第二百八十九話
絶望からの返信はかく乱かなって思わなくもない。
でも意図が読み切れない。
この返信が来る前はたいへんだった。
まずはそこから語ろうと思う。
とりあえず嫁ちゃんの命令で遺体を回収することになった。
帝国は裏で外道の限りをつくしてるけど、文化的にはたとえ敵であっても埋葬する文化である。
死んだら仏である。
とりあえず遺体を回収。
やはり敵どころか生き物はいなかった。
なんの問題もなく遺体を回収。
生物兵器の可能性を考慮して調査の間だけ完全隔離区画にさらに対生物兵器用密閉コンテナを設置してその中で安置する。
まずは遺体の調査。
遺体に既知の毒物は含まれず。
遺体に付着したウイルスや細菌も既知のもののみ。
フリーズドライ状態での生命維持とかでもなさそうとの見解が出た。
結局、火葬して合同葬との予定となった。
こういう遺体の扱いは、共和国民のためってよりも中のクルーの精神衛生上必要な措置である。
たとえ敵でも人の形してるもの雑に扱いたくないじゃん。
俺たちはカニですら可能であればちゃんと埋めてるんだし。
葬式は兵士の中に通信教育での僧侶資格持ちが何人かいたんで嫁ちゃんに聞いた。
そしたら嫁ちゃんが「それは寺のない地域の特例じゃ」と言われた。
そもそも帝都に近い惑星カミシロに寺も神社もなかったことが異常だそうだ。
うん、なんとなく知ってた。
今は寺もあるしめでたしめでたし。
ショッピングセンターのテナントだけどね。
さて我々銀河帝国は、数でのゴリ押し大好き共和国とは違い、汚いおっさんどもによる搦め手、別名【寝技】が得意である。
本来なら組織内の根回しのテクニックを指す言葉なのだが、とにかく上に立つおっさんたちの恐ろしい事、恐ろしい事。
公爵会なんていう地位にあぐらかいた愚図どもではない。
本物の百戦錬磨のおっさんどもである。
上に公爵会が鎮座して余計なことばかりしてる帝国を首の皮一枚で守ってた本物の化け物どもである。
連中はたとえ敵である共和国民の合同葬儀であっても使い倒すのである。
まずはプロパガンダ。
従軍記者のお姉さんに情報を流しまくる。
どう考えたって虐殺であるってね。
一報では根拠ないけど。
いいのよ間違ってても。
公式発表じゃなければ。
実際、解剖したらカニによる襲撃ってすぐにわかった。
はい虐殺確定。
すると国内世論は一気に【ゾーク許すまじ】という方向に進んだ。
帝国の数々の不祥事は完全に忘れられた。
これを愚かだって笑ってもいいけど、帝国の不祥事はすでに関係者が処分された後だしね。
それに人間誰しも自分が正しい方だと信じたいのである。
悪の帝国は一度滅び、嫁ちゃんの手で本来の姿へ、正義の帝国へと生まれ変わった。
我らは一致団結してゾークという悪と戦い自由を取り戻すのだ!
皇帝陛下とその配偶者が自ら最前線出て戦ってるのも好印象みたい。
そのおかげで銀河中の失業者が軍に殺到。
失業率はほぼ0%。
もともと帝国じゃ軍の末端は失業者対策だ。
それがガチ勢だらけになっている。
奪還した惑星が帝都で行ってる地方復興物産展も大好評。
当初は需要の前借りで壮絶な不景気来そうだなってビビリ散らかしてたけど、公爵会を一掃したことでその懸念はなくなった。
地方も開発が急ピッチで進められ、惑星サンクチュアリ周辺には軍事基地や各種工場が建設中だ。
正直言って命の危険こそあるがとんでもない好景気だ。
いくらでもチャンスがある。
地方惑星には夢があるが妄言じゃなくなったのだ。
夢を見せることはいいことだよね。
とりあえず仏教徒かすらわからんけど葬儀の準備。
限りなく外野に近いのにクソ忙しい。
少佐だから書類が積まれてくのよ!
そんなところで絶望から返信が来たのである。
前置き長いわ!!!
【アヤメとは誰だ?】
はい?
ここで俺は背筋が薄ら寒くなった。
アヤメを知らない?
俺たちはアヤメの情報で惑星サンクチュアリの隣の惑星、実際はとんでもなく離れている惑星にいるのだ。
知らないって何よ?
「妖精さん……」
「もうヴェロニカちゃんに流してます!」
妖精さんもシリアスな顔になっていた。
アヤメは絶望の三番のはず。
それを知らない?
待って、待って。
アヤメは知っているにもかかわらず?
どういうこと?
「我々は騙されてました……」
「いやでもさ……嘘ついてる感じしなかったけど」
「本人は嘘をついてないんですよ。そういう風に作られたとしたら?」
最悪だ。
ゾークお得意の命を弄ぶやつだ。
気分悪いな! もう!!!
「もしくは……これ完全に思いつきですが……あれマザーじゃ?」
「はい!?」
ラスボスゥッ!!!
でも姿が違うな。
もっとグロかったような。
「よけい意図がわからないよぉ!」
「私もわかりませんがな!」
ですよねー。
なにもかもわからない。
ここはいったん棚上げ。
葬儀が始まった。
リモートでゲーミング坊主が読経する。
30分ほど歌詞のわからない歌を聴いて、遺体が荼毘に付されていく。
火葬場あるのよ。この船。
最後に嫁ちゃんやトマスがスピーチをして終了。
参加者というか船のクルー全員に寿司と天ぷらのセット、成人した人には酒も追加で配られた。
その間、ずっと考えていた。
アヤメの意図を。
うーん……なんか足りない気がする。
なので葬式終わった後にケビンのところに行く。
「なにか足りないかも!」
「ボクも思ってた」
やはりケビンも引っかかっていたようだ。
もう一度ドローンで探索する。
「妖精さん、電子部品からこの施設のマップ辿れる?」
「ほいほい、ケビンちゃん。端末にドローン繋いで」
「了解」
三人で勝手に探索。
だってさ!
なにかがおかしい。
でもさ、なにがおかしいかわからないんだもの!
すると妖精さんが言った。
「ありました……隠し部屋です……」
ドローンが中に入るとそこは祭壇みたいなものがある部屋だった。
そこにあったのは遺体だった。
でもその遺体には見覚えがあった。
「顔の復元写真作りますね……」
本当になんだからわからない。
でも遺体は誰だかわかった。
「アヤメです」
予想どおりだった。
だけどさ!
もうわからないよ~!!!
じゃあ俺が会ったのは誰!?




