第二百八十話
ゾークの群れへ主砲が浴びせられた。
開戦当初は我らの兵器はゾークには効果がなかった。
我らが負け続けた理由である。
だがこの対ゾーク新造艦の主砲はゾークの装甲にも充分な効果があるはずだ。
「トマス様! 蜂型ゾークに直撃、爆発します! 安全圏ですが衝撃波が来る予想です!」
「衝撃に備えよ!!!」
ドンッと艦が揺れた。
俺は少しよろけたがすぐに体勢を立て直す。
「敵戦艦型数体が爆発に巻き込まれ大破! 効果ありました!!!」
「そのまま全力で攻撃! 友軍にも伝達せよ!」
「はッ!」
友軍も含めた一斉攻撃に次々と戦艦型が撃沈されていく。
勝てる。
そう安堵した瞬間、戦艦型の一体が赤く光った。
「戦艦型赤く光り……熱反応感知! 自爆です!!!」
やはりそう来たか。
ああそうだ。
わかっていた。
やつらにとってもこれはイレギュラーだった。
本来は惑星型の自爆でヴェロニカごと遠征艦隊は消滅していたはずだ。
ゾークも必死だ。
全力……つまりリソース度外視での我らの抹殺こそがやつらの目的なのだ。
俺の口から自然と笑いが漏れる。
「と、トマス様……」
「ふ、ふふふ。ゾークよ。なめおって! 今さら我らが死など恐れるものか!!! 皇帝陛下とレオ・カミシロが生き残れば我らの勝ちよ!!! 全艦総攻撃! 皇帝陛下をお護りしろ!!!」
サイラスが笑う。
「トマス様御一緒しますぞ! 銀河帝国万歳!!!」
諸侯も高らかに笑う。
「はっはっはっはっは!!! あの世にいる妻へのいい土産話ができましたな!!!」
「全くだ! せがれへ自慢してやりましょう!!!」
「ああ! 娘夫婦と孫へ仇を取ったと自慢してやりますわい!!!」
戦闘機乗りも同じだった。
「補給完了! 再出撃いたします!」
「我らの戦いを見せつけてやりましょうぞ!!!」
皆、ゾークに家族を殺されたものたちだった。
帝国はかなりの家が潰えることが決まっていた。
公爵会の取り潰しだけではない。
ゾークによって跡継ぎを殺害されたものも多数だったのだ。
レオ・カミシロはたしかに英雄だ。
だとしても彼にも救えないものは多かった。
それが彼らだ。
いや俺もか……。
俺も友を亡くしたのだ。
戦艦型が眩い光を放った。
ああ、ようやくだ。
ようやく俺は解放される。
罪から、待っていてくれ友よ。
だがその瞬間は来なかった。
黒く光を放つ一筋の光線が宇宙を切り裂いた。
戦艦型は爆発しなかった。
ただ虚無の光に撃ち抜かれ、活動を停止した。
デスブラスター?
いや違う!
なんだあれは!?
そして歌声が聞こえてきた。
「ボエ~♪」
ガキ大将とか天下無敵とかの意味不明な歌詞。
その声の主は義弟!?
「THE劇場版できれいな方! 参上!!!」
「ま、待て! なぜ来た!?」
「京子ちゃんがギリギリ完成させてくれたんですよ! いくぞエッジ!!!」
「ああ」
義弟の後ろにはエッジの機体がいた。
エッジは強力なエスパー……そうか! 超能力か!!!
「エッジの超能力を俺の賢者で増幅しデスブラスターでさらに増幅してぶっ放す! ヒャッハー!!! 京子ちゃん天才だぜ!!!」
「京子ちゃん既存の技術の寄せ集めって言ってましたけど……やっぱりあの娘……天才ですねー♪」
ルナ様の声も聞こえた。
義弟が気合を入れる。
「オラオラオラオラー!!! 次弾行くぞー!!!」
「了解!」
ああ、やはり義弟は別格だ。
ただそこにいるだけで空気が変わった。
俺は己の顔を叩く。
「全軍! 義弟を守れ! 我らまだあの世に行く運命に非ず!!!」
すると諸侯も同調した。
「ぐはははは! 大公閣下はこの老骨にまだ働けと仰るか!!!」
「しかたのない大公様じゃな! 我らが支えてやらねばな!」
「はっはっは! 家族はまだ待っていてくれるでしょうな。大公閣下をお護りせよ!!!」
やはりだ。
一気に空気が変わった。
義弟は次々と戦艦型を撃ち抜いていく。
爆発もさせずに戦艦型が沈黙していく。
「旦那様! 蜂が来ます!」
「レン! 援護頼む! エディ、サポート頼む! こっちはデカいの射つだけで精一杯よ~!」
「あいよ! 無理すんなよ!」
「へーい。嫁ちゃん! 容赦なくぶっ放して!」
「皆の衆! 疲れてるところすまぬがもう少しがんばってくれ!」
我が艦のブリッジがわいた。
「皇帝陛下万歳!!!」
そこからはワンサイドゲームだった。
次々と戦艦型が撃破されていく。
自爆すらできずに戦艦型が沈黙する。
蜂は義弟の部下たちが始末していく。
エディ・アンハイム伯爵……義弟の右腕と言われる男だ。
去年、俺が開会式で挨拶した帝国剣術の全国大会に出場していた記憶がある。
表彰した記憶はないが……なぜ今まで世に出てこなかったのだろうか?
アサルトライフルで正確無比に蜂を撃破していく。
あの射撃技術、全国大会で優勝してもおかしくない。
そしてもう一人、レン。ミストラル家の令嬢でレオの婚約者の一人だ。
ミストラル家は彼女の弟のマルマが家督を継ぎ義弟の傘下に入った。
今ではカミシロ一門でも有力な家だ。
そしてさらに義弟の婚約者であるクレア、それにメリッサがやって来る。
「クレア! 俺は射撃苦手なんだよ! 突撃していい?」
「だめ! いいからメリッサ手伝って! ほらロケットランチャー撃つよ!」
二人は人型戦闘機用のロケットランチャーを射つ。
なにが射撃は苦手だ。
二人とも正確に当てていく。
そしてさらに二人。
「頼むよー! 尻が! 尻が限界なんだよ~! お願いだからはやく終わらせて!!!」
「ふえーん! 尻が痛いよ~! イソノ~。ミサイル射って!」
巨大な砲台を二人がかりで射つのはイソノ伯爵と中島伯爵だ。
ここに来てわざと道化を演じるか!
恐ろしい漢たちだ。
そしてゾークたちの動きにも変化があった。
「トマス様! ゾークの動きに変化が! 明らかにゾークは……動揺しています!」
そうか!
ようやくわかった!
ゾークは……義弟を、レオ・カミシロを恐れているのだ。
これこそが英雄なのか!
レオが放ったデスブラスターが戦艦型を全滅させた。




