第二百九十一話
ゾークとの決戦が決まった。
まずは軍の偉い人に嫁ちゃんが根回しするみたい。
ちゃんと根回ししないと勝手に作戦決められたり、編成いじられたり、ヘタすると俺が外されたりする。
帝都を攻められても官僚組織内にいまだに他人事勢は存在するのである。
他にも悪い意味でのゲーム感覚勢に、もう一度帝都焼いて焼け太り狙ってる勢、戦争を機に出世を狙って人の足を引っ張りまくる勢などが動き出してる。
……みんな死ねばいいのに。
これが公爵会みたいにゾークから利益供与されてるとか洗脳されてるのならまだマシだろう。
だけどいくら洗っても出てこない、ただ単に性根が邪悪なだけってのがいやがるのだ。
それもかなりの数。
さらにただ単に前例しか認めない勢、決断力が皆無勢、面倒そうな仕事は放置勢などの純粋な無能もいる。
これが平時なら社会の何かしらの歯車で必要な部品なのだろう。
今はいらん!
お前らのせいで何人も死ぬぞ!
嫁ちゃんや妖精さん、それに警察や軍でなるべく排除してるんだけど……完全な排除は難しい。
この艦にだっているもの。
とりあえず酒飲んで仕事する勢は失脚させる方向である。
それを考えると独断専行が多い俺はまだマシな部類なのではと思う。
神問題の方はいったん棚上げ。
物理攻撃が通じさえすれば神だろうが異星人だろうが同じである。
ぶち殺すだけである。
信仰を問われても異教の神だ。
心理的距離はその辺の知らんおっさんよりも離れている。
戦う覚悟なんていらない。
生き残るさ。
そんなわけで待機。
今回は【大事な戦の前にケガすんだろ! 仕事なんかすんな!】って言われてるので暇である。
カトリ先生も空気読んで遊びに来ない。
部屋にいてもゲームやってるだけだからシミュレーター室か食堂にいるか社で暇つぶしするしかない。
社にはお菓子置いてきた。
プリンをご所望だった。
お高いヤツじゃなくて、子どもが好きそうなスーパーで売ってるやつ。
すっかりズッ友である。
で、シミュレーター室。
例の無理ゲーをプレイ。
ソロは楽勝。
攻撃が当たらなければどうということはない。
鼻歌交じりで攻略。
エディとエッジが急激に記録を伸ばしている。
二人はデスルーラやグリッジを利用してるRTA勢だ。
当方はそこまでやる気力はなし。
あとはマルチだけ攻略すればいいんだけど、最近になってようやく糸口が見えてきた。
今まではよける隙間もない全方面攻撃が問題だった。
【どうしようかなあ……】ってずっと思ってたんだわ。
だけど社で神様とアイス食ってたら思いついた。
チューブに入ってるやつ。
二個入ってるから一個を神様に渡して俺が一個食べる。
すると俺に電流走る。
「そうか! リニアブレイザー倒す必要ないのか……」
リニアブレイザーはいきなりぶっ放してくる。
ぶっ放してくるまでの間に【全部倒そうぜ!】って作戦からの【できませんでした!】で全滅が今までのパターンである。
でもさ、角度だけ変えればいいんじゃね?
お互いがお互いを貫くように動かせば。
今の殲滅スピードならできるはずだ。
やってみるか。
で、夕方。
ニーナさんの食堂のシフトが終わるのを待って全員集合。
みんなに作戦を伝える。
「無理じゃね?」
イソノに言われた。
「でも他に作戦ねえだろ。ねー、一回やってみようよ~」
「ま、やるだけの価値はあるか。エディどう思う?」
「普段流されるままにテキトー生きてるレオが言いだすんだから価値あると思うぞ」
「酷いのに反論できない!!!」
「レオだし……」
クレアさん!?
「レオくんだし……」
ケビン!?
「旦那様ですし……」
レンまで!?
「隊長は野生動物みたいなもんだからな。勘に頼ったときの方が強いんじゃね?」
メリッサああああああぁッ!!!
「ま、婿殿じゃし」
「うん、レオくんだし」
嫁ちゃんと妖精さんまで!!!
酷すぎる!
「はい、シミュレーターやるよ!」
「クレアしゃん!?」
ということでシミュレーター。
リニアブレイザーは倒す必要ない。
それは俺たちに余裕をもたらした。
片っ端から敵を撃墜していく。
今回は嫁ちゃんも戦艦で出撃である。
俺の作戦はシンプルだ。
リニアブレイザーを軽くどつく。
軽くで問題ない。
この場合、アサルトライフルで撃てばいい。
サイズ的に豆鉄砲もいいところだが、それで問題ないのだ。
すると一瞬デスブラスターが遅れる。
それを順にやっていくことで隙間が生まれる。
これは事前の打ち合わせどおり。
その隙間をみんなでかいくぐっていく。
弾幕系シューティングみたいなもんだ。
「あ! クソ! 被弾!!!」
イソノが撃墜される。
「レオ~!!! だから無理だって言ってるだろ~!!!」
中島も撃墜される。
直後にケビンとニーナさんも全機体が消滅。リタイアだ。
次にエッジとアリッサも撃墜。
だけど俺やクレア、レンにメリッサ、そしてエディは無事だった。
嫁ちゃんもだ。
前から思ってたけど嫁ちゃんの操船技術化け物じみてない?
「婿殿! 第一波はよけたぞ! これからどうする!?」
「どうもしない!!!」
「は!?」
だってもう勝ったもの。
全方位にデスブラスターよ。
敵も無事なわけがない。
同士討ちしまくり。
すべて回避して俺たちが見た光景。
それは再起不能状態で転がるリニアブレイザーの群れだった。
こいつが正解だった。
でも全員生還ルートじゃないからまだ甘いけどね。
エンディング画面が出てスタッフロールが流れる。
ほとんど妖精さんじゃん。
【実験台 レオ・カミシロ】
妖精さん……あとで話し合おうか。
俺たちは初めて理不尽難易度のシミュレーターをクリアできたのである。
その後は喧嘩しながら反省会。
「つまりだ……全員が最低でエディレベルになれと?」
イソノが俺に詰め寄る。
「うん」
「真顔で言うな!!!」
「だってー、それしかないじゃん! イソノよく考えろ。帰って来れなきゃ婚約者とイチャコラできないよ」
「うおおおおおおおおおおおッ! あー! もうわかったよ!!! お前と出会った時点でこうなるのが確定してたのね!!!」
「イソノ、あきらめろ。考えるだけ損だゾ♪」
「この鬼!!! ド畜生がああああああああああッ!!!」
イソノがキレるのもわからないわけではない。
無改造で未来視系のエスパーと同じ判断しろってことだし。
脳の処理でおかしくなりそうになるよね。
楽しいけど。
あと何百回か死ねばできるんじゃないかって思うのよ。
こうして我々は決戦までにマルチまでクリアできるようになったのである。
なおトマスたちを加えたバージョンはまだ無理。




