第二十八話
学生部隊と合流した。
「こりゃダメだわ」
メリッサがつぶやいた。
メリッサの機体は片手が取れている。
防空システムの攻撃が当たってしまったのだ。
メリッサだけじゃない。
学生部隊の機体の1割は降下作戦で重篤な損傷を受けた。
怪我人多数。
いずれもナノマシンで回復可能。
死人が出なかったのは運がよかった。
無事な連中がナノマシン入りの注射器を持って治療している。
近衛隊はもうちょっと上手かった。
ビーム兵器を盾で防ぎながら降下した。
学生を護りながら。
盾は使い捨て。穴だらけだ。
おっさんがもの凄くいい笑顔でつぶやいた。
「うんうん。今回は学生のよい経験になったようだな」
「この地獄がか!!!」
思わずツッコんだからさらに満面の笑みになる。
「誰一人欠けることなく最新式の防空システムをかいくぐったのだ。この経験は彼らの血となり肉となるだろう」
「最初からこの結果を予想してたのか!!!」
「無論。人は地獄からしか成長できない!」
「極端すぎる!!! 死人出たらどうすんのよ!?」
「だから我らが先行したのだ!」
「え、待って。俺最初に行かされたんだけど」
「婿殿はまだ己が普通の人間だと勘違いなされてるようだ」
「バリバリ一般人ですけど!!!」
するとようやく回復したクレアが言った。
「レオ、ビーム兵器見てから避けてたでしょ?」
「うん、やったけど」
するとその場にいた全員がどん引きした表情で俺を見た。
「どうやったら光を避けられるんだよ!?」
「おっちゃんできる?」
「できるわけがない。攻撃を予想するのが限界だ」
「人間じゃないよな」
「うん人間じゃないわ」
「え、なにそれいじめ?」
メリッサが俺の肩を叩く。
その目は慈愛に満ちていた。
「隊長はもう銀河救っちゃえばいいと思う」
「無理だって! そういうのはな! もうちょっと強い超能力者にまかせればいいんだって!!!」
「だってみんな! どう思う?」
するとスポーツ刈りの男子が答える。
「俺、火のウィザードクラスの超能力者だけど、ビーム見てから避けるのは無理だわ。ゾークとの戦いも火力足らないし」
「いやほら焼くとかさ……」
「無理だよ。足止めがせいぜいだって。まだ機関銃の方が信用できる」
どうやら皆で俺を変態にしたいらしい。
俺は皆を見る。
男はすごいマッチョをみるような視線を。
女子は出来の悪い息子を見る母親のような目を向けていた。
やめろお前ら!!!
「ごほん、博物館の攻略だったな」
そう言うと近衛のおっさんたちに怒られる。
「ばかもん! 防空システムを壊すのが先だ!!! 壊したら修理ユニットを軌道上から空輸する」
「マニュアルにないけど!?」
「マニュアルなど捨て置け。これは帝国の懲罰部隊の戦術だ」
懲罰部隊ってのは不正をした貴族を捕まえる部隊だ。
その際に領地の惑星も差し押さえるので事実上の懲罰とされている。
たいていの領主は最後に悪あがきする。
死刑になるのだから、せめて一矢報いようという魂胆だ。
そうか、今の俺たちと同じことをするのか!
「もしかして近衛隊って……」
「たまに懲罰隊になることもある」
惑星攻略のエキスパートじゃん!!!
「機体が破損したものは拠点建設。他は防衛にあたる」
「はーい」
「婿殿は対空システムの無効化を頼む」
「うわああああああああああんッ!!!」
泣きながらローラーダッシュでGOである。
公爵領はよく手入れされた惑星である。
自然が多いのに道は整備されている。
俺は道路をローラーダッシュで進んでいく。
俺はタイヤの技術はぜんぜんわからないけど、ローラーダッシュには構造全体で衝撃を吸収するノーパンクのものが使われてるらしい……。
自分の生活全般の技術すべて把握してる人っていないでしょ!
理系でも必ずよく知らん分野があるはずだ。
進んでいくと発展した都市が見えてくる。
「農協以外もありそうだ!!!」
うちの実家基準でものを考えるのはやめた方がいいのかもしれない。
「ショッピングモールがあるみたい」
「と、都会だ!!!」
「でも生命反応なし」
嫌な予感しかしない。
都市に到着。
都市は破壊のかぎりをつくされていた。
「防空システムは?」
「そこのビルみたい。今回は空輸だけだから一箇所壊せばいいって」
三脚を出して対物ライフルを設置する。
対空砲はビルの上で剥き出しになっていた。
動かない的だ。
いつもより楽だ。
「補正完了」
引き金を引くと対空砲が壊れる。
すると嫁から通信が入る。
「修理キット空輸!!!」
轟音を発する火の玉が見えた。
空輸なんて言ってるが射出しただけである。
合流地点近辺に落ちたのが見えた。
メリッサの通信が入った。
「受け取り完了! 今から機体を修理する」
これまでなにも来てないのが怖い。
地上の防衛システムも公爵軍もゾークもいない。
「公爵軍すでに全滅してたりして」
「レオ……悪趣味なジョークはやめて」
「ですよねー……あははは……」
街を歩いているとかすかな気配を感じる。
武術家の勘とかじゃない。
もっとハッキリしたものだった。
あーこれ、ジェスターの能力だわ。
「クレア、センサー起動。たぶん……いる」
「了解。センサー起動します」
見られているという確信。
もしかすると、これが殺気を感じ取ったということなのかもしれない。
しばらく歩くと標準機が立っていた。
カラーは黒。
大剣を持っていた。
ただ肩からは触手が出ている。
表面には脈動する肉がついていた。
肉が脈動するたびにカクカクと関節が小刻みに揺れる。
「寄生……まさかそんな……」
クレアがつぶやいた。
それと同時に寄生体が吠えた。
「うがああああああああああああああッ!!!」
こんな敵原作にもいなかった!!!
攻略法がわからねえ!!!
「レオどうする?」
「戦うしかない」
俺は今度こそまともな武器、ブレードを抜いた。




