第二百九十五話
マザーを倒したことで戦いは終わりを迎えた。
人類は勝利を手にしたが、その傷はあまりにも深かった。
人類は減少傾向だというのにわかっているだけで死亡者は数億人。
調査が進めばさらに数倍、数十倍にふくれあがるだろう。
俺たちは英雄として帝都に凱旋する予定だ。
帝都では戦勝記念セールやらが好調なんだって。
戻ってチヤホヤされないとね。
……って、その前にやることがあるんだけどね。
アヤメは膨大なデータを残した。その分析だ。
さらにゾーク側の機体に取り込まれた絶望たちの切り離し手術とやることが多すぎて死にそうである。
統率を失ったカニの群れ問題なんかもね。
それらを解決せねば動けないのだ。
しばらくは惑星サンクチュアリの士官学校宿舎を使うことになる。
まずは水道ガス電気すべて修理するところから!
作業の手伝いしようと思ったら止められる。
え? 少佐にはさせられん?
少佐としての事務能力が低いから現場仕事をしたいのだ!
そんな主張をしたらピゲットに襟をつかまれて連行された。
「なんかあったんすか少将閣下?」
ピゲットは少将閣下が戦争終結を機に退官したため少将になった。
でもしばらくは将軍じゃなくて俺たち付きの新しい職務だそうだ。
なお俺は中佐の昇進を土下座で回避した。
お願いだから能力的に無理なんだってわかってくれ!
ピゲットは無言である。
こりゃなんか非常事態だな。
「自分で歩くッス」
歩きながら仏頂面のピゲットに話かけてみる。
「嫁ちゃん関連っすか?」
「……違う」
あんれー?
いつもよりかなり機嫌が悪い。
俺がなにかしたわけじゃないし……。
そもそも問題起こしても【ジェスターだし】ってあきらめられてるし。
なんだろう?
「……戦争についてだ」
「だってもう終わりでしょ?」
そしたらまた無言。
やだなー、そういうのやめてよ~。
宿舎の教官用会議室に嫁ちゃんとクレアがいた。
嫁ちゃんもクレアも難しい顔してる。
「やっほー。なんかあったん?」
「婿殿そこに座れ」
やだなに? もしかしてお説教?
折りたたみ椅子を渡さされたので広げて座る。
「……これを見るのじゃ」
写真が送信されてくる。
宇宙空間に生物が映っている。
手前にカニが写っててカニと比較するととんでもなく大きい。
「なんすかこれ?」
だけど嫁ちゃんは答えてくれない。
別の写真に切り替わる。
人型戦闘機が表示される。
だけど兵装やデザインが俺たちのとまったく違う。
巨大な戦斧を持ってるな。
「なにこれ?」
そう言いながらもなんとなくわかっていた。
もう一枚表示される。
着陸した兵士だ。
ただ人間ではない。
体は人間ぽいんだけど、頭が水槽みたいになっていてタコみたいな頭足類が中に入っていた。
「……外宇宙の兵士じゃ」
「へぇ~」
例え外宇宙がなんであろうとも出なければ問題ない。
そもそも人口減ってるんだから外に出る意味ないだろ。
「外宇宙に出なきゃ会うこともないでしょ。うちはうち、外は外」
「書類を見せてやれ」
書類が送られてくる。
「なによ……」
なになに……【外宇宙勢力の帝国領土への襲来予想について】。
「おうふ……なにしに来るのぉッ!?」
ここに来たってイチゴとトマトとエンサイが余ってるだけだぞ……。
「ああ……そいつを説明するにはな……この資料を……。いや妾から説明すればいいか。婿殿聞け! 外宇宙では力こそ正義じゃ」
「帝国もあまり変わらんでしょが」
「そうじゃなくてだな……外宇宙では数百数千の種族が戦いに身を投じておる」
「戦国時代ってこと?」
「いいや、戦国時代なんていう穏やかな世界じゃない。弱肉強食、勝者だけがすべてを手にする世界なのじゃ!」
「……待って、やっぱ共和国の連中逃げてきたの!?」
「ああ、結果的にはな。そもそも共和国のとの戦争、いわゆる500年前の黒の災厄の真相がはじまりじゃ。黒の災厄は当初成功したが帝国に追い詰められた共和国は惑星サンクチュアリのゲートから外宇宙に逃げたとのことじゃ」
「待って、追放されたんじゃなくて?」
「追放と同じじゃ。そこで外宇宙のテクノロジーで体を改造して帰ってきた。問題は帰ってくる際にこの銀河の情報が他の種族にも漏れたことじゃ」
「ろくなことしないッスね」
「どうやらゾークは外宇宙で中堅どころの勢力だったようじゃ。そのせいで外宇宙の戦闘民族たちはゾークを追いだした帝国に興味津々というわけじゃ」
勘弁してくれよ……。
「あ、でもゲートさえ開かなきゃ来れないんでしょ?」
ゾークだって外宇宙を自分たちのワープだけで渡ってきたんじゃなかったんだ。
他の勢力だって同じじゃないかな?
かなりの犠牲を払うんだと思うよ。
「それが……問題なのよ」
クレアが真剣な顔をした。
「問題?」
「これじゃ」
動画が送られてきた。
例の遺跡である。
なぜか光ってる。
「絶望に聞いたところ、向こうから開こうとしてるときの反応らしい」
「勘弁してくれよ……」
外宇宙産の戦闘民族襲来かよ!
「今回は俺の力が通じるかわからねえぞ……」
悲観的なセリフが自然と出てきた。
「一理あるな。だからの、こちらからゲート開けようと思うのじゃ。共和国の残した資料によると商人国家や傭兵国家もあるらしい。彼らを味方につければ勝率は上がる」
「……それなにかのフラグじゃないかな!?」
「だとしても向こうから攻め込まれるよりはだいぶマシじゃ」
「い、遺跡を破壊すれば……」
「レオ、遺跡のパーツは時間軸がないんだって。つまりどんな攻撃をしようとも永遠に形を保ち続けるって」
壊せないのね!!!
壊せるんだったら500年前の帝国が壊してるか。
「現状はこんなとこじゃ。なにか意見はあるか?」
「嫁ちゃん、クレア……俺と一緒に逃げてくれ!」
「魅力的じゃが……妾は責任ある立場でな」
「どこに逃げるっていうの。どこに逃げても敵は来るよ」
ですよねー!
こうして共和国との戦争は終結し、俺たちはまた大きな問題を抱えることになったのである。




