第二百九十六話
ゲートにタイマーを設置。
向こうから開通するまでの予想を立てておく。
少しでも異常があったら知らせてもらうことにする。
今のところは問題なし。
開けようとはしてるみたいだけどね。
妖精さんがこちら側の扉に細工して、向こうの銀河から見えないようにしてくれてる。
見つかっても今度はセキュリティーの暗号積み上げて妨害するって話だ。
当然、俺はここに滞在。
嫁ちゃんは戦勝式典に出るため帝都に行ってしまった。
寂しい。
嫁ちゃんによる俺の尻ドラムはしばらく聞けないようだ。
当面は敵がやって来たときのために砦を築くことである。
俺は溶岩で遺跡を覆って使えないようにすることを提案したが却下された。
その場合、保護機能の発動で強制的に扉が開く可能性が排除できないそうだ。
なので敵対種族がやってきたら応戦するほかない。
つまり俺はここから動かせない。
士官学校の連中もトマスたちもここで足止めだ。
ピゲットだけは嫁ちゃんの護衛に自分の任命式もあるから帝都に行ってるけどね。
戦争の英雄がなぜか戦勝記念式典に出ないことは様々な憶測を呼んでいた……。
実際は嫁ちゃんが小出しに情報流出させまくってるんだけどね!!!
従軍記者さんもグル!
それで戦勝記念式典の後に外宇宙発見という爆弾発表である。
帝国は外の敵の存在は明かさない予定である。
連続で戦争って状態を国民が許すかが問題である。
戦わないと奴隷になるらしいけどね。
ゾークみたいに問答無用で抹殺してくるよりはマシなのかも?
「奴隷になるのはイヤだよね~」
新しく作った食堂でつぶやいた。
もう食堂で会議が当たり前になってきてしまった。
情報漏洩?
嫁ちゃんがバンバン漏らせって。
「奴隷ってレオが思ってるような意味じゃないよ」
クレアが呆れた声を出した。
「え?」
も、もしかしてえっちな意味なのか!?
「他の種族を餌にしてる種族もいるって」
「まさかの食肉扱い!!!」
絶対無理じゃん。
戦って死んだ方がマシだわ。
「英雄さんはどうする? あきらめる?」
もー、やだー!
そんな挑発されたらやるしかないッス!!!
「怖いけどがんばるわー」
「そうね、あのゾークよりも強い種族もいっぱいいるみたいだしね……怖いよね」
「え? 怖い? 隊長ニヤけてるけど……」
メリッサが来た。
肉まんを温めて持ってきたようだ。
「え? ニヤけてた? うそぉッ!!!」
俺、バトル野郎じゃないよ。
「やっぱ帝国最強のパイロットだね。体が戦いを求めてるよ」
「も、求めてねえって!」
人肉食の強大な敵なんて嫌に決まってるだろ!
「お、そうか。帝国最強殿は戦いを欲してるか~♪」
カトリ師範襲来!
俺は自然な動きで逃ぼ……。
「捕まえたぞ~!」
「は、離せ! うおおおおおおお! 離せえええええええええ!!!」
「あ、カトリ師範、俺も稽古つけてもらえます?」
「いいぞメリッサ。他の連中も誘いなさい。はっはっは!」
「みんないるから俺は要らなくないッすか? ねえ!」
「はっはっは! これから外つ国のまだ見ぬ強豪と戦うんだろ? 俺を余裕で下せるくらいにならんとな~♪」
「やーめーてー!!!」
俺が求めるのはラブ&ピースである。
我、宇宙一平和を愛する男ぞ!
「カトリ先生! 武道の神髄敵なやつ! 最強の護身術は敵と友だちになるやつさ的なの! そういうのないでありますか!?」
「レオやめろよ~。そういうのはさー、武術家とチンピラがあんまり変わらない存在だとバレたらやべえ。そこに生涯学習とかそういうファンタジー設定持ってきて補助金入れてるだけだっつーの」
「のおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
「あきらめろよ~。帝国最強さんよ~」
「じ、自分は武術家じゃなくて兵士……」
「じゃ、上の命令に従わないとな!」
逃げ道などなかった。
だが……待てよ。エッジ、エッジがいれば俺なんていらんのだ!
あ……これ……エンドコンテンツだわ。
エッジがやる必要ないわ。ぴえーん!!!
俺が道場に連行されるとイソノ、中島、エディもすでに捕まっていた。
「レオの馬鹿野郎!!! ハナザワさん、帰ったらとデートしてくれるって言ってたのに~!!!」
イソノぎゃん泣き。
「びえーん!!! 俺も婚約者怒ってるよ~!!! イソノ~!!!」
中島も泣いている。
悪は滅んだ。
「俺も帰れないって言ったらミネルバに怒られて……」
珍しくエディがへこんでいた。
エディは婚約者と仲いいもんな。
「エディのとこはいいだろ! 婚約者本人に心配されてるんだから~!!! 俺なんて向こうの家からさ! 【え? 中尉に昇進? はやすぎね? 本当に大丈夫?】ってお義父さんに心配されたんだぞ!」
そういやエディ、イソノ、中島であるが中尉に昇進した。
エディは既定路線としてあと二人昇進せねばならなかったのだが、くじ引きで負けて二人が中尉になったのだ。
本当は全員中尉の話があったのだが【絶対嫌でゴザル】と拒否された。
みんな少尉の仕事だけで手一杯なのだ。
だから上から三人だけいけにえに捧げられたわけである。
「いいじゃん。うちなんて親の階級飛び越しちゃいそうでさー、家臣一同大もめなのよ。出世なんてできねえよ」
メリッサはつまらなさそうにしていた。
メリッサの家は子爵家だ。
娘が伯爵になってしまっただけでも実家内部で大騒ぎだそうだ。
そこに10代で中尉となると実家もどうしていいかわからない。
ノウハウもなければ受け入れ体制も所属してる派閥の調整もクソもあったものではない。
そもそもがメリッサは定年前に少尉になればいいかなってくらいであったのだ。
「だってメリッサはレオの嫁になるんだろ?」
エディが聞くとメリッサはテレながらもはっきりと答えた。
「うん、でも共働きしたいし。自分の食い扶持くらい自分で稼ぎたいからよ~」
独立心の塊である。
いいことではあるんだけどね。
「おーい、稽古するぞ~」
「カトリ先生! 自分は先生の人生の先輩としてのありがたいお言葉をお聞きしたいであります!!!」
なんとか稽古を回避するぞ!
「あー、わかった。いいぞ。お前をぶちのめしたあとでな」
しまった!
会話の選択肢を間違えた!!!
こうしていつものように俺は半殺しにされたのである。
でもさ……不思議なんだわ。
次の日になったらわかったんだけど、前みたいに体に響いてない。
普通に元気だ。体も痛くない。
超能力を使った後の疲れもない。
ヒーリングではなく普通に体力や筋力のおかげのようだ。
もしかして……俺……まだ強くなる余地あるってことぉッ?




