第二百六十五話
壁二枚ぶち抜き。
誘導に従わない俺に業を煮やしたゾークが襲いかかってきた。
絶対に思い通りになんかしてやらねえ!!!
俺は剣を抜く。
もうね、愛機の塗装黒焦げだわ、壁ぶち抜いたときに端っこ曲がるわ。
いや毎回大破してるんだけどさ。
でもさ、ここまで酷い目にあわされてると思うとさすがにムカつくよね?
だから紳士でいるのはやめた。
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
「うるせえ!!!」
虫が鋭い足を突き刺そうとしてくる。
でもね、動きが直線的すぎる。
俺の方が速い。
俺はよけてから足に斬りつけた。
剣は足を切断できた。
カニや絶望と違って動作の起こりを感知できない。
つまり中に人間は入ってないだろう。
断面はグロいから見ないのが吉と。
虫は足が多くて軽いから速いわけでな。
だから外の虫は速かったけど人型戦闘機には刃が立たなかった。
それと比べて敵はこれだけデカくて壁ぶち破るくらいパワフル、つまり軽いわけがない。
俺より遅い。
足は細いから切断も可能。
ひゃっほー。勝ち筋見えてきたぞ。
と、油断した瞬間、顔部分が赤く光った。
ドンッとなにかを吐いてきた。
「ひゃっほい!」
俺は慌ててよける
酸か?
蟻酸みたいなやつか?
いや違う。
普通にプラズマ砲だ。
「こいつプラズマ砲撃ってくるぞ!!!」
「隊長、カニと同じだね! あははは! 面白れえや!!!」
メリッサが刀で斬りまくる。
メリッサはこういう相手に強すぎる。
俺も見習わなきゃ。
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
敵が叫んだ。
プラズマ砲!
「だりゃあああああああああああッ!!!」
よけて間合いをつめ肩口に剣を叩き込む。
痛覚はないのか足が俺めがけて振り下ろされた。
俺は一歩踏み込んで反転、背中で体当たり。
格ゲー定番! 鉄山何たらじゃあああああああああ!!!
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
俺が思うよりも威力は凄まじかったようだ。
敵は壁をぶち抜いて元いた部屋まで飛んでいく。
「た、隊長……ふつうさ、本番でそれやるか!?」
「一番効きそうなやつを選んだのだよ」
フッ……武術家としての俺の基礎技術は未だ未熟。
(つうかそもそも俺は軍人であって武術家ではない)
だが俺にはこの器用さがある!!!
「オラ! 来いよ!!!」
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
敵は痛い目にあって学習したのか中々近づいてこない。
ざまああああああああああ!!!
「レオ! 人質になってた人たちを解放した! 安全な場所……というか区画の隅に誘導してる!」
エディが地味な活躍を見せてくれた。
相変わらずかゆいところに手が届くタイプの男である。
偉い!!!
「こっちは戦ってる!」
敵が俺に突っ込んできた。
だけど横からクレアの機体が……あ、ドロップキック。
高いドロップキックが敵にぶち当たる。
そのまま敵を踏み台にしてクルッと回転して着地した。
なんという運動性能……。
さすがステゴロ仕様。
俺もあんな感じにカスタマイズしようかな。
敵は意識の外から攻撃を喰らったのか動かなかった。
「レオ! チャンスだよ!」
おしゃー!!!
どうだ! ゾークよ!
これが愛の力だ!!!
卑怯? 知らない子だなあ!(ニチャア)
「成仏しろよ!!!」
俺は剣で敵を突き刺した。
当方にもゲーミング坊主への信仰心は存在しないのではあるが、それはそれ、これはこれ。
胸の辺りに急所があったようですぐに動かなくなった。
メリッサはもっと簡単に始末していた。
手足を切って、頭も斬り落とす。
「絶望とか肉とか惑星級とかサリエル相手にすると……こいつ格下だよね」
ボソッとつぶやくとメリッサが笑う。
「あはは! さすが隊長! そう思ってるの隊長だけだよ!」
「そうなの?」
「うん、俺たちさ、隊長に追いつくために必死だよ~。だって隊長は帝国最強のパイロットなんだから!」
「カトリ先生には毎回ボコボコにされるけどね」
「あはははは! カトリ先生だって帝国最強の剣士なんだから! 先生ってうちの親父より強いからね……」
「レオは特別だよ」
クレアがそう言いながらこちらにやってきた。
「だね! レンの実家で戦ってたころは隊長より俺の方が強かったのに……もう勝てる気しないよ」
メリッサがしみじみ言った。
まるで軍隊入ったヤンキーが更正して帰ってきたかのように……。
メリッサの中で俺はそういう認識!?
「そんな顔しないの。メリッサだってほめてるんだから」
クレアが笑った。
「はいそこ!!! イチャイチャしてるのはいいんだけどさ! こっち手伝って!!!」
中島が泣きそうな顔で通信してきた。
苦戦してるっぽい。
「もーしかたないにゃー」
後ろから中島と戦ってる敵に斬りつける。
今度は集中できた。
一刀両断。
はっはっは、慌てなければこんなものである。
「旦那様! みんな!!! こっちも!!!」
レンはショットガンを撃ってるがこっちは弾かれてしまってる。
相性問題か!
こっちはメリッサが足を切断。
クレアがハイキックぶち込んで首をもいだ。
最後に俺が飛び込んで一刀両断。
三人がかりなら楽勝。
一対一なら相性問題発生か。
あとは製造コストがかからなければ、こいつはかなり優秀な兵器だ。
実際20体ほどを倒したことから考えても製造コストは低いだろう。
敵を始末し終わると通信が回復する。
嫁ちゃんから通信が入る。
「婿殿! 生きてるか!?」
「生きてる生きてる! 人質助けた! ワンオーワンの準備できてる」
「できてるであります!!!」
ワンオーワンが元気に答えた。
「わかった! 頼む!!!」
「行くであります!!!」
次の瞬間、施設全体が光った。
なんだ!!! 壁に照明が埋め込んである!?
「レオくん! ゾークネットワークを乗っ取り開始。そっちはどうなってる?」
妖精さんが端末に出現した。
「なんか光った!!!」
「たぶん無線使う装置と同じ! ペアリングしてるんだと思う!」
ドンッと施設が揺れた。
「な、な、な、な、な、なんぞ!?」
「ネットワークを乗っ取ったであります!」
ワンオーワンが言った。




