第二百六十八話
一時的に心臓が止まったというのに俺は元気。
次の日には回復する。
まー心電図は常に送ってるんだけどね。
病室で暇してたら、俺のとこに派遣されるはずだった超能力者の士官が来た。
トマス隊にいたんだって。
えーっと上層部全員一致で「レオ・カミシロに超能力の使い方教えないと近いうちに死ぬ」って判断されたみたい。
俺もそう思う。
「まず物理現象に影響を与える超能力ですが……普通死にますからね。人間ができるより大きな力を出せるんですけど、死に近づきます」
「ですよねー」
実感した。死ぬ。
でもさー、ジェスターが垂れ流しにしてる現実改変能力は?
「超能力は解明されてないことだらけです」
「ですよねー」
要はわからんのである。
だって個人の資質に左右される技術で基礎理論なんてねえわけで。
ある日突然変異で超能力者が現われ、それが遺伝するところまでは突き止めた。
で、増やして能力を発現させやすいところまではきたけど超能力者狩りですべてが失われたと。
で、宴会芸くらいの評価の無駄技能化したところで俺が現われて大慌て。
予算大幅増の大超能力者研究時代到来と。
バカなのかな?
「なので大がかりな超能力はなるべく使わないでください」
「でも今回使わないと俺たち全滅でしたけど」
「……そうなんですよねえ。少佐の超能力は強力すぎて使わないわけにいきませんものね」
「使わないとなまりません?」
一週間くらい間をあけても影響ないけど、一ヵ月使わなかったらなまってしまうと思う。
筋肉と同じ。
「そうなんですよねえ……本当に。心の底から」
やはり筋肉と同じらしい。
「と、とにかく大規模な超能力は使わないように! 命の保障できませんからね!」
「了解ッス」
さすがに死ぬのは嫌だなと思う。
今後は自重しよう。
あと普通に死ぬ。
で、また暇になったら嫁ちゃんが来た。
先に退院したんだって。
「婿殿。元気か?」
「元気よ~。なんか明日まで心電図取るんだって」
「そうかそれなら大丈夫じゃな。うむ、それでの。ちょっとまずいことになっていての」
嫁ちゃんの口元がヒクついていた。
なにかあったのだろう。
「いきなり怖い展開ッスね。なにかあったん?」
「孤立した」
……おうふ。
ワープしたところまではよかったが、出てきたところがまずかったっぽい。
でも惑星の中じゃなくてよかったわ。
「今どこにいるん?」
「もう一つの目標地点、アヤメの指定した惑星の近くというのはわかってる」
「どういうこと?」
「ここまで来ると無人惑星が多くての。マップもなければ座標用の衛星もないのじゃ!」
あんれー?
皇帝陛下がここいちゃまずくね?
「帝国存亡の危機なのでは?」
「救助のために艦隊が派遣されるらしいがの。じゃがな~、問題はこれだけの艦隊がワープして孤立なんていう事態の先例がないからの~。いつまでかかるかわからぬ」
自分で帰ったほうがマシなのね。
「いま衛星を作っておる。衛星を設置したらルナがマップを作成する予定じゃ。それまでは待機じゃな。ゾークもしばらくは動けんじゃろ」
「俺たちがいたあたりはどうなったんだろうね?」
「消滅した」
「はい?」
「あれだけの質量の物体の衝突と爆発じゃ。あの周辺、惑星ごと消滅したぞ」
「そりゃひどいな……」
ろくでもない生物だらけだったが絶滅したのか。
少し哀れである。
「それだけではすまぬ。あの辺の惑星は全滅したじゃろうな。もう人は住めぬ」
「うわあ……」
環境保護とかそういうレベルではない。
丸ごと絶滅である。
人がいないとこでよかった。
「ふふふん、それはいったん置くとしてだな。婿殿なにか気づかぬか?」
嫁ちゃんはその場でくるくる回った。
少しふっくらしたような……。
太ったんじゃなくて……おう。
「成長した?」
「ふふふ、背が高くなって胸も大きくなったのじゃ!」
「おおー!」
パチパチ拍手しとく。
嫁ちゃんはドヤ顔である。
「成長痛は?」
俺も膝とかスネとか痛かったな。
「きついのじゃ……」
だろうね。
「暖かくしないとね。ほれ、添い寝するかね」
ベッドの布団をめくる。
いそいそと嫁ちゃんが入ってきた。
うーん幸せ。
するとドアが開いた。
「レオ、来たよ」
クレアである。
俺らを見る。
「ごめん、邪魔しちゃったかな?」
「クレア! 違うのじゃ!!!」
あらま、まさかの嫁ちゃんが否定するやつ。
「いやだって二人は夫婦なんだし。別に恥ずかしがらなくても」
「いやそうなんじゃけど! なんか恥ずかしいのじゃ!!! 婿殿も笑うな!!!」
いやだって孤立してるのに余裕あるじゃない。
それを思うと笑いがこみ上げてくる。
「少佐殿! 来たであります!!!」
「おい、ワンオーワン待てって!」
いつものワンニャンコンビがやって来る。
そこについ来るのは細マッチョの金髪。
「姫様お待ちください!!!」
「少佐殿! 紹介するであります! ジョルジュであります!」
ジョルジュって誰よ?
そう思って考えたら捕まってた共和国の人だわ。
ヒゲ面の人。
ヒゲ剃ったらこんな感じか。
「少佐殿には姫様ともどもたいへんお世話になり……」
執事っぽい感じである。
ワンオーワンは「姫様」と呼ばれてるらしい。
うーん、一夜にして姫様になったな。
本人はあまりわかってないようだが。
これで領民持ちである。
タチアナはそれを見てゲラゲラ笑っていた。
いやいやタチアナくん。
君も近いうちに領民持つ身だぞ。
「なんだよレオの兄貴」
最近、タチアナは俺の事を「レオの兄貴」と呼ぶようになった。
「お兄ちゃん」とか「にいにい」とか「お兄様」とかならいいのに。
相変わらず残念な奴め。
俺も同じなんだけどな。
とりあえず残念な生き物同盟として頭なでておこう。
「レオってタチアナちゃんに甘いよね……」
「そうか?」
なでなで。
「さわんな!!! うざい!!!」
シャーッ! された。
「自分はなでて欲しいであります!!!」
はいはい、いい子いい子。
君は素直だから得だなあ。
「えへへへへー」
こうして俺たちは孤立した時間を休暇と割り切って楽しむことにしたのである。




