筋肉ダルマはさらに顔を真っ赤にして、なんとか木刀を床から抜こうとしていた。
「もー、しかたねえな。ほれ」
筋肉ダルマの手を取って先生が木刀を引き抜く。
「なんだこの重さ!」
「なんだってことねえだろ。毎日これでレオと遊んでたんだからよ。ほれ、かかって来い」
「ぐ、ぐう!!!」
ヨロヨロと筋肉ダルマが剣を振りかぶった。
それは罠だ。
そんなもん使うくらいなら素手で戦った方がいい。
カトリ先生が意味もなく剣で戦わなきゃならない感を出して圧をかけてるが、それは幻想だ。
カトリ先生の口八丁にごまかされてるのだ!
やめとけやめとけ。
「こんなもの使えるか!!!」
剣を引っこ抜くのをあきらめて筋肉ダルマがカトリ先生につかみかかる。
だけどそれも悪手なのよ。
あのおっさん……素手も強いのよ……。
ふわっと筋肉ダルマの体が浮いた。
足払いであった。
普段からさー、俺に足癖悪いって怒るくせにさ! カトリ先生も足癖悪いからね!!!
びたーんっと筋肉ダルマは受け身も取れずに床に叩きつけられた。
「ぐはッ!!! ま、まいった!!!」
ちゃんと降参できた。
これで終了だ。
バトルドームとも良好な関係を作れたし、情報を持ってる人材も確保した。
おそらくゾークは一番最初にバトルドームではなく敵対種族を引いたのだろう。
だから交渉というカードを封印してしまった。
俺たちは運がよかったのだろう。たぶんね。
チュートリアルが強制されただけかもしれんけどね。
うんうんと一人納得してるとカトリ先生がこちらに剣を向けてるのが見えた。
嫌な予感がする。今すぐ逃げねば。
俺は逃亡する。
だがそこは知らない建物。
すぐにサリアとバトルドームの警備員に捕まった。
「と、トイレを探してただけだもん!!!」
我ながら苦しい言い訳である。
「あー、端末のスピーカーに映像飛ばしますね」
サリアの端末からカトリ先生の声がする。
「オラァ!!! こっちは不完全燃焼なんだ! レオ降りてこい!!! 逃げんじゃねえぞ!!!」
ふええええええええん!
言うと思った!!!
「行きましょう。一緒に怒られてあげますから」
「俺が悪いことした児童風なのやめろ!!! 俺は何一つ悪くない!!!」
結局、腰ヒモつけられていけにえに出される。
「うおおおおおお! 先生なんて怖くねえぞ!!!」
例の刀2本目が数人がかりで運ばれてくる。
俺はそれを片手で取ってカトリ先生に襲いかかる。
「死ねコラ!!!」
「お、やる気あんね。いいぞいいぞ!」
俺の渾身の一撃は普通に防御される。
ぐ! この化け物が!!!
「ふはははははははははははーッ!」
カトリ先生の嵐のような攻撃。
もうね、手加減してくれないの!
俺は死ぬ気でよけて……一瞬にも満たない隙を見て背を見せて逃げる。
やってられるか!!!
「待てコラ!!!」
カトリ先生が俺の背中のはるか後方を斬る。
普通は当たらない距離だ。
そう普通は。
衝撃波が来た。
俺は跳ね飛ばされる。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
格ゲーみたいなことしやがった!!!
ならば俺もできるはず!!!
跳ね飛ばされた俺にコロシアムの壁が迫る。
まずは壁に剣を突き刺し威力を殺す。
とんっと華麗に降りると……なんかムカついてきた。
もういいもんね!
マネしちゃうもんね!!!
「どりゃああああああああああああッ!!!」
俺も素振り。
衝撃波を発生させる。
「ぐ! 一度見ただけで奥義をマネしやがった!!! この化け物が!!! 死ねえええええええ!!!」
「それは俺のセリフじゃ!!! おどりゃああああああッ!!!」
衝撃波を同時に放つ。
二つの衝撃波がぶつかったせいでコロシアムの床がバラバラになっていく。
「あ、ちょ! やめ! やめてえええええええ!!!」
サリアが悲鳴を上げたがもう知らん。
俺をカトリ先生に差し出したお前が悪い。
「ふはははははははは! 楽しいな!!!」
「楽しくねー!!! たまには大人しくしてろおっさん!!!」
こうしてコロシアムは修理でしばらく営業を停止する騒ぎになったのである。
これを重く見たバトルドーム運営は「頭おかしそうな一団にムリヤリ試合させるのやめようね」という規則を新しく作ったらしい。
俺は悪くない!
なお俺たちは出入り禁止になるかと思ったら、バトルドーム本部のマスタークラスに登録された。
上から2番目のリーグだって。
そもそも地方で戦わせたのが間違いっていう判定だって!
本部は遠い。しばらく戦わなくていいようだ。
それはいいのよ。それは。
この周辺の地図ももらえたし、御用商人になってくれるって言ってくれたし。
問題は……。
「お、親分! 子作りですね!!! はい用意できてます!」
シャルである。
もうね、俺は虚無の顔でノータイム通報する。
「嫁ちゃんタスケテ」
「うむ」
「な、なぜだ! わ、私にはあの化け物じみた強さの原因たる遺伝子を鬼神国に持ちかえるという任務が……」
「だからそういうのがイヤなの!!!」
それ以前に今……俺は足腰立たん。
なんだあの技。体への負担大きすぎるだろ。全身痛いわ!!!
シャルが嫁ちゃんと近衛隊に連行されていく。
「婿殿……そのな、妾が言うのはなんだがの。婿殿はごく普通の恋愛は無理じゃないかの?」
「びえーん!!!」
愛する嫁ちゃんにまでそう言われるのだった。
レオ・カミシロ、もうすぐ18歳。
エロ同人誌みたいな恋愛がしたいです。




