第二百六十七話
回収されて人質の皆さんは医務室直行。
やっぱり感染症だった。
俺たちも全身洗浄してから薬を注射した。
お茶でも飲もうかなと思ったら、そのときがやって来た。
嫌な予感がする間もなかった。
だって突然、惑星級のゾークがポップしたから。
いやポップでもなんでもないだろう。
だってゾークは帝国で使用禁止になってるワープ装置を持っているのだ。
可能性が塵芥程度あるのはわかっていたのだ。
完全に俺たちの油断だろう。
でもさ、惑星級を使い捨てにするなんて普通思わないわけよ。
だって前の惑星級と出てくる惑星級は同じスペックだけど別の個体なわけで……。
一度ミンチにして再構成された個体なのだ。
それが同じ動きをしてくれるわけがない。
だがゾークはできるのだ。
俺たちとの価値観のかい離が激しすぎる……。
巨大なゾークが現われた瞬間嫁ちゃんの声が戦艦内に響いた。
「皆の衆!!! 戦闘配置につけ!!!」
嫁ちゃんの声で俺たちのスイッチが入った。
オレは医務室で着替えたばかりのジャージ姿で人型戦闘機の搬入口を目指す。
殺戮の夜は使えなくても標準機で出ればいいさ!
「ちょ、みんな! 待ってげぶら!!!」
医務室でパンツを上げてたイソノがコケて壁に頭をぶつけた。
芸術点高いな。
「先行くぞ!」
「みんなのばかああああああああああああああ!!!」
イソノを置いて俺たちは行く。
「嫁ちゃん! 今どうなってる!?」
通信すると嫁ちゃんがまくし立てる。
「惑星級のゾークがやってきた! 今逃げ……嘘じゃろ。惑星級ゾークが! 惑星に突っ込んでいく……」
あん?
惑星同士の衝突ってこと?
いや俺たちがいるときならまだしも……。
衝突の衝撃を考えると……あ、死ぬわ。
天体衝突の衝撃を計算して……。
おうふ! こんな近いとこいたら死ぬわ!!!
「惑星級ゾーク! 超高圧のエネルギー反応あり!!!」
「じ、自爆か!!! 各員衝撃に備えよ!!!」
クソ!
その発想はなかった!!!
スケールで負けた!!!
まさか惑星級を捨て駒にしてくるなんて!!!
惑星級のタンパク質量考えただけでも割に合わねえぞ!!!
ド畜生が!!!
俺は床に伏せた。
【ジェスター! 賢者モード発動しますか!!!】
システム音声が知らせる。
「助かるなら発動でもなんでもしろ!!!」
【賢者モード発動。ジェスター、タチアナとリンクします】
「くそ! 回避が間に合わぬ!!! このまま死んでたまるか! 妾は! 婿殿と生きるのじゃ!!!」
「おい! レオの兄貴! なんかアタシ光って!!! どわああああああああああッ!!! なんじゃこりゃあああああああああッ!!!」
タチアナからの通信が悲鳴で切断される。
【ジェスター、アリッサとリンクします】
「なんでもいいから速く!!!」
「レオ! 私の体が体が光って……ちょ、力が吸われる!!! エッジ助け……」
ぷつんと通信が切断された。
「タチアナ、アリッサ両名、意識を失いました。ジェスターの力を使います」
す、吸われるううううううううううううううう!
なんじゃこりゃああああああああああああああッ!!!
力がどこかに吸われていく。
【亜空間の扉を開きます!】
急にSFなの来た!!!
そういやタチアナが前にやってたな!
それのすげえやつか!
そしてその瞬間が来た。
惑星級が爆発した。
衝撃を喰らえば艦隊ごと全滅する。
そのくらいの衝撃だ。
【ワープします!!!】
未だに人類ができないヤツだー!!!
いやワームホール的なものを利用した短距離のものはあるんだけど、亜空間に入る往年のSFチックなのはできてない。
そうワームホールに入ろうとしてバラバラになるのが前のワープ装置らしい。
うむわからん。
前のワープ装置はグリッジ利用したデスル●ラと考えればいいのだろうか?
余計なことを考えてたらボンッと音がした。
空間がサイケデリックに歪む。
七色の光りが乱反射した。
これ空間が歪んで……紫色が目に痛い。
「目がー! 目がああああああああああッ!」
俺は目を押さえた。
「おえええええええええええええええええッ!!!」
中島は耐えられなかったらしくその場で吐いた。
女子たちの悲鳴も聞こえる。
か、体に悪い!!!
「れ、レオ! 生きてる!?」
クレアはまだ意識を保っていた。
「たぶん!」
「もう……だめ」
倒れるクレアを俺は受け止める。
なんだこの空間!?
人間が生きられる環境じゃねえ! 知覚的に!
頭がぐあんぐあんする。
【亜空間脱出します!】
「はやくしてえええええええええッ!!!」
艦が宇宙空間に放り出された。
「全力停船せよ!!!」
嫁ちゃんはこの最中でも起きていた。
戦艦が慣性でぐらぐらまわる。
いやトマスたちの船や他の諸侯の船もだ。
どれもが気合で停船する。
嫁ちゃんの戦艦もなんとか停船できた。
あ、よかった。
と思った瞬間、視界が揺れた。
いやずっと揺れてるんだけど、今回は俺が倒れた。
「れ、レオ! 大丈夫!? バイタル表示がレッド! ちょっとしっかりして!!!」
「クレア! 注射器持ってきた!!!」
ナノマシンを注射される。
ここまでしか憶えていない。
気がついたら医務室だった。
「力を使い過ぎて心停止したんだよ!」
ケビンがぷんすか怒っていた。
「でも助かったよ。今回ばかりはダメかもって思ったよ」
「タチアナとアリッサは?」
「みんなレオほどひどくないよ……一度心停止したんだからね! でもヴェロニカちゃんは……」
なにそれやめて。不穏なのやめて。つか俺、また死にかけたの!?
「倒れて入院したよ。脳を過剰に使ったんじゃないかって。ほらヴェロニカちゃん、ボクらと違って体小さいから……」
「ってことは無事?」
「うん過労みたいな症状だって。あと士官学校だとイソノくんが頭切ったくらいかな。クルーも笑える程度の怪我みたい」
「本人かどうかの検査は?」
これが一番怖い。
気がついたら別人でしたーとか笑えない。
「問題なし。全員本人だよ」
よかった。
「えっとヴェロニカちゃんからの公式発表。ワープは二度とやるなだって」
「うん! 死ぬからやらない!」
こうして俺たちは難を逃れたわけである。
ワープ二度とやらね。




