第二百九十八話
お店の方がやって来てくれたのでワンオーワンとみんなでお疲れ会。
嫁ちゃんの近衛隊はいないし酒はいらな……カトリ先生、捨てられた子犬みたいな顔やめて。
末松さんも「くぅーん」じゃないでしょ!
レイブンくんは……? あ、成人してる。了解ッス。
お店ごと来てくれたスタッフに聞いたら昼はカフェ、夜はバーなんだって。お酒も用意しますって!!!
嫁ちゃん……神すぎる!
え? 普通の侯爵家ってこういうの普通なの!?
想像すらできなかったよ!
遊園地貸し切りは一度やったから想像できるし料金知ってるけど。
「乾杯!」
宴会の始まりである。
自由集合、自由解散で一般兵も出入り自由である。
たまにはこういうのもいいよね。
ワンオーワンが山盛りのパフェを前に目を輝かせる。
タチアナもだ。
普段「アタシそういうの興味ないんで」って顔してるヤツのこの顔よ!
完全勝利である。
「しょ、少佐殿! た、食べてもいいでありますか?」
「おー、いいぞ食え食え」
二人がパフェを食べる。
守りたい。この平和な光景。
「ひ、姫様。お口にクリームが」
ジェントルマンがワンオーワンの口を拭く。
このジェントルマン。絶望のおっさんである。
ヒゲ剃って髪整えたらこれよ!
「ありがとうであります」
切り離し手術が終わって絶望とその仲間はワンオーワンの配下になった。
ケビンはゾーク因子が発動した被害者の皆さん。
ワンオーワンは旧共和国の皆さんという形で分かれた。
そもそも共和国として独立してなくても領主なら別に同じだよねって話である。
帝都の会社と商売しなければ税金もささやかだ。
外宇宙の脅威を前にしたらメリットしかない。
というわけで絶望とその部下はワンオーワンの飼育員……じゃなくて執事兼護衛になったわけである。
ケビンの補佐なんかもするみたい。
「ねえねえ、今度カトリ先生の稽古一緒に行こ」
と言ってみたらニコリとほほ笑まれた。
「マザーの支配下から解かれたことで理解しました。ジェスターとの圧倒的性能差を」
「ひどくね!」
「マザーはそもそもジェスターを敵に回したことが失敗だったのです」
執事口調であおりやがるな。
「私も絶望などと言われておりましたが……とてもとても、ジェスター様の足元にも及びません」
「なんでよ?」
「コメディ時空の発生があまりにも理不尽すぎるからですよ」
ひでえ!
俺は道化だけど思考自体は真剣なのよ!
真面目にやってあれなんだからね!!!
同じく道化であるタチアナは笑う。
「あはははは! 珍しく少佐が押されてる!」
「言っとくがコメディー時空の発生源はお前もだからな!」
「いいじゃねえッスか。わけわからないまま戦場出て死ぬより。カッコヨクねえけど死なないんでしょ。前のタチアナが欲しかったものッス」
発言の重さが違う。
絶望と二人で黙ってしまった。
「あ、なんか悪かったな。俺の分も食うか?」
「あ、上のイチゴもらうっス」
「少佐殿!!!」
ワンオーワンの目がきらきらしてる。
「おかわりする?」
「はいであります!!!」
たとえ嵐の前の静けさだったとしても……こういう平和なのっていいよね。
おっさんどもが酒飲んで歌ってる。
喧嘩も起きない。
だってカトリ先生いるし。
クレアはフルーツゴテ盛りプリンアラモードを食べていた。
本当に果物好きなんだな……。
と見てたら袖を引っ張られた。
ワンオーワンである。
「食べる?」
「はいであります!!!」
大丈夫かなって一瞬真顔になったが……執事が止めないんだから大丈夫だろう。
たぶん。
そんな執事はワンオーワンをニコニコ見守っていたが、カトリ先生がやってきて「飲みましょう!」とさらわれていった。
おっさんどものコミュニケーション能力の高さよ……。
メリッサがやってきて抱きつく。
「どうしたの子ネコちゃん(イケメンスマイル)」
「たこ焼き……焼いていい」
ニーナさんもほほ笑んでる。
塩気欲しくなったのね。
生ハムと四種とチーズのクレープで我慢……それは方向が違う。あー、はい。
お店の人に聞いたら「かまいませんよ~♪」と言われた。
でも全力で頭下げておく。ホントスンマセン。しつけのできてない部下どもで!
なぜか俺が焼く係。
ニーナさん……え? 俺の方が上手?
いやーまたまた!
「焼くよー」
サクッと焼いていく。
腹ぺこ士官学校勢が俺の前に立つ。
お前ら……。腹減ってたんだな。
「あー! もう一列に並べ!!!」
たこ焼きを焼く。
少佐のお仕事、それはたこ焼きの調理。
少佐って何?
少佐にしかできない?
もーやだー! 全力出しちゃう!
「腹ぺこども! おら! たこ焼きだ!!!」
たこ焼きを焼きまくる。
外宇宙との戦争負けたら夜逃げしてたこ焼き屋やろうかな。
なぜかお店の人も食べてる。
はっはっは!
え? レシピ? いいっすよ。
俺の名前を使う? えっとクレア! 商売の話頼む!
「おいしいであります!」
無限の胃袋を持つワンオーワンが至福の顔をする。
完全にメシの顔だぜ~。
タチアナも目をキラキラさせてた。
メリッサも、ニーナさんまで喜んでる。
クレアはお店の人と話し合ってる。
え? 俺の商標管理してる実家に連絡する? はいはい、頼んます。
「うまそうなもん食ってんな。くれよ」
カトリ先生たちおっさんどもの略奪にあった。
粉たくさんあるからいいけどさ。
お店の人と目が合ったので頭を下げる。
ほんとすみません。酔っ払ったおっさんどものしつけができてなくて。
それより粉はどこ製?
えっとクレアさーん!!!
海苔もなんでもクレアさんにお願いします。
え? ワンオーワン焼いてみたい?
いいよ~。焼きますか。
嗚呼……嫁ちゃん……お願い……はやく帰ってきて……。
嫁ちゃんがいないだけでみんなやりたい放題なのよ……。
え? 先生、シメのお茶漬け?
自分で作りなさい!!!
その後、喫茶店運営会社がたこ焼き店を開いて急成長するのだが、それは俺とは関係ないはずだ。




