第二百八十七話
カトリ先生と遊んでもらう日々。
おかしい。
どこに逃げても追ってくる。
モノレールの従業員倉庫に隠れたのに見つかったときはもうどうしようかと思った。
それどころか船外作業員に交じって船外に逃げても捕まった。
ギリースーツ着て果樹栽培エリアに潜伏したのにすぐにバレた。
特殊部隊よりも執拗に追って来やがる。
え? 潜入工作員になれる?
またまた~。
プロパガンダで使われすぎて俺がキリッとしてる画像が銀河中にばら撒かれてる。
無理である。
【壁の中にいる】作戦は壁を貫通してくる木刀で心が折れ殺される前に命乞い。
冷凍庫に逃げたら外から鍵を閉められた。
鬼かな?
俺じゃなかったら死ぬぞ。
焼却場に逃げなくてよかった。
絶対、酷い目にあわされる。俺は知ってるんだ!!!
この頃になると真面目に殺し合いレベルで打ち合った方が逃げるよりまだマシと思い始めるようになった。
一撃は重く、鋭く、無駄を削り落としていった。
でもさ、このレベルはもう通過してんのよ。
カトリ先生は。
だから……。
木刀が折れた。
いや何本も転がっている。
俺とカトリ先生の撃ち合いに剣が耐えられなくなった。
樹脂製や金属製も試したが割れるわへし折れるわで逆に危ない。
特に出回ってる樹脂は木刀と違って跳ね返りが強すぎる。
なので新素材の模造刀で戦ってる。
圧縮されまくっててとても重い。
だが折れない。
「オラァッ!!! 死ね!!!」
カトリ先生はひょいっとよけやがった。
後ろの壁に剣が突き刺さる。
ムリヤリ剣を引き抜く。
当然その隙をカトリ先生が見逃してくれるはずがない。
「てめえが死ね!!!」
俺の背中めがけて袈裟斬り。
俺も全力回避。
壁が割れる。というかえぐれる。
隙あり!
斬ろうとするがカトリ先生に当たらない。
それどころか回避行動と同時に上段斬りが来た。
予想どおり!!!
「死ねやああああああああ!!!」
胴回し回転蹴りで回避と攻撃を同時に行……。
「うぜえええええええええッ!!!」
返す刀でホームラン。
もうやだこんな生活!
「レオ、おめーよー! なんでそこで大技繰り出すんだよ!!! 思考がギャンブラーすぎるんだよ!!!」
「ひーん!!!」
わざとではない。
だが内なる声、本能がささやくのだ。
大技やっちゃえと。
でもだめだって……オレ、カナシイ……。
心が折れかけたそのときそれは起こった。
「なにをやっておるのじゃ!」
嫁ちゃんがピゲットたちを連れてやってきた。
「稽古ですけど?」
「よく見ろ! 怪獣同士が戦った後みたいになっておるじゃろが!」
床はボコボコ。
壁はボロボロ。
「このくらいじゃないと稽古になりませんので」
カトリ先生は涼しい顔で言った。
「それはそう!!!」
「嫁ちゃん! それ認めちゃうの!?」
「婿殿……悲しい現実を教えてやるのじゃ。婿殿はすでに人外レベルの使い手じゃ」
「な、なんだってー!!!」
「カトリ! 婿殿はいま帝国剣術で何番目の使い手じゃ?」
「私の次、2番目でしょうな」
俺、そこまで評価されてるの!?
カトリ先生ほめてくれないからわからなかったよ!
「純粋な殺し合いでは?」
「人型戦闘機を使わなくとも10位以内には入るでしょうな」
嫌なランキングである。
おそらく殺し屋とかも入ってるんだろうな!
そんなランキング載りたくねえ!!!
「さすがに上位陣は戦車やミサイルですから」
上位は人間ですらなかった。
拙者、すでに人間扱いすらされてなかったに候。
「パイロットとしてはどうじゃ?」
「ぶっちぎりで一番でしょう。なあピゲット! お前はどう思う?」
「正直悔しいが人型戦闘機乗りとしては婿殿は帝国最強だろう」
「じゃろうな。つまりだ……婿殿、妾がなにを言いたいかわかるか?」
「……あー、少しはゆっくり夫婦の時間を作ろう? 寂しかったんだね。一緒にゆっくり……」
「違う! そんな化け物が二人戦うと施設の方が保たないのじゃ!!! とうとう妾のところに直接苦情が届くようになったわ!!!」
間違えたらしい。
オレ……カナシイ……。
「施設の壁を戦艦の外装にするからしばらく休止じゃ! わかったな!!!」
俺は最高の笑顔になる。
「了解ッス!」
「おいおい、レオよく考えろ。絶対に生身じゃ壊せねえもんに交換するんだぞ。もっとハードにやれって意味だぞ」
カトリ先生がほくそ笑みながら死刑判決を突きつけた。
「はい?」
手加減しろじゃなくて?
ピゲットはうなずく。
うそーん!!!
嫁ちゃんもうなずいた。
え、俺死んじゃう?
「待って、俺みたいな中途半端な使い手じゃその栄誉は手に余る。まずは尊敬するエディくんにその栄誉を……」
エディをいけにえに差し出す。
「もちろんエディもだぞ」
「はい?」
「イソノも中島もメリッサもエッジもだ。次は戦闘服着用でやるぞ」
嘘だろ……。
「安心しろ。エディはむしろ喜んでる。本来なら俺の直接指導なんて滅多に受けられないからな」
「先生! おかしいであります! 自分は指導を受けてるじゃなくて遊んでるはずであります!」
「おう、俺は自分と同格に【指導】なんて言うほど傲慢じゃねえからな」
同格ってあーた。
それ受け入れたら俺の方が傲慢じゃないですか。
「お言葉ですが先生、同格はいくらなんでも……」
「客観的に正しいが? 実際、俺とお前の差なんて微々たるもんだぞ」
嘘だー!
それだけはない!
「エディもな。お前もエディも学生じゃ太刀打ちできん。全国大会出たら周りが弱すぎてビビるぞ」
「嘘だー! 絶対それはないですって!」
「陛下、こいつどうします?」
先生がなぜか嫁ちゃんに助けを求めた。
「どうもせぬ。婿殿は自分の強さを計る尺度がないまま急成長したからの。もうそのままで放置することにした」
「イソノと中島はまだ【指導】って言えるんですけどね~」
「ふふふ。あの二人も化け物じゃろ。そうだ婿殿、喜べ。出発が決まったぞ。」
またもや戦いである。
マザーとの戦い近いのだろう。
シミュレーターも攻略間近だし。
思えば遠くに来たものである。




