第二十七話
ようやく慣れてきた大気圏突入。
軍艦に乗船しての乗船実習や降下訓練もそうだけど、そう何回もやるもんじゃない。
降下訓練も軍艦での乗船実習もよほどじゃなければ年に一度。(ただ乗船実習は一年時は一泊二日。二年時は60日間、三年時は惑星サンクチュアリに行って帰ってくるまでである)
むしろ週二コマある校庭での射撃演習の方が多い。
要するに普通は軍隊入ってからちゃんと練習するものなのだ。
それを実戦で憶えた俺たち凄くね?
できて当然って言うのやめてくれないか。
こちらは主人公じゃないのだよ!!!
ジェスターって要は遊び人だからね!!!
中盤まで一枠潰して我慢して後半で無双するキャラだからね!!!
ヤケになって戦ってるだけだから!!!
ん? そういやゾーク発生したのってどこだっけ?
惑星サンクチュアリだわ……。
乗船実習の目的地。
たしか最終決戦はα星つまり恒星を破壊しにきたクイーンゾークとの一騎打ちだったはず。
惑星サンクチュアリの件はなにも解決しないで終わる。
……気にするのはやめよう。
実はミストラル公爵領には別の用事がある。
ミストラル公爵領、惑星ミストラルの近くには開拓惑星が存在する。
その中の一つ、開拓惑星35である。
開拓惑星ってのはその名の通り開拓中の惑星だ。
惑星の所有権は帝国だったり、近くの貴族だったりと様々だ。
開拓惑星35はミストラル家所有である。
ミストラル家は屋敷がゴミ屋敷なのを除いておおむね優秀である。
なので当然、周辺惑星の開拓に余念がない。
どこかの侯爵家のように惑星開拓とか自分の惑星のテラフォーミングに使うための金を中央での地位の安定のための使うアホとは違う。
見ろ親父!!!
これが優秀な貴族だ!!!
……今度は俺の番だよ。
帝国の惑星区分では天然の農業用惑星だ。
調査で肥沃な土と農業に向いたバクテリアという資源が見つかったのだろう。
うらやましい。
天然の農作物とか高級品だぞ!
……男爵領や子爵領だとテラフォーミング不可の岩石だけの惑星とかだったりするのでまだマシか。
上も下も際限がない。
で、その惑星35であるが、そこに主人公が住んでいる。
徴兵されてゾークを倒して士官学校へ。
チュートリアルが終わったら【商人になるなり政治家になるなり兵士になるなり好きにしろ】である。
国に徴兵される前に仲間にしようと思う。
電柱アドバイスおじさんになって戦いは任せよう。
あとは嫁やメリッサとどエロい生活をしよう。
たまにケビンをからかって、惑星カミシロでスローライフに勤しむのだ。
うん、それがいい。
みんなの家族助けてからの話だけどね。
「バーニア最大速度にします!」
妄想してたらいきなり加速する。
「な、なに!?」
びゅんっと光線がかすめた。
「はぁ? 撃って来やがった!!! よ、嫁! どうなってんの!?」
しかもカミシロ家のヘロヘロ防空システムではない。
今のはリアルガチで殺しにきた射撃である。
「呼びかけたが返事がない。問答無用で殺すように命令されてるのじゃろうな」
アホの集団だった惑星カミシロとは空気が違う。
「クレア!」
びゅん!!!
「ふおあッ!!!」
「レオ、このままスピードを落とさずに突入します。気合で避けてください」
クレアが【気合で】って言ったぁッ!!!
高確率で撃ち抜かれるヤツ!!!
「うおおおおおおおおおおおッ!(泣き声)」
とうとう殺意の高いビームの波状攻撃が襲ってくる。
先ほどのはまだ警告だったのか!!!
「避けろ婿殿! 婿殿ならできる!!!」
「できないもん!!!」
思いっきり腹を狙ってきたビームを腰を捻ってよける。
すぐに頭を狙ってきたので首を曲げて回避。
無理な体勢をしたら重力に捕らわれた。
「惑星突入開始! 姿勢制御にエラーが出てます! ちょっと、うわあああああああッ!!!」
「うわああああああん!!!」
キリモミしながら落ちる。
ただスピードが出た状態で変則的に落ちていったせいか、ビームが当たらない。
「ぎゃ、逆噴射開始!!! げぶらッ!!!」
胃液が逆流してきた。
し、死ぬ!!!
マジで死ぬ!!!
すでに目が回っている。
「対空防衛システムの射程から離れました!!! 姿勢制御!!!」
クレアが姿勢制御を補正する。
俺も必死でスピードを緩める。
「速度安全圏! バーニア切り離します!!!」
着陸ぅッ!!!
目の前が真っ暗になってきた。
縁が緑色に光る黒い丸が大きくなってくる。
ああ、意識が落ちる寸前だ!!!
ずしんっと小さな衝撃が伝わる。
完璧な着地だった。
急いで空気を吸う。
Gロックだ!!!
これパイロットがいきなり気絶するやつだ!!!
下半身に血がたまって脳に届かなくなるやつ!!!
「く、クレア! 無事か!?」
返事がない。
慌てて操縦席から出て複座の扉を開ける。
クレアは気絶していた。
外に出して寝袋を敷いてその上で寝かせる。
「嫁ちゃん! クレアが気絶した!」
「後から近衛隊が来る! そのまま待機!!!」
銃を手に待機する。
先に公爵軍に見つかったら投降するしかないだろう。
「う、ううん……」
一分くらい経過したと思う。
クレアが起きた。
「なんでレオ……そうか……私、気を失ったのね」
「水飲むか?」
ボトル入りの水を渡す。
「……ありがとう」
どうやら俺たちは許されたようだ。
「立てる?」
「世界が揺れてるけど……たぶん大丈夫」
立ち上がろうとしたので手を貸す。
生まれたての子鹿みたいに膝が震えていた。
「情けないね……これでも成績は次席だったのに」
「いやヘタすると死んでたから。ぜんぜん情けなくないから!」
嫁の作戦はハードすぎると思うのよ。
近衛隊のおっさんたちなら笑いながらこなすんだろうけど。
筋力上げよう。
筋肉こそパワーだ。
ジェスターは強靱な肉体がないとすぐに死ぬ。
今回だけは思い知った。
力こそパワー!!!
しばらく待っていると近衛隊のおっさんたちの機体が見えた。
ようやく近衛隊は盾持ち大剣装備に改造できた。
これでなんとか……って言いたいけど公爵軍相手だと不利だ。
ゾークは公爵軍に強い、俺たちはゾークに強い、公爵軍は俺たちに強いという嫌な三すくみができあがっちゃったのだ。
学生たちのカスタム機もやってきた。
今回こそは全員分の機体がある。
さあ、作戦のはじまりだ。




