第二十九話
帝国標準機装備一式ブレード。
片刃の刀だ。
前回使った二式の直剣とは違う物だ。
帝国民は日本人の末裔だ。
とは言っても純血の人間などこの世界にはいない。
プレイヤーが知っている日本の歴史はすでに失われている。
皇帝だって日本人だと自称することはない。
日本人という言葉自体が失われている。
文化や言語に日本の名残が残っているだけだろう。
刀もその一部だろう。
ただ巨大兵器の斬り合いだ。
当然、普通の金属の塊ではない。
俺の持ってるやつは高周波振動刃である。
そして問題は帝国式剣術。今回は刀の方。
俺途中までしか履修してないんだよね!!!
これは異常な事じゃない。
剣術なんて本来なら式典用なので、式典で使う型しか憶えなくていい。
ほとんどの学生は槍と直剣を全部と刀を少し履修して卒業する。
槍と直剣は式典で使う。
刀は専門の部隊を志望しないかぎり無駄技術である。
当然、実戦できるほどの腕はない。
なので俺は帝国式剣術で戦うのを諦めた。
とはいえ剣道はやる相手がいないし、初心者が強くなるには時間が足りない。
なので選択できる手段は一つしかなかった。
VRゲーム。
ゲーム世界でゲームをやる不条理よ。
VRゲームで剣戟アクションもの、それも対戦モードで実際の動き縛りのハードコアモードをプレイしまくったのだ!!!
もうね、何回負けたかわからねえ!!!
このSF世界で負けが当たり前なマゾゲーが流行るわけもなく。
だが俺にはマゾゲー大好きな嫁がいた。
嫁と対戦でボコボコにされて、オンライン対戦でもボコボコ。
何回やめようと思ったか。
「そんな訓練あるのかよ。俺もやるわ」
なぜかメリッサも参戦して黒星の山を築く。
ようやく勝てるようになったのは最近だ。
そんな無駄技術を使う日が来るとは……。
寄生体が蠢いていた。
殺気を発している。
その質が変化する。
圧迫するようなものから刺すようなものに。
来る!!!
「クレア、ちょっと集中するから黙るね」
「了解。無茶しないでね」
無理。
無茶しないと勝てない。
俺は深呼吸した。
コツは全体を見ること。
あとはクレアを信じることだろう。
俺は刀を立てて右側に寄せる。八相の構えだ。
なんとなくパターンがわかった人もいるだろう。
もちろんその通りだ。
格上相手に出し惜しみなんてしてられるかっての!!!
「うおおおおおおおおおおおッ!」
俺は大声で吠えた。
そのまま全速力で駆け出す。
俺はメリッサみたいに器用なことはできない。
カニちゃんは近接戦闘が弱点だった。
俺でもなんとかなった。
巨人から俺の技は通じなくなった。
相手が強くなったら終わり。
ジェスターの運命である。
だからこそ、あえてシンプルな戦術で行く。
力こそパワーである。
ローラーダッシュも使いスピードを加速していく。
「うおおおおおおおおおおおッ!」
俺は一撃に全てをかけ振りかぶる。
避けられたら?
知らん!!!
「くたばりやがれえええええええええッ!」
俺はブレーキなどかけずに振り下ろす。
寄生体は大剣で防御しようとしていた。
そんなのわかってるんだよ!!!
さらにフルスロットルで機体すべての重さまで使ってぶちかます。
ズドンッという強い衝撃。
防御なんて関係ない!!!
刀が相手のものごと頭にめり込んでいく。
「ぎゃぱああああああああああああっ!!!」
頭部が潰れた寄生体が悲鳴を上げた。
どこから声を出した!?
嫌な予感がした俺は地面に手をついて回避する。
次の瞬間、潰したはずの寄生体の頭部から触手が放たれた。
つい先ほどまで俺の機体の頭部があった場所を触手が攻撃する。
「射ーッ!!!」
複座から最高のタイミングでクレアが砲撃した。
さすが相棒! わかってる!!!
ガードポジション状態だった俺はこの隙に避難する。
距離をとっても不利なのはわかっていた。
だが敵がどんな攻撃をしてくるかわからない。
ビルの陰に隠れる。
角待ち戦法である。
「頭潰しても平気とか卑怯すぎるだろ!!!」
「どうするレオ? 逃げる?」
「たぶん逃げる余裕をくれない」
背筋がゾクッとした。
俺は慌てて逃げる。
ずんっと音がした。
俺たちがいた場所をビルごと触手が貫いていた。
「ちょ!!!」
威力がおかしい。
こんなの避けられるわけが……。
来る!!!
さらに逃げる。
触手がビルをなぎ倒しながら迫ってきた。
死ぬ気で避ける。
「レオ。敵は正確な位置まではわからないみたい。赤外線とかを感じてるのか……音か……とにかくなんらかの方法で感知してると思う」
「了解」
超能力を使ってみよう。
炎を使ってそこを攻撃すれば熱を感知してるはず。
「ファイア!!!」
手をかざし超能力を使う。
気合が足りないのか小さい炎が出た。
次の瞬間、その場所を触手が貫く。
「炎……熱感知か!?」
だが違和感があった。
熱感知だけでそこまで正確に攻撃できるだろうか?
ビルの壁を叩いてすぐに避難。
触手はそこを貫く。
「音もか」
どうする俺。
工事現場が目に入る。
「クレア、頼みがあるんだけど」
こうなったら卑怯とか言ってられん。
出力を抑えながらビルからビルへと移動する。
一定よりスピードを落とせば敵には感知できないようだ。
しばらく歩くと大通りが見えてきた。
「クレア、作戦位置につく」
「了解」
大通りに出て刀を構える。
ここからが地獄だ。
触手がやって来た。
俺は勘を頼りに向かってきた触手に斬りつける。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
敵の叫びが聞こえた。
ここは耐える。
触手がやってくる。
今度は複数。
落とす順番を間違えたら死ぬ。
俺は次々と触手を斬っていく。
「きつい……」
「クレア、準備完了しました」
おし!
あと少し。
だがそう上手くは行かない。
上から殺気を感じた。
「上か!!!」
上から触手が降り注ぐ。
俺は必死に斬っていく。
それと共に敵が降りてきた。
その手には大剣が握られていた。
剣を受ける?
防御……できない!!!
跳んで回避。
後方回転飛び受け身。
大剣が道路を貫く。
道路の破片が飛び散った。
「撃ちます!!!」
クレアの合図で俺は相手めがけて全速力で駆ける。
次の瞬間、寄生体の上半身に穴が空いた。
対物ライフルだ。
トリックは簡単だ。
クレアに工事現場にあった人型重機を使って対物ライフルを撃ってもらった。
「人型重機破損! もう撃てません!!!」
「ですよね!」
俺は奇声を上げながら突撃する。
刀を胴めがけてぶちかます。
テクニックも何にもない。
腕力と勢いだけだ。
だがちぎれかけた胴体にはそれで充分だった。
「うおおおおおおおおおおお!」
「ぎゃあああああああああああああッ!」
寄生体が真っ二つになる。
俺は残心しながら敵が動くか見た。
動かない。
「勝った……」
全身が汗だくになっていた。
手が震える。
こ、怖ッ!
人型でちゃんと戦える相手怖ッ!!!
「婿殿!!! 無事か!!!」
おっさんから通話が入った。
「おそいよおおおおおおおおおおッ!!!」
もう泣きそう。




