第二百七十三話
危うくイチゴの過剰生産で瓦解しかけた我らの艦隊であるが、見事開拓惑星にイチゴと苗を押しつけ……善意の無償提供することに成功。……難を逃れた。
今回はリアルガチで危なかった……。
栗饅頭が増えていく漫画があったが閉鎖空間でやったらリアルホラーになっていたところだ。
今回の被害はクルーの大半の体重が減ったこと。
タチアナやエッジ、アリッサの体重が増えたことだけだろう。
俺たちは一生分のイチゴを食べた気分だったが、一週間もすればイチゴを普通に食べるようになった。
いやイチゴって野菜感覚で栽培できるから貴重なフルーツなんだよね。(あいにく俺はトマトはフルーツ主義者ではない)
同じく野菜感覚で栽培できるストロベリースピナッチの種は倉庫に常備されてるんだけど……味がな。
イチゴがあればいらねえ。
結局、イチゴは万能なのである。
おかずにはねらねえけど。
「少佐! 今後はトマトが生産過剰に!」
生産部の人に呼び止められる。
だけど今回俺は力強く言えた。
「トマトならなんぼ生産しても消費できるでしょ」
というわけでしばらくトマトが続いたけど、誰も文句は言わなかった。
だってトマトならレパートリー大量にあるし。
おかずにさえなればいくらでも消費できるのよ。
トマト最強。
食堂でトマトジュースを飲む。
なおタチアナは料理は食べるけどトマトジュースは無理らしい。
まったりしてると食堂に嫁ちゃんの映像が表示された。
嫁ちゃんは正装して化粧までしていた。
あ、これ本気のヤツだ。
じゃトマトの事じゃねえな。
「皆の衆! 元の航路に戻る日が来た! だがそこはゾークの支配地域である。決戦の日は近い! 気を引き締めよ!!! 銀河帝国万歳!!!」
ばんざーい!
というわけで救助を待つこともなく自力で作戦復帰である。
皇帝陛下である嫁ちゃんの救助が間に合わんで、俺たちの知らないところで処分された人がたくさんいるんだろうなとは思う。
まー……それはしかたない。
このところ皇帝に暗愚が続いたせいで官僚機構の意思決定が遅すぎるもの。
制度をどうにかしないとね。
悪いのはたいてい麻呂と公爵会と侍従長である。
別に嫁ちゃんは前政権のすべてを否定する気はない。
ただ制度の欠陥というか死んでるところが多すぎて直さないと戦争負けるのだ。
戦時に役人になったことが不幸だったのだろう。
というわけで京子ちゃんのところに行く。
京子ちゃんは今や伯爵閣下である大野のおっさんの娘だ。
俺の嫁候補なんて言われてたが本人が整備にしか興味がない。
整備ドックでひたすら新規開発とカスタマイズに取り組んでる。
俺にはあんまり興味がない。
いいことである。
開発部に行くと作業着姿の京子ちゃんがいた。
俺を見ると頭を下げる。
「少佐。なにかご用ですか?」
「うん、嫁ちゃんの演説見た? そろそろ戦いが始まるんだって」
「ほほう。新しいカスタム機をご所望ということですね?」
眼鏡がきゅぴーんと光った。
「やはりわかるか!!! ぐははははは!!!」
「最高にえっちなカスタマイズをご覧に入れましょう!!!」
これだけで通じるのだから恐ろしい。
要するに
「もっと関節を! 関節を丈夫にして! オナシャス!!!」
「おかのした」
というやりとりである。
京子ちゃんは俺の動きに耐えられる機体という無理ゲーに挑んでくれるのである。
そのおかげか帝国の近接戦闘型人型戦闘機の技術水準は異常なスピードで進化した。
ありとあらゆる企業の技術者が開発競争をしてるほどだ。
「じゃ作業に入りますね~。ばいば~い」
俺にまるっきり興味がない。
正直言うと俺もその方が楽である。
これで機体の調整は問題なしと。
当たり前のように戦闘機乗ってるけど、俺って軍事法廷の弁護士志望だったんだよな……。
気にしたら負けだろう。
いいか。今でも給料いいし。
使わないから増える一方だし。
とりあえず軍人共済を最大までかけた。
戦争での死亡まで補償ついてるの軍人共済だけだし。
ふははは!
恐ろしいか!!!
いつか自分死ぬんじゃないかなって保険かけてるジェスターの姿が!!!
さてケビンのところにも行く。
ケビンは看護士のシフトが多かったが、メイン業務はドローンオペレーターだ。
偵察ももう終わったころだろう。
偵察班の部屋に行く。
「おいーっす」
「しょ、少佐殿!」
30代くらいの士官がビシッと敬礼した。
「そのままで。仕事を続けてください。ケビンはいますか?」
偉そうにする根性は当方にない。
「ケビン少尉なら偵察任務中です」
まだ終わってなかったか。
「じゃ、レオは食堂にいるって言ってください」
食堂で待つ。
席に座るとニーナさんが無言でトマトを置く。
無塩トマトジュース付き。ピッチャーで。
今日もトマト尽くしだろう。
とはいえイチゴと違って異常な繁殖ってほどじゃないし、料理に使ってさえしてしまえば消費できる。
トマトの方が幸せだな。
トマトを食べてるとケビンがやってきた。
「待った?」
「ぜーんぜん」
ケビンが座ると大きなボールにトマトがドーンッと置かれた。
ニーナさんからゴゴゴゴゴゴゴと音が聞こえたような気がした。
「中華ドレッシングある?」
「あるよ~。持ってくるね」
中華ドレッシングとトマトジュースのピッチャーをニーナさんが持ってきた。
トマトジュースからゴゴゴゴゴゴゴと音がしたような気がした。
最近疲れているのかもしれない。
ケビンもトマト&トマトジュース。(強制)
トイレ近くなりそうだな。(確信)
俺の場合はナノマシンの肥やしになるだけだけどな!!! ギャハー!!!
で、報告を聞く。
「この写真見て」
トマトジュースグビグビ。
「なんでこんなに集まってるん? 重要な地点あったっけ?」
共和国民が捕まってる惑星も微妙に遠い。
なんだろう?
「僕らを待ち構えてるに決まってるでしょ」
「でーすーよーねー!!!」
もー! めんどう!!!
トマト投げつけてやろうか。




