第三百二話
今度はエディの番だ。
「だいぶスポーツ寄りでよかったよ!」
エディはさわやかな笑顔で通信してきた。
あ、こいつ悪いこと考えてる。
エディは優等生だ。
アホアホ男子どものストッパーになってたくらいだ。
だがエディはたまにやらかすのだ。
確実になにか企んでやがる。
「おいエディ!」
「お、出番だって。切るわ」
なにをしようと思ってるのかな?
怖すぎるのだが。
エディ機が出撃した。
ごく普通に手を振り、ごく普通に礼をして、ごく普通に剣を構える。
なぜだろうか? ゴゴゴゴゴゴゴゴって音が聞こえる気がする。
相手は大きな鎧武者。
派手だな……。
刀を持っている。
エディが斬りつける。
あれ? いつもより遅いしわかりやすい。
エディは俺対策で殺気を操る。
殺気を入れずに攻撃してくるし、殺気を入れてフェイントをかけてくる。
変幻自在。とてつもなく意地悪な攻撃である。
誰だ! 純真だったエディを汚したのは!? ……俺か。
エディの一撃は簡単に防がれる。
たいしたことのない相手だと思ったのか対戦相手の連撃が襲う。
それをエディは教科書どおりの動きでブロックしていく。
うっわ……防御に徹すれば食らわないもんっていう態度だ。
相手の攻撃で隙が生まれるとそこに攻撃を教えるかのようなヘロヘロ攻撃。
演武かな? 演武なのかな?
エディは演武気分。対戦相手は試合気分だ。
もし俺がそんなのやったら、カトリ先生に「気が抜けてんなあああああああああ! 俺に代われええええええええッ!!!」ってヘド吐くまで相手させられてるパターンだ。
圧倒的な実力差によって約束組み手に誘導する。わかる人にはわかる。
そして対戦相手はわからない。
なぜならわかるレベルに達してないから。
対戦相手が焦って踏み込むと足払いする。
うっわー……型の矯正までやっちゃってる。……むごい。
このやりとりを相手が疲れて思考がぼやけるまで繰り返し……。
「それまで!!!」
大恥かかされた筋肉ダルマが止めた。
なんか……ホント、すんません……。
うちの子が地獄みたいなことして。
「レーナ! 貴様は破門だ!!! 実力差もわからんとは貴様にはがっかりしたぞ!!!」
筋肉ダルマは顔真っ赤にしてる。
あ、これ本気でキレてるわ。
つまりだ……切腹はブラフで本気で怒ったときの制裁は破門なのね!
対戦相手の機体は緊急停止。
びえーんっと泣きながら女の子が出てきた。
エディが外部スピーカーで呼びかける。
「恥かかせてごめんな。でも……そこの筋肉ダルマ! うちの大将は寛容だからヘラヘラしてるけど、恥かかされたのは同じだからな!」
なんかエディくんブチ切れてるのだが……。
俺も会場の外部スピーカー直結のマイクを取る。
「あ! そうか! 切腹はブラフってことは最初からシャルを送り込むつもりだったってことか!?」
「今気づいたんか! このボケ大公!!!」
ぴえーん。
だから言ってるじゃん。
俺は管理職向きじゃないんだって!
いままで顔を赤くしてた筋肉ダルマの顔がさらに真っ赤になる。
「うるさい! 文句があるなら力で示せ!!!」
「そういうの好き。じゃあ俺がもう一戦……」
と思ったのにコロシアムにすでに人が立ってた。
最高にいい笑顔をしてるおっさん。
カトリ先生だ。
「先生なんでいるんだよ!」
「いいじゃん混ぜろよ~」
「あんた人型戦闘機の免許持ってないでしょ」
「生身での戦いを所望する。あんた、まさか嫌とは言わねえよな?」
筋肉ダルマがニヤッと笑った。
「がははははははは! いいだろう!!! こやつらの師匠として俺が責任を取ろう!!!」
「おう、俺はカトリ。ガキどもの……師匠じゃねえな。引率だ」
「ぐはははは! 俺はゼンだ! さあ戦おうぞ!!!」
カトリ先生はいつも俺とどつき合ってる特殊樹脂の剣を構える。
あれさークソ重いのよ。
かと言って木刀だと折れるし、刃引きの剣だと折れるし。
ウォーミングアップは木刀というか適当な丸太でやってたんだけど、体温まったらあの剣で戦うことにしてる。
さすがのインチキ臭いサリアもこれには困惑してた。
「い、いいので?」
「いいっすよ~。むしろここで止めると後で俺が死ぬので、猛獣をなるべく疲れさせてくださいね~」
「てめえレオ! あとで道場来い!!!」
酷すぎる!
カトリ先生が構える。
筋肉ダルマはもうね、これ見よがしにデカくて太い槍を持ってきた。
それをブンブン振ってる。
やだ凄い!
「そんなチンケな剣でいいのか」
それを聞く程度には筋肉ダルマは紳士のようだ。
「いいのいいの。俺はこれで」
対してうちの猛獣はさも木刀ですと言わんばかりの態度だった。
そういうところやぞ!
あんたそういうところやぞ!!!
「行くぞ!!!」
筋肉ダルマが槍で突いてきた。
まずはご挨拶。
だけどうちのゴリラは違う。
そんな空気なんて読まない。
半歩横にずれて突きを回避すると、いきなり距離をつめる。
「愚かな!!!」
丸太みたいな大きさの槍の横薙ぎが先生を襲う。
だけどさー、いつもあの太さの丸太でどつき合いしてんのよ。俺ら。
刃に当たるとか完全に無意味。
どこかに当たれば敵は死ぬだろう。
そういう横薙ぎだった。
先生はその横薙ぎに一撃打ち込んだ。
極限まで圧縮された樹脂というか実験室レベルの謎素材の一撃。
金属なんかより硬くてしなやかで……死ぬほど重い。
そう、たかが丸太程度の太さの物体じゃ……。
先生の一撃が槍をへし折った。
「へ?」
これには筋肉ダルマも鼻水を垂らしてアホ面さらしていた。
よくある達人物語みたいに木刀で木刀を斬ったんじゃない。
普通に素材の暴力でへし折った。
へし折った瞬間、刃が届いてないはずの床のタイルまでがベキベキと破壊された。
「な、なんだそれは!!!」
ですよねー。そう思いますよね!!!
あれは受けちゃいけないのよ。
受けるときも体の柔軟性フルに使って衝撃を散らさないと死ぬからね!




