第二百七十話
ネットが復旧して数日、ようやく俺のネット使用も許されてすぐ嫁ちゃんがやってきた。
「婿殿見るのじゃ」
嫁ちゃんに映像を見せられる。
そこには複数のおっさんたち……爺様が映っていた。
「なにこれ?」
見るならちょっとたるんだボディのグラビアがみたいでゴザル。
「うむ、公爵会残党勢力の会議を盗撮した映像じゃ」
「へー、やっぱりこういうのスパイがいるんだ。どのジジイがスパイなの?」
「ここにいる全員がスパイじゃ」
「はい?」
「お互いがお互いの情報を密告してるとも知らず妾へ献身的に情報を持ってくる。かわいいものよ」
思ったより地獄だった。
もはや嫁ちゃんに勝てるわけないもんね。
かわいそうなのは自分だけが寝返ってると全員が思ってることだろうか。
一人の長髪で長い髭のジジイが会議の口火を切った。
「まずはレオ・カミシロの件だが……やつは危険だ」
「艦隊ごと長距離ジャンプしたと聞いているが! やつこそ人類に取って代わる存在なのか!? このままでは我ら人類は絶滅してしまうじゃないか!!!」
七三分けのジジイが血圧を上げる。
全員裏切者の会議で命を削るのやめろ。
「あの七三分けな、あんなこと言っておるが末娘を婿殿のハーレムに入れてくれって泣きついてきたぞ。17歳じゃそうだぞ」
そう言って写真が送られてくる。
ギャルだった。
待って、末娘? いつの子?
どう考えても還暦近くにできた……気にしたら負けだ。
「却下で。つうかあいつらプライドってのはないんですかね?」
「最強の超能力者の血を入れたいのじゃ。次代がジェスターにならずともいつか先祖返りのチャンスがあるからの。成績優秀な競走馬の種付けに破格の値段がつくのと同じじゃ。運がよければ帝国を乗っ取るチャンスもあるじゃろうな」
ひどすぎる話である。
我が輩、完全に種馬扱いである。
今度は四角い顔の爺様が強弁する。
「だがどうすればいい!? レオ・カミシロは剣聖カトリの弟子の中でも最強と言われてる! 今まで暗殺しようとしたものは無残な死を遂げたと聞く! 儂は恐ろしい! ヤツが恐ろしい……ヤツが儂の知らないところで増えていくと思うと夜も眠れぬ」
「あいつは孫を嫁にって土下座してきたぞ。写真見るか?」
中学生くらいだな。
タチアナと同じくらいか?
日系の美少女だ。
どうやったら四角い顔の一族から美少女が輩出されるのだろうか?
「かわいそうだろ。却下」
「タチアナと同じくらいの年ではないか!」
「俺、タチアナとの結婚は了承してないんですけど!」
「上が結婚しろと言ってるのだから結婚すればいいじゃろ! というかのタチアナは婿殿の嫁になる気じゃぞ!!!」
ジェスターの養殖計画。あれ本気かよ……。
人権無視の極みだろ。
頭おかしすぎるから逆にスルーしてたわ。
バカじゃねえの!
「ま、タチアナも戦争終わったら同い年の男子との交流も増えるでしょ。そしたら余計なことも言い出さなくなるんじゃねえの?」
戦争さえ終われば軍の士官学校にぶち込むことになるしな。
いやなら適当な学校行けばいいだろう。
「婿殿と比べられる男子はかわいそうじゃの……」
嫁ちゃんがあきれる。
動画のジジイたちも案はなく議題は次回へ持ち越しということで会議は終了した。
「というわけで、どのジジイどもも自分の姫を婿殿に嫁に入れたがってるからの。暗殺の懸念はなくなったと考えてよいぞ」
「銀河一汚いものを見てしまった気分だよ!」
「婿殿、嫁が増えるだけで平和に近づき紛争の犠牲者が減るのじゃ。ハーレム増やすくらい我慢するのじゃ」
「嫉妬される展開への備えはしてたけど増やせって言われるのは予想外だよ!」
「いいではないか? ほら、お義母様も喜んでるぞ」
ここで嫁ちゃんが言う【お義母様】とは父親の正妻で俺を育てたおかんである。
「俺が一番頭上がらない人を巻き込み済み!!!」
「当たり前じゃ! 外堀はすでに埋めたぞ!!!」
「ひいいいん!!!」
結局、ハーレムの肥大化は避けられないらしい。
なんで麻呂の野郎……この環境で喜んでたんだ?
よく知らんやつが見合いもせずに嫁になっていくとか怖すぎるだろ。
「そうそう婿殿、カトリが呼んでたぞ」
そう、カトリ師範はこの船に乗ってやがるのだ。
「先生には俺は死んだって伝えといて」
そう言って俺は天井の通風口のカバーを外し、エアダクトに逃げる。
そこから船の壁の中に逃亡。
今度はケーブルを伝ってサーバールームに侵入すれば誰も追ってこれ……。
「なして先生、サーバールームにいるとですか?」
なぜか先回りされていた。
先生が頬を木刀でウリウリしてくる。
「おお、ルナちゃんが教えてくれたからな」
「妖精さんの裏切者!!!」
「さーて稽古をはじめようか。軽く殺すつもりの試合を……」
襟をつかまれ格技場に連行される。
そこにはすでにイソノ、中島、それにエディもいた。
「なぜ俺たちまで!!!」
イソノと中島は猛抗議。
エディは無言で防具を着ける。
「へへ、何言ってんだよ。一番壊れなさそうな連中をチョイスしただけに決まってんだろ」
照れた先生にイラッとしながらイソノと中島にアイコンタクト。
ちょうど三人いる。
俺たちは木刀をつかむ。
「いくぞ! ジェットストリームアタ……」
かっきーん。
あんれー?
普通に先頭の俺から順番にホームランされる。
「お前らなめてんのか? イソノ! お前は薙刀だろが! 中島! てめえはハンマーだろ!? 得物持って来い!!!」
「では自分は軽機関銃持ってくるであります!!!」
「レオ待てコラ。お前は剣でいいだろが! あん!?」
「先生には軽機関銃くらい持ってこないと勝てないであります!!!」
「ほう、勝つ気はあるんだな。よし、お前が勝つまでやろうか」
「にげるでありまげぶら!」
ホームラン。
あたい……こういう野蛮なの無理なの。
「オラァ、イソノ! もっと動きは大きく、手元はコンパクトに!!! 中島! てめえはちゃんと柄を使え!!!」
「ごっちゃんです!!!」
「エディ! お前は……そのまま精度を高めろ」
「エディだけずるいー!!!」
「るせえええええ! エディは正攻法で強くなってるのに、全然できてないお前らが同レベルの強さなのがおかしいんだよ!!! 根性叩き直してくれる!!!」
「ぎゃあああああああああああああッ!」
先生にボコボコにされると日常が持ってきたなって思うね。




