第二百七十五話
パルスハンドガンの一撃はパーソナルシールドに弾かれ霧散した。
「殿!!!」
カミシロ本家の近衛隊、つまり俺の私兵であるレイブンが焦った声を出す。
「落ち着け!!! 計画通りだ!!!」
俺は声を張り上げた。
……嘘である。
すげえ焦った。
でもそういうことにしていた方がいい。
ヒューマさん……あなたの訓練は確実に俺の命を繋いでます。
イソノと中島が俺を撃った人物を取り押さえる。
「ミーガン・ジャミルだな? なぜ撃った?」
ミーガンはなんというか……褐色黒髪巨乳だった。
ばいーん、ぼいーん。
神よ、巨乳はすべて疑えというのだろうか!
あまり信じてないけど。
それにしても属性ガン盛りだ。
男子も女子も微妙な表情になった。
「えっと、元はおっさんかな?」
ミーガンやその場にいた全員が黙った。
女子の方はわかるけど男子はなぜ黙る?
部屋の前には兵が集まっていた。
「み、ミーガンがなにをしたって!? 俺の婚約者だ!!!」
角刈りツーブロックのガタイのいい兵士がやって来た。
「なにを言ってやがる!!! 俺の婚約者だ!!!」
ふくよか系肉体労働者な兵士が声を上げる。
「てめえら! 俺こそが真の婚約者……」
痩身の兵士が声を……その後も次々と婚約者を名乗る男たちが現われる。
あっと言う間に数十人にふくれあがる。
「じ、地獄だ……だ、誰か! ワンオーワンを連れてきてくれ!!!」
ワンオーワンはこちらの切り札だ。
ケビンみたいにゾークネットワークから切断されてなければ、ワンオーワンのネットワークに強制的に組み込むことができる。
「その前に暴動が起こりそうだ!!!」
エディが男たちを隔離しようとするが次から次へと新たな男がわいて部屋に侵入しようとする。
俺と男子で部屋をガードする。
「てめえら! この部屋入るな!!! 入室禁止!!!」
なんで撃ってきたヤツを守らねばならない。
「ミーガン、大人しくなったよ! 今そっちのヘルプにいく!」
メリッサやクレア、それにレンがこっちに加勢してくれた。
だけど人数が多すぎる。
ぶち殺せば解決するゾークより厄介すぎる!!!
俺たちが必死に群衆を押し返してると憲兵がやって来る。
ふえええええええん!!! 助かったよ~!
と思ったら先頭にいたのがカトリ先生だった。
「おらガキども無事か~!!!」
「しぇんしぇー……」
日頃鬼だと思ってごめん。
感動にむせび泣こう……。
「こりゃ乱戦教えないとな」
……え?
カトリ先生が人混みの頭を踏みつけてこっちに渡ってきた。
「いいか、前にいるやつをこう!!!」
パコーンとカトリ先生が前の男を木刀でぶん殴った。
一発で気絶した。
さらに前にいる連中を次々ぶん殴ってノックアウトしていく。
将棋倒しが起きる!
と覚悟した瞬間、カトリ先生が「キエエエエエエエエエエエエエイッ!!!」と大声で叫んだ。
全員がピタッと止まった。
「危ないから押すな」
【いやオメエが悪いんだろうが!!!】
俺たちの心が一つになった。
「こうやってよ。接近しすぎたのは気絶させて他は気合で止めればいい」
メチャクチャである。
さすが師匠、傍若無人すぎる!!!
「おーい、憲兵ども! この隙に事態を沈静しろ」
憲兵が男性兵士たちを連れていく。
いや助かったんだけど……なんだろうか? このもやもや感。
「来たであります!!!」
俺たちが渋い顔してるとワンオーワンがきた。
「少佐殿、自分の配下にすればいいでありますね?」
「頼んだ」
ワンオーワンが祈るようなポーズを取った。
するとガクッとミーガンが気を失った。
「自分の配下に登録しました!」
「ワンオーワンは天使だなあ。もう、いい子いい子しちゃう!」
いい子いい子。
「えへへへへへ」
ワンオーワンは喜ぶと、いきなり真面目な顔をした。
「なんかあったん?」
「いるであります!」
「なにが?」
「お姉さんを操った端末であります。こちらに向かってるであります……ええっと、戦艦型であります!!!」
俺は即座に思い出した。
帝都奪還時に兵をマインドコントロールをしまくった、戦艦型!
とんでもなく面倒なヤツがまた来やがったのだ!!!
勘弁してくれよ。
「戦艦型はゾーク因子がない人でもごく短時間操ることができるであります!」
「じゃ、ミーガンは?」
「そっちは女性型であります」
スパイもすでに潜入済みか。
「でもゾークネットワークに繋いでいた他の女性型も把握済みであります!」
やはりいい子である。
「女子はワンオーワンと協力して憲兵と女性型を拘束して! エディ、イソノ、中島、それにエッジも一緒に行って! あとカトリ先生も!!!」
「おう! レオは!?」
エディが「お前一人でいいんか?」と暗に聞いてくる。
今回は大丈夫。
だってレイブンくんたちもいるし。
「俺は嫁ちゃんとこ行って戦艦型の対策練ってくる! レイブン、俺と来て!!!」
「かしこまりました!!! 行くぞ! カミシロ本家騎士団よ!!!」
「おおーッ!!!」
俺の近衛隊、テンションMAXである。
「妖精さん! 嫁ちゃんに報告してくれる?」
「もうしました!!!」
俺たちはブリッジに急ぐ。
今までいろんなゾークがいたけどさー、そう、RPGルールなら中盤のボスっていう感じだった。
でもSLGルールなら話が違う。
戦艦型なんて反則すぎる!!!
クッソ! 全力で抵抗してきやがった!!!
そうか……マザーも焦ってるのか。
でもなぜ?
外宇宙に共和国の本当の領地があるなら惑星サンクチュアリに固執する必要はない。
魔王城があるわけでもなし。
むしろ別の方面から攻めてくるとかの戦略をとるはずだ。
うーん?
なんで惑星サンクチュアリから動かないんだろう?
「嫁ちゃん!!!」
「どうした婿殿!? 会議の準備ならしておるぞ」
「違う、なんか俺、気づいちゃった……」
「うん?」
「ゾークさ、惑星サンクチュアリから動かないんじゃなくて動けないんじゃね?」
「どういう意味じゃ?」
「帝国に攻めてきたんじゃなくて、帝国を攻めるしかなかったじゃないかってさ」
嫁ちゃんは息を呑んだ。
いや原因はわからないよ。
でもゾークも後がないのかも?




